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インタビュー

社会課題に向き合う“新しい才能たち”の視点―ニューホープ賞受賞者対談(1)

2025年度に第4回目の開催を迎える「グッドデザイン・ニューホープ賞」。新しい世代のデザイン活動を支援することを目的にスタートした、公益財団法人日本デザイン振興会主催のデザイン賞です。JDNでは、初回開催時の2022年から「最優秀賞」受賞者へのインタビューを実施してきました(デザインノトビラ転載)。今回は、2022年から2024年の最優秀賞受賞者である奥村春香さん、項雅文さん、猪村真由さんにお集まりいただき、対談形式でお話をうかがいました。【これまでの受賞者インタビューはこちら】奥村春香さん受賞インタビュー項雅文さん受賞インタビューこれからのデザインの可能性を切り拓く3人は、いま何に向き合い、どんな未来を見据えているのでしょうか。今回の対談では、その思いや課題について率直に語っていただきました。プロダクトだけでなく「過程」を評価してもらえた――本日はお集まりいただきありがとうございます!まずは、初回である2022年の最優秀賞を受賞した奥村春香さんから順番に、現在の所属と活動内容を教えてください。奥村春香さん(以下、奥村):NPO法人 第3の家族の代表を務める奥村です。「第3の家族」は家庭環境に悩む少年少女に向けた自立支援サービスを提供しており、現在はWeb事業やイベント事業、社会構築事業などを展開しています。このプロジェクトで2022年にニューホープ賞の最優秀賞を受賞しました。奥村春香 NPO法人 第3の家族 代表。法政大学デザイン工学部を卒業後、LINE株式会社でプロダクトデザイナーを経て現職 項 雅文さん(以下、項):2023年に最優秀賞をいただいた項です。現在は株式会社ディー・エヌ・エーでデザイナーとして活動しつつ、受賞作品の、家で育てるキノコの菌糸体を素材にしたおもちゃキット「MYMORI」の商品化に向けたプロジェクトにも取り組んでいます。項雅文 株式会社ディー・エヌ・エー デザイン統括部でデザイナーとして活躍。武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科卒業 猪村真由さん(以下、猪村):非営利型一般社団法人Child Play Lab.の代表をしている猪村です。私たちは、病気とともに過ごすお子さんを対象にした「遊びの伴走支援プログラム」を運営しています。病院以外の場所で過ごす小児がんのお子さまに特化したお悩み相談・遊びのサポート「アドベンチャー ASSIST」を主たる取り組みとしておこなっていますが、今回のニューホープ賞の最優秀賞は、この伴走支援につながる前段階としての遊びのキット「アドベンチャーBOX」で受賞しました。猪村真由 非営利型一般社団法人Child Play Lab. 代表。慶應義塾大学看護医療学部看護学科に在学中、病児のあそび支援をおこなう医療系学生団体を立ち上げ、チャリティイベントに従事。その活動を発展させる形でChild Play Lab.を立ち上げ、現在にいたる ――2024年12月に受賞したばかりの猪村さんですが、受賞した際の率直な感想を教えてください。猪村:自分たちの歩みやプロセスを評価していただけたように感じてうれしかったです。私自身はデザイナーでもなければ病院に勤めている医療従事者でもありません。「アドベンチャーBOX」は、想いに共感して力を貸してくださったデザイナーや現場の保育士さん、看護師さんたちとのチーム連携で実現してきたものでした。そうした「過程」の部分を認めていただけたのがすごく励みになりました。 アドベンチャーBOX。「べッドの上から冒険を始めよう!」を合言葉に、入院している小学生にあそびという魔法を届けるあそびのスターターキット  猪村:その一方で、「取ってしまった!」という驚きの部分も大きくて(笑)。私は2024年3月に大学を卒業し、そのタイミングで法人登記したばかりで、まだプロダクトになる前のプロトタイプの段階で応募したような状態だったんです。 少しずつ子どもたちのもとへは届いているけれど、これからもっともっとアップデートしていきたいというフェーズでした。だからうれしい気持ちと、ここをスタートラインにしてもっとがんばらないと、という気持ちが両方ありました。――プロダクトだけでなく、活動全体を通しての評価である点はニューホープ賞の特徴かもしれませんね。猪村:そうですね。私たちは、病気とともに生きているお子さんの入院中の支援はもちろん、退院して地域社会に戻っていった後の社会システムのデザインにも取り組もうとしていて。