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“あそびをデザインする現場”に学ぶ-グッドデザイン・ニューホープ賞 受賞後プログラムレポート(2)

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ジャクエツの生み出したあそび環境に触れる


本プログラムの最後は、冒頭で登壇した田嶋さんが手がけた「RESILIENCE PLAYGROUND」の遊具がある都立明治公園へ。田嶋さん自らの案内のもと、実際の遊具を目の前にデザインのこだわりや想いが語られました。


20名ほどの参加者と、説明をする田嶋さんこの日は休日で、「RESILIENCE PLAYGROUND」は大勢の子どもたちでにぎわっていた

 

明治公園には3種類の遊具が設置されています。1つ目はトランポリン遊具「YURAGI」。トランポリンでありながら、跳躍の高さではなく揺れ体験に重きを置いた遊具です。医療的ケア児と健常児であそびが分断されないよう、寝たきりの子でも健常児がつくり出す揺れによってあそびを共有できることを目指したと田嶋さんは言います。


ドーナツ型の遊具に寝転がる田嶋さんと、その周りで飛び跳ねる参加者「YURAGI」。揺れる遊びを実践してみせる田嶋さん

 

デザインの細やかな工夫について「寝転がった子と揺れがつながるようにドーナツ型の形にしたり、どの角度からでも遊びに参加できるよう円形にしたりするなど、形にはとてもこだわりました」とコメント。

また、参加者から「遊具のサイズはどのように決定したのか」と問われると、「リアルな話、分解せずに運搬できる限界のサイズがこのサイズでした。部品ごとに分解してよりサイズを大きくすることもできましたが、つなぎ目ができることで分断が生まれてしまうのは避けたかったので、このサイズに決定しました」とコンセプトと実現性の葛藤についてもお話されていました。


遊具の感触を確かめる参加者


2つ目はスプリング遊具「UKABI」。馬型の遊具ではまたがることが難しい医療的ケア児でも揺れを楽しめる浮き輪型のデザインが特徴です。「浮き輪で遊ばせてみたい」という医療的ケア児の保護者の声から着想を得てデザインされました。大人が座ると大きく揺れ、子どもが座ると穏やかに揺れる絶妙なバランスで設計し、手すりなどがなくとも安全に遊べる遊具に仕上げたと言います。


遊具に乗ってみる参加者「UKABI」。自分がどう動いたらどう揺れるのか、どのような揺れを感じるのかを障がいの有無に関わらず楽しめる

 

3つ目は「KOMORI」と名付けられたブランコ。その名の通り球体の中にこもりながら揺れを楽しめ、身長180cmの田嶋さんもすっぽりと収まってしまうくらい大人も子どもも遊べる遊具です。


遊具の前で解説する田嶋さん自分の好きな姿勢で、落下の心配が少なく遊ぶことができる「KOMORI」

 

「ブランコという遊具は、大きな揺れや景色の変化、鎖の音など感覚刺激にあふれた遊具です。医療的ケア児には感覚刺激を痛いと感じ取ってしまう子も多く、どうしたら刺激を和らげることができるだろうと考えながらデザインしました」と田嶋さんは語ります。

大きな揺れを防ぐ底面のストッパー、温度変化や匂いの少ない素材、音の出ないステンレスワイヤーを使用した鎖部分など、できる限り刺激を排除した細かなこだわりについて紹介されました。


遊具の中に入る参加者中に入ってみる参加者。「入口は狭いですが、中は意外と広いんですよ」と田嶋さん

 

プログラムを終えると、多くの参加者が田嶋さんのもとへ。参加者からの「インクルーシブデザインに挑戦するにあたって、制作側のバイアスをなくすにはどうすれば良いか」という質問に、田嶋さんは「バイアスを持っている相手には言葉だけで伝えるのではなく、実際に子どもたちが遊具で遊んでいる様子を動画に撮って見せていました。安全性を危惧している人も実際に医療的ケア児が楽しんでいる姿を見るとみんな納得してくれるんです」と実体験を踏まえて回答。

実際に医療的ケア児たちが遊具で遊んでいる動画も見せてもらい、「こんなに揺れても意外と平気なんですね」と参加者も驚きと納得の反応を見せていました。


参加者同士の交流や成長機会の獲得など、多くのメリットを実感


今回の「デザインの現場」見学会を終えた2名にプログラムの感想をインタビューしました。

1人目は、工学部でデザインを学ぶ大学生の田中快さん。2024年度ニューホープ賞では「BOX+」という新しいピザ箱を提案し、入選しました。


田中快さん田中快さん 千葉大学工学部総合工学科デザインコースに所属

 

――受賞後プログラムに参加して、得られた気付きや学びはありましたか?