そうしたなか、ニューホープ賞の審査委員の方に「一生をかけた挑戦だと感じました」と言っていただき、私たちの展望まで伝わっていたことに励まされました。プロダクト自体の評価というよりも、その先にどんな未来を描いているのかなど、そこに込めた思いの部分に想いを馳せていただけたのがすごくうれしかったです。現場で働く保育士さんや看護師さんをはじめ、スタッフの皆さんに勇気や自信を与える結果になったと思います。――デザインを通して現状の社会課題に問題提起していく姿勢は、奥村さんと項さんの受賞作品にも通じるかもしれません。奥村:受賞当時を振り返ると、シンプルにものづくりに対するモチベーションが強くて、デザイナーとしてすごく取りたい賞だったのでうれしかったのを覚えています。それから活動を続けていくにつれて、少年少女や家庭環境を取り巻く問題をより強く実感し、現状の社会システムを私たちが改善していかなければいけないと使命感を持つようになりました。家庭環境に問題がありながら、既存制度の支援対象に該当しない「はざまの少年少女」が居場所を見つけるためのサポートプロジェクト「第3の家族」。運営するWeb事業には、社会資源と経験談を集めた情報サイト「nigeruno」、匿名で悩みを吐き出せる「gedokun」などがある 奥村:最近ではこども家庭庁の「こどもの居場所部会」の委員も務めており、制度や政策づくりに関わるようになったのは、大きな変化だと感じています。デザインが大好きで応募した受賞当時の自分は、ここまで想像できていませんでした。項:私は、それまで学生作品としてつくってきたものが評価されたので、これから社会に届けていくための新しいチャレンジがはじまった、という感覚がありました。キノコの菌糸体を素材にしたおもちゃキット「MYMORI」。バイオ素材の現状を見直し、他素材の代替品としない未来の在り方を提案した 受賞が事業を進めていく大きな後押しに――ニューホープ賞を受賞してから大きな反響もあったと思うのですが、それによって事業に対する変化はありましたか。項:私は、賞を取ったことで、「キノコの菌糸体を生かしたおもちゃキット」というものの知名度を上げられたことが一番の収穫でした。デザイン界隈ではない人もおもしろがって購入してくれたり応援してくれたりして、少しずつ届く範囲が広がっていっているように感じています。最近はこの「MYMORI」キットを消費者に届けるためのクラウドファンディングを実施し、目標金額を達成することもできました。より多くの方に届けるためにはまだまだ時間がかかりますが、ニューホープ賞をきっかけに出会った方々の支援がパワーになっています。クラウドファンディングサイト「Makuake」でのプロジェクト 猪村:私はデザインのデの字も知らない看護学生だったので、ニューホープ賞授賞をきっかけにデザイナーの方とお話しする機会を得られたのが新鮮でした。それはものすごく有意義な出会いだったと感じています。私たちは日々お子さんと関わるときに、非言語コミュニケーションの中で子どもたちが紡ぐ思いや感情を受け取り、遊びを通じてコミュニケーションをとってきました。そうした言葉にならないニュアンスをデザイナーの方は丁寧に汲んでくれる感覚があって、そこから広がる未来について一緒に議論できることがとてもよかったと思います。 猪村:奥村さんもそうだと思うのですが、支援者の皆さんからいただく寄付をもとに運営している非営利団体としては、課題の認知含め、解決に向けての歩み自体において、社会の中でどのように接点をつくっていけるのかも大事だと思っています。病気とともに生きる子どもたちのことを決してかわいそうと思って欲しいわけではない。私たちは子どもたちが入院や治療を通じて自分と向き合ってきた時間や、その中で力強く生きようとする彼ら彼女たちの姿に目を向け、培われた感性やそこに秘められた可能性を存分に信じていく、そんな眼差しが社会に芽生えるきっかけにもなればと思っています。デザインの観点から考えることで、より多くの人にこの事業の目指すところを理解してもらえるのではないかと感じています。それこそ、デザインを通じて子どもたちに向き合ってきた奥村さんたちの話も今後じっくりお聞きしていきたいです。奥村:第3の家族が取り組んでいる、家庭環境の狭間にいる少年少女の問題はずっと前から存在していたけど、社会からは認知されていませんでした。というのも、どうしても自己責任論で片付けられてしまう現状があったんです。 奥村:そうした壁があったからこそ私自身もこの問題に取り組むことには不安を感じていて、最初は仲のいい友だちや指導教員にすら打ち明けずにWebサービスを考え、ちょうどいいタイミングでニューホープ賞があったので応募したんです。もしここで評価されたら、将来この問題に取り組んでいっていいんだと自信を持てるかなと。だから、受賞したときは自分の取り組みが社会に受け入れてもらえたように感じて、大きな励みになりました。猪村さんも触れていましたが、審査委員の方々とのコミュニケーションも大きかったです。受賞後も継続的にフィードバックやアドバイスをいただいたり、そのおかげで前に進めていると思います。歴代の受賞者がロールモデル――受賞後の支援プログラム「フォローアップ・ゼミ」では審査委員やほかの参加者と交流する機会があるようですが、その後もつながりが続いているのですね。フォローアップ・ゼミの様子。受賞者や応募者が参加できるプログラムで、応募作品について簡潔にプレゼンし、審査委員からレビューやアドバイスをもらうことができる 奥村:横のつながりで言うと、同じ年に受賞した方にサービス開発をお願いしていたり、みんなでよく展示を見に行ったりしています。そうした、共に歩む仲間ができたのも心強かったです。項:奥村さんが参加された年度の受賞者の方々は私たちの年度の参加者にも積極的にコミュニケーションをとってくださっていますよね。横のつながりとしては、私も同じ年度の受賞者が「MYMORI」プロジェクトのビジネス面を手伝ってくれていたり、ほかの方にも技術面で教わる機会があったりして、うれしい出会いでした。猪村:私自身は、奥村さんや、2023年度に「死んだ母の日展」で優秀賞を受賞された中澤希公さんと交流の機会があり、一歩二歩先でデザインを活用しながらチャレンジしている仲間と出会えたことは大きいなと思います。――奥村さんと猪村さんは、どこで交流する機会があったのですか?奥村:猪村さんが受賞した後の懇親会に参加した際、思いきって声をかけたのが最初でした。もともと私がSNSでChild Play Lab.の活動を知っていて、気になっていたんです。その後も、活動のスタイルや文脈が近いこともあり、同じ助成金に採択されるなど、それ以来お会いする機会が何度もありました。猪村:奥村さんが受賞したのは2年半ほど前になると思うのですが、社会に浸透してみなさんの応援が力に変わってきている姿を目の当たりにして、将来像を見据える際の大きな指針になっています。次ページ:ユーザーとの接点や好循環が生まれはじめている
2025年6月30日(月)
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社会課題に向き合う“新しい才能たち”の視点―ニューホープ賞受賞者対談(2)

ユーザーとの接点や好循環が生まれはじめている――奥村さんと項さんは受賞からそれぞれ1年~2年経ちますが、作品に関する最新トピックがあれば教えてください。奥村:まずWebサービスの方は、AIなども組み込みながらどんどんアップデートしていて、ユーザー数も当時の月利用者3,000人から5,000人まで増加しています。あとは、Webサービスだけでなく制度や仕組みに働きかけるような活動にも積極的に取り組むようになりました。受賞をきっかけにメディアにも取り上げていただき、活動が広がるなかで助成金を受けたり、講演会に登壇する機会も増えてきました。活動の内容自体についても、オンラインだけでなくオフラインの奥行きが出るようになってきています。支援という言葉から連想される枠にとらわれないイベントをやろうと思って、音楽ライブを開催したり、焚き火イベントを実施したりといった活動にも取り組んでいます。音楽ライブの様子。家庭環境問題や支援のことを考えずに、ただ楽しむ場をつくるイベント。少年少女たちの次の一歩に繋がるようなアーティストとの出会いの場でもある 奥村:それができるようになったのは、支援してくださるメンバーやボランティアの方が増えてきたから。かつてサービスを利用してくれていた子どもたちが高校生や大学生になって、「ボランティアをやりたいです!」と連絡してきてくれることも徐々に増えているんです。こうした循環を続けていければいいなと思っています。猪村:そういうお話を聞くと私も勇気づけられます。まさに自分たちもいま関わっている子どもたちが小学生から中学生くらいの年齢です。そうした子どもたちが、これから数年経って病気とともに生きていく過程で、その道のりは決してうまくいくことばかりではないかもしれないけれども、それでも、どんなときもその子らしさを大切に人生を歩んでいるような姿を見られたらいいなと思います。そのサイクルが生まれていくことをすごく楽しみにしています。