私は学部4年生ですが、プログラム参加者には1~2年年上の社会人の方が多く、フリーのアーティストとして活動する方や、会社に所属して誇りを持って働く方、進路に迷っている方など、いろんな人がいます。デザインに携わるなかで、さまざまな生き方があることを知ることができました。

また、「デザインの現場」見学会はジャクエツさんのほかにデジタル庁、コクヨさんの回に参加しました。登壇されたデザイナーのみなさん一人ひとりの、外からでは見えない働き方や信念のようなものに近づくことができたのは、大きな収穫になったと思います。

――受賞者同士の交流などはありましたか?

いくつかプログラムに参加するなかで知り合った方の展示を見に行ったりしました。また、参加者同士、SNSでもゆるくつながっていますね。私は普段、工学部のなかでデザインを学んでいるため「論理」に重点を置いていますが、ここでつながるみなさんはほかの学部や美大出身で、工学部とは異なる視点で作品をつくられているので、とても刺激になっています。

2人目は新卒2年目のグラフィックデザイナー・岩佐小春さん。大学時代の卒業制作をブラッシュアップしたペットボトルのオープナー「Kurutto」を出品し、2024年度グッドデザイン・ニューホープ賞に入選しました。


岩佐小春さん岩佐小春さん 昭和女子大学環境デザイン学部環境デザイン学科卒業

 

――「デザインの現場」見学会に参加して、得られた気付きや学びはありましたか?

田嶋さんのお話を通じて、これからデザイナーというキャリアを歩む上での指針ができたと感じています。特に「3つ以上の居場所を持ちつづける」というお話にはとても感銘を受けました。社会人になっても学びつづけるために、自ら居場所を増やして学びの機会をつくっていきたいと思います。

――これからグッドデザイン・ニューホープ賞に応募しようと考えている人に向けて、メッセージをお願いします

応募費無料で、卒業制作の作品も出せる。グッドデザイン・ニューホープ賞はほかと比べてかなりハードルの低いアワードだと思います。さらに受賞するとたくさんのワークショップやこのような見学会に参加できるのもとても嬉しい特典です。私はこれまですべての受賞後プログラムに参加しており、視野が大きく広がったと実感しています。自分が成長できる機会をゲットできるので、ぜひ応募してほしいです!


2025年度審査委員・田嶋宏行さんより応募者へメッセージ

見学会を開催したジャクエツの田嶋さんは、2025年度グッドデザイン・ニューホープ賞の審査委員でもあります。そこで田嶋さんに、同賞に応募するみなさんへ期待することなどをうかがいました。


田嶋宏行さん


――「デザインの現場見学会」の内容を、受賞者のみなさんにどのように活かしていってほしいと思いますか?

「デザインの現場」見学会では、生き方・働き方を普段の生活とは違った視点で捉えてほしいなと思いながら、アテンドをさせていただきました。「あそび」という視点で課題解決をおこなう仕事はめずらしいと思いますし、ジャクエツ東京本社のあそびのデザインやアートに囲まれた職場環境も刺激が多かったのではないかと思います。

また、私がグッドデザイン賞で大賞をいただいたプロジェクト(遊具研究プロジェクト RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト)は、「遊具と医療」「社内と社外」という“淡い”領域から生まれたもので、そうした在り方やプロセスをお伝えすることで、みなさんが今後、視野を広げ、心地よく生きるヒントとして受け取っていただけたら嬉しいです。

――2025年度のニューホープ賞の審査委員として、応募者にどのようなことを期待しますか?

見学会参加者のみなさんから、ニューホープ賞で受賞した作品について直接お話をうかがい、それぞれの気付きにいたるプロセスや、アイデアを社会へ届けようとする熱量に深く感動しました。どの作品にも「自分らしさ」が色濃く表れており、その個性が多くの対話を生み出し、互いに刺激し合う場となったと感じています。

2025年度の審査委員を務めるにあたり、完成度だけでなく、アイデアの持つ可能性や背景にあるプロセス、そして応募する方の熱意にも注目し、未来へとつながる芽を丁寧に見つけていきたいと思います。

――そのほか、審査委員として今後のニューホープ賞への応募者へ伝えたいメッセージがあれば教えてください。

良い気付きやアイデアが生まれたときは、自分だけのものにせず、ぜひ周囲の人を巻き込みながら磨いてみてください。グッドデザイン賞の受賞者として、私自身も、気付きをまわりの人と共有し、ともに育ててきたからこそ最後まで折れずに走り抜けることができましたし、支えてくれる仲間と楽しみながら取り組めたのだと思います。

「自分らしさ」を大切にしながら、他者と磨き合うプロセスにこそ、アイデアが光る瞬間があり、感動を生む種があるのだと感じています。


普段見られないオフィス内部や先輩デザイナーの体験談、事例見学など盛りだくさんのプログラムで、刺激や発見にあふれた1日となりました。新しいデザイン領域に触れてみたい、もっと広い視野を獲得したいという方は、本アワードをひとつのきっかけとして応募してみてはいかがでしょうか?