項: 私は、先ほども言ったようにクラウドファンディングを実施していましたが、消費者向けにPR文を書いたり、広報や宣伝に取り組んだりするなかで「デザイン作品をプロダクトとして世に出すこと」の難しさを実感しているところです。あとは、2024年12月にクリエイティブ・メディアの「知財図鑑」が実施している「知財番付2024」で創造性部門賞(銅賞)を受賞できたのも大きな出来事でした。そこで、技術を活かして新たな可能性を切り開くものづくりに取り組む方々とつながることができ、私たちが使用するバイオ素材の可能性を、改めて実感する機会にもなりました。また、この道の先輩方から多くを学ばせていただくこともできました。項: これまでは、「MYMORI」という作品や菌糸体という素材を今後どのように発展させていくか、自分でも想像がつかない部分もありました。ですが、さまざまな出会いやアドバイスを通じて、自分が歩んでいく道が明確になってきたように思います。「知財番付2024」はニューホープ賞での実績を見ていただけた賞だったので、ありがたく感じています。奥村:私ももともとプロダクトデザインを学んでいたので、学生時代の作品を販売まで持っていくことの難しさと、それに取り組んでいる項さんのすごさがわかります。大学でプロダクトを学んでいる学生のロールモデルになってほしいなと思います。項: ニューホープ賞の受賞後に、大学の指導教員から「生産するのは簡単だけど、実際に売っていくのが一番難しいよ」と言われたことを思い出しました。いままさにそれを実感しているところです(笑)。潜在的な課題に対する価値創造をいかに広げていくか猪村:最近、近しい領域で事業に取り組んでいる友人たちの話を聞いて思うのが、客観的に見たら課題に思うようなものでも、その当事者のお子さんやご家族にとっては、それが“いま”の姿であり日常だからこそ、実は課題として認識されていないことがあるということです。Child Play Lab.や第3の家族の出発点も近しい部分にあるのではないかなと思っています。いわば、課題として社会が気付く前の「潜在的な課題」。自然な形で当事者と出会い、何気ない関わりの中で潜在的な課題を解決していくという過程やそのアプローチがとても重要であり、デザインの力もまさしく活きてくると感じます。その一方で、こうした課題やアプローチはとても曖昧なものだったりもします。顕在化した課題に対するわかりやすい解決策であればあるほど、社会からの共感は得やすい傾向にあり、ある意味ジレンマであると思っていて……ぜひふたりの意見を聞いてみたいと思っています。奥村:それこそニューホープ賞が評価するものは、潜在的な課題に対する価値創造であるものが多いのではないかと思います。これからはそうした視点が重要になってくると思いますが、まだ現状は、何かの事象が発生したあとに仕組みが変わることの方が多いですよね。奥村:そこに対する違和感を覚えている上の世代の方々もいるから、時間はかかりそうだけど、一緒に考えながら社会を変えていく過程にあるのかなと思います。私たちは従来の支援的なアプローチではなく、自然な関わり方を重視することで、「潜在的な課題」の立場にいる子どもたちに向き合っています。オフラインのイベントもそうですし、オンラインでは検索上位で第3の家族にたどり着いてくれるようなサイト設計にも取り組んでいます。猪村さんはどうしてますか?猪村:私たちは、事業として解決していくべき子どもとそのご家族が抱える課題の現状把握に向き合っているところで、ソリューションとしての訴求はまだ大々的にはしていないのが現状です。そのため、なかなか一般的なサイト検索で辿り着くのは難しいと思いますし、届けたいお子さんやご家族が置かれている状況としては、知ってくれたとしても心理的に申し込みまでの一歩が踏み出しにくい状況だと捉えています。最近は、実際に伴走しているお子さんの闘病仲間に紹介いただいたり、病院の先生や看護師さん、保育士さんが直接紹介してくださることによって、少しずつお子さんとの出会いを増やしています。今日も師長さんの好意で病院にチラシを掲示してくださるとのことで、挨拶にうかがってきました。一人ひとりとの関係性を丁寧に育んでいきたいと思っています。奥村:項さんも「消費者向けのPR文を考えている」と先ほど言っていましたが、言葉が重要であると私も感じています。いままでずっとデザインの勉強をしてきたので、福祉系の人に対してもデザイン系の言語で喋ってしまっていたんです。だんだん福祉の言語もわかってきたけれど、逆にそっちに寄りすぎるとデザイン系の領域でコミュニケーションが取りにくくなったりもして。行ったり来たりしながら試行錯誤しているところです。多数の視点を揺れ動きながら進んでいくこと奥村:これまでの話を踏まえて、学生時代といまの自分で変わったことがあるかをみなさんに聞いてみたいです。私はいままでは本当にデザインが大好きだったけど、最近は福祉や経営のことも学ばないと進んでいけないことに気づいて(笑)。でも本当はずっとデザインだけやりたい自分もいたり……その狭間にいるんですよね。項: その気持ちはすごくわかります。クラファンをはじめたことで広告について勉強したり、その都度いろいろ学ばないといけないことは多い。将来的に誰か専門家を巻き込んでもいいと思うけど、最初は全部自分で経験したほうがいいのかなとは思ってがんばっています。デザイナーがデザインだけしていると、その業界の中に閉じ込められてなかなか外に広げていけないと思っています。ニューホープ賞の受賞は社会とのつながりが増えるチャンスでもあったし、今後必要なスキルは一つずつ習得していければいいのかなと。奥村:ちゃんと一つひとつを勉強として考えられていてすばらしい……。項: 広告を投げてみたところ、最初は全然届かなくて苦労した場面もありました。そのときは所属する会社で広告に詳しい同期に教えてもらったりしました。その過程で勉強になったことのほうが多かったなと思います。奥村:猪村さんは何か心理的に変わった面はありますか?猪村:あんまり変わってないかもしれないですね。デザインを専門として学んでいないことも、ある意味強みとして生きているのかなって思います。私が一貫して大事にしているのは、「純度の高い自分でいること」です。「アドベンチャーBOX」で遊ぶこどもたちと 猪村:ひとりでも多くの子どもとご家族に届けたいという思いもあるので、より仕組みに落とし込んでいけるよう思考していきたいと思いつつも、まずは、目の前にいる子どもたちから発せられる力強さや目の輝きにきちんと心を向けて、その子がその子らしく過ごせるようにという願いと共に歩んでいくことを大事にしています。うまくいくことばかりではないけれども、理想と現実の境界をとかしていく力はデザインが持つ大きな強みだと感じているので、両方の視点を取り入れていきたいと考えています。奥村:未来を見る視点と目の前のユーザーを見る視点ってすごく重要で、私もそれは行ったり来たりすることが大事なのかなと思います。私たちの活動は社会に新しい価値観をつくろうとしていることだから、すぐに変わるものではないかもしれない。でも、いま届いているユーザーには少しずつ変化が起きているかもしれないから、その母数を少しずつでも増やしていけたらいいなと思います。項: ユーザーの反応を見ながらブラッシュアップしたり修正したりし続けていくことが大事なのかなと私も思っています。ニューホープ賞の受賞はゴールではなく、社会との接点を持つスタート地点であるということが、改めておふたりの話を聞いていて明確になりました。焦らずに、自分の考えに向き合ってほしい――同じ志を持った仲間がいる心強さが伝わってくるお話ばかりでした。2025年度のグッドデザイン・ニューホープ賞が応募受付中なので、最後に、応募しようか迷っている方々にアドバイスやメッセージをお願いできますか。猪村:評価されるためとか賞を取るためというだけでなく、いまある自分の内側の思いを根っこから問い直し、他者に伝えるきっかけにしてほしいなと思います。一般的なコンペやコンテストって、ある意味「こういうものが望まれるよね」という最適解を目指して自分の思いをそこに収斂させていく部分もあると思うんです。それはニューホープ賞のあるべき姿とはおそらく違うところではないかと感じています。この賞をいただいたときに、審査委員の方々から根っこにある思いが伝わったとも言ってくださり、審査委員の方々がまっすぐ応募者に向き合ってくださる姿勢に驚いたんです。だからこそ、たとえ受賞にいたらなくても、自分と向き合ったプロセスは将来の糧になると思うので、全力で応募してほしいですね。私は応募前に審査委員のメッセージを読み込んで想いを受け取り、その想いに答えるよう自分のありのままを綴りました。ある意味このプロセスこそが審査委員との対話でもあると思うので、ぜひこの賞の目指すところを知った上で応募するといいのかなと思います。項: とても共感します。まず自分が本当にやりたいことをじっくり考えて、それをアウトプットすることが大事かなと思っています。誰かの真似ではなく、いま流行っているからという動機でもなく、自分の文脈でものづくりに取り組んでほしい。そこには必ず価値があると思います。先ほども話していたように、私たちのようなデザイナーは社会の中で新しい存在なのかなと思っています。そして、毎年新しい受賞者が出ることによって、同じ価値観を持つデザイナーがこれだけいるんだと世の中に伝わっていくきっかけになるはず。