文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 撮影:小野奈那子 編集:萩原あとり(JDN)


【開催概要】

■「グッドデザイン・ニューホープ賞」公式サイト

https://newhope.g-mark.org/

応募期間:2025年3月25日(火)~8月15日(金)まで

募集内容:応募者が独自に各種専修専門学校・大学・大学院において創作した作品で、2025年10月31日の本賞受賞発表日に公表できるもの

応募資格:個人またはグループとし、2025年4月1日時点で個人またはグループの全員が日本国内の各種専修専門学校・大学・大学院に在籍しているか、2024年6月1日以降に卒業・修了した者

賞:最優秀賞(1点)表彰状、賞金30万円、記念品/優秀賞(7点程度)表彰状、賞金5万円、記念品/入選(点数制限なし)表彰状

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学生限定!「長谷工住まいのデザインコンペティション」が開催。高校生の応募歓迎

マンション開発を中心とした大手建設会社・デベロッパーの株式会社長谷工コーポレーションが主催する、「第18回 長谷工住まいのデザインコンペティション」。応募対象は高校生・大学生をはじめとした学生で、「集合住宅の新しいあらわれ」をテーマに、2024年11月5日まで建築プランを募集します。都市を構成する重要な要素である、建築の外観(あらわれ)を改めて問う今回のコンペ。審査員には「Dior Ginza」などで有名な建築家の乾久美子さん、同じく建築家の藤本壮介さん、増田信吾さんなど、第一線で活躍する豪華メンバーが並びます。さらにゲスト審査員として、コミュニティやケアの領域で制作、実践、研究、提案を行う文化活動家・アーティストのアサダワタルさんも参加。審査は、1次のアイデアコンペで選出された上位4組が2次に進み、模型の提出・プレゼンテーションを行う2段階方式。最優秀賞1点には100万円、優秀賞3点には各50万円、佳作10点には各10万円が授与されます。9月30日までに応募登録を行うと、昨年の審査の様子を収めた動画を視聴できる特典も。ぜひ、新しい都市の景観を生み出すような集合住宅の「あらわれ」を提案してみてください。
2024年8月1日(木)

KNOCK vol.1 -【結果発表】 デザインノトビラ「KNOCK」メイングラフィック募集

 結 果 発 表 個性豊かでフレッシュな魅力にあふれた作品の数々をご応募いただき、誠にありがとうございました。編集部の審査を経て、見事入選を果たした作品を発表いたします。最優秀賞「感性を刺激する強いノック」中西 達海神奈川大学附属高等学校 2年作品コンセプト“KNOCK”と聞くとドアを叩く様子を思い浮かべるが、それだけではない。私たちは五感で何か強い刺激を感じ取った時、今までにない新しい発想を生み出す。それらの外部からの刺激は、今までの常識や固定概念を打ち砕く自分自身への「ノック」である。この作品ではデザイン性も意識し、リアリティを追求するのではなく平面的な表現になるように作成した。今までの常識を強いノックで打ち砕く迫力を表現した。審査員による講評高校生の若さからくる力強さ、将来に向かって挑戦する情熱や意思が伝わってくる作品。作品のコンセプトが企画の趣旨と合っており、トビラをノックするという難しい表現を逃げずに描けていると思います。「自分がノックする」だけでなく、「外部からの刺激が自分をノックしてくる」という発想は、これからさまざまなものに触れ、感受性豊かに学んでほしいという編集部の思いとも合致しています。また、応募作品は筆や絵画などの具体的な表現が多かった中、本作は「五感」を意識して抽象的に表現されていて、「五感」や「目に見えないもの」をデザインしていくことが増えているデザイン業界にマッチしていると思い、受賞作品に選びました。審査員特別賞「輝きの中へ」山口 紗瑛野沢北高等学校 1年作品コンセプト新しいことや楽しさで満ちた、鮮やかに輝いているデザインの世界に胸を躍らせる気持ちをイメージしました。審査員による講評高校生らしいフレッシュさが魅力の作品です。女の子の瞳や表情からは不安とワクワクが入り混じった様子が伝わり、これから進路を考えようとする高校生のみなさんの背中をやさしく押してくれるのではないかと思います。また、カラフルな色づかいからは、「多様さ」や「未来の可能性」といったイメージが連想され、デザインノトビラが発信するデザイン・クリエイティブ領域の学びのイメージとも合致しており、掲載した際のサイトとの相性の良さも評価につながりました。審査にあたり、受賞作品の「感性を刺激する強いノック」との接戦を繰り広げた本作に、特別に賞を授与いたします。募集要項(募集は締め切りました)出題テーマデザインノトビラ新企画「KNOCK」のメイングラフィック募集この企画の趣旨「高校生のみなさんに、デザインの世界へのトビラをノックしてもらう」という内容に沿った、自由な発想の作品を募集します!「わくわくする気持ち」「将来に向かって挑戦する情熱」「道が開けていく様子」など、前向きで明るいイメージを求めます。賞最優秀賞(1点)Amazonギフトカード3万円分、作品を企画のメインページグラフィックに採用※該当なし(採用作品なし)、あるいは、内容が変更となる場合があります応募締切2024年8月30日(金)15:00までにフォームから投稿※終了しました参加資格下記いずれかに該当する方高校または高等専門学校に在籍している方高校卒業あるいは同等の資格をお持ちで、美大やクリエイティブ系の大学・専門学校等へ進学を希望している、20歳以下の方審査員デザインノトビラ&JDN 編集部美術・デザイン系学校出身のWebエディター4名が担当!日々、日本中のデザインに触れているプロの編集者たちが、あなたの作品を審査します。
2024年7月16日(火)

コンテスト型新企画「KNOCK」スタート!企業が高校生の作品を募集

高校生向けコンテスト型の新企画「KNOCK」とは?「絵を描くことが好き」「アイデアを考えることが好き」「ものづくりが好き」というデザイナー・クリエイターの卵のみなさん!クリエイティブを学び、将来を考える人のための情報サイト「デザインノトビラ」は、そんなみなさんから作品・アイデアを大募集する新企画、「KNOCK」をスタートします。「KNOCK」では今後さまざま企業が不定期にテーマを出題。高校生のみなさんだからこそ生み出せる、フレッシュで自由なアイデアや作品を募ります! 将来を考えるきっかけとして、作品発表の場として、まずは「KNOCK」でデザインのトビラを叩いてみませんか?高校生が「KNOCK」に応募すると、いいことが!あなたの作品が社会に出るチャンス!企業・クリエイターに作品を審査してもらえる!素敵な賞金や賞品がもらえる!応募のしかた募集中のテーマ一覧から挑戦したいテーマを選ぼう!締切までに作品をつくろう!作品応募フォームへの投稿で、応募完了!決まった期日まで、ドキドキしながら結果を待とう……!募集中のテーマ(新着順)ただいま募集は行っておりません。新しいテーマの発表をお楽しみに!これまでに募集したテーマデザインノトビラ(株式会社 JDN)「KNOCK」のメイングラフィック募集(8月30日15:00締切)始まったばかりの新企画「KNOCK」のメイングラフィックを大募集!サイト内で注目を集める、すてきなグラフィック作品を募集しました。最優秀賞(1点) Amazonギフトカード3万円分、作品を企画のメインページグラフィックに採用このテーマの募集要項を見る今後も続々と、このページでテーマを出題していきます!
2024年7月16日(火)
ニュース

大賞は穴吹デザイン専門学校2年生!「日本パッケージデザイン学生賞2023」の入賞作品が決定

公益社団法人日本パッケージデザイン協会(JPDA)が主催する、学生向けのアワード「日本パッケージデザイン学生賞2023」の入賞作品が決定。大賞に選ばれたのは、穴吹デザイン専門学校2年生の綾野裕次郎さんの作品「ボーッと⼊浴剤」です。パッケージデザインの新しい魅力と価値を学生と共に発掘・伝播していくことを目的に開催される「日本パッケージデザイン学生賞」。第2回となる今回は「ひらく」をテーマに、オリジナリティのあるパッケージデザインのアイデアが3カ月間募集され、全国の大学・専門学校から513点の応募がありました。受賞作品のべ29点のうち、大賞に選ばれた作品「ボーッと⼊浴剤」は、開封後は船となる入浴剤のパッケージ提案です。ゴミになる入浴剤の袋を、楽しいものに変えたいと考えた作品です。審査委員からは、「不要さトップクラスの入浴剤のパッケージを一気にプラスにする提案」「捨てることのできるおもちゃという視点でもとても実用的」「夢や遊び心を表現しながらも、社会課題に答えているスマートなデザイン」などの評価を得ましたなお、今回の入賞作品は、2025年5月刊行予定の『年鑑日本のパッケージデザイン』に収録されます。
2023年12月11日(月)