だから、素晴らしい人たちがもっともっとこの賞に応募してきて、みんなで一緒にいいデザインを広めていけたらいいなと思っています。奥村:おふたりのお話に共感しつつ、あとは「焦らないでいいよ」とも伝えたいですね。学生時代は課題とか賞とかがいっぱいあって進路を考えたりするなかでもクラクラすると思うんですけど、焦って応募するのではなくて自分との対話を一番に大切にしてほしいです。久しぶりに展示会に行ってみるとか、ちょっと本を読んでみるとか、自分に余白をつくりつつ、そこで見えてきたものを表現していくといいのかなと思います!文:原航平 撮影:井手勇貴 取材・編集:萩原あとり(JDN)
2025年6月30日(月)
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レポート

“あそびをデザインする現場”に学ぶ-グッドデザイン・ニューホープ賞 受賞後プログラムレポート(1)

2025年8月15日まで作品を募集している「グッドデザイン・ニューホープ賞」。同賞の特徴のひとつが、受賞者にさらなるスキルアップとネットワーキングの機会を提供する「受賞後プログラム」です。今回、JDN編集部はそのひとつ、プロのデザイナーの活動を学ぶ「デザインの現場」見学会を訪問。受賞を経てますます活躍が期待されるみなさんは、いま現場で何を学び、吸収しているのでしょうか?参加者のみなさん、そして今回、見学先として協力され、2025年度審査委員も務める株式会社ジャクエツ・田嶋宏行さんのコメントともに、その最前線をレポートします。多彩な受賞者向けプログラムグッドデザイン・ニューホープ賞は、将来のデザイン分野の発展を担う新しい世代の活動支援を目的として2022年にスタートした賞。大学や専門学校などに在学中の学⽣や、卒業・修了直後の新卒社会人を対象に「優れたデザイン」を選び、推奨しています。本アワードの特徴は、デザインを評価・顕彰するだけでなく、受賞後の研修・共創機会の提供にも力を入れていること。受賞者同士の交流会や審査委員と直接対話できるフォローアップ・ゼミ、デザインの解像度を深めるワークショップなど、さまざまな受賞者向けプログラムを開催し、デザイン人材のスキルと視座の向上を支援する多様な機会を提供しています。「デザインの現場」見学会も、数ある受賞者向けプログラムのひとつ。普段は接点のない企業のデザイン・スタジオなどを訪問し、直接話を聞けるプログラムです。今回訪問したのは、幼児向けあそび環境づくりのトータルソリューションカンパニー・株式会社ジャクエツの東京オフィス「JAKUETS TOKYO MATSUBARA」。「あそび」という領域で同社のデザイナーが実際にどのような活動をおこなっているのか、どのような環境から「あそび」が生まれているのか。事例紹介や館内ツアーを通して、参加者の感性を刺激するきっかけとなった1日を紹介します。あそび環境をデザインする企業・ジャクエツを知る当プログラムのはじまりは、JAKUETS TOKYO MATSUBARA 7階のギャラリースペースから。壁一面に並ぶジャクエツが手がけたユニークな遊具の模型が受賞者たちを出迎えます。はじめに、同社でパブリックスペース設計を担当する設計士の澤村宏さんが登壇し、ジャクエツの歴史や事業、理念について説明がありました。澤村宏 一級建築士。株式会社ジャクエツ 執行役員、パブリックスペース設計部長を務める 福井県敦賀市に本社と自社工場を構える株式会社ジャクエツ。1916年に幼稚園や保育園を設立したことをきっかけに、保育教材や教具、制服の製造・販売事業を展開してきました。現在では子どもの教育を通じた地域課題や社会課題の解決へと事業領域を広げています。あそびの環境をデザインすることで、未来を担う子どもの力を伸ばしていく。そんな想いが込められたスローガン「未来は、あそびの中に。」の紹介とともに、あそびを生み出すオフィス環境やあそびが集まる公園づくりの事例について語られました。「JAKUETS ENTRY BOOK」より、これまでに手がけた製品・デザインの一部 会社説明の最後にはジャクエツのブランドムービーを鑑賞。ムービーのキーメッセージである「あそびで100年先を動かす」を踏まえて、澤村さんは「100年先の未来から来たというつもりで、私たちは常に未来を見据えたあそびを提案しつづけます」と力強く締めくくりました。先輩デザイナーの体験談と参加者に向けたアドバイス続いて登壇したのは、同社の遊具と遊び場のデザイナー・田嶋宏行さん。デザイナーとしてのアドバイスや自身が手がけたデザイン事例を、参加者のみなさんにお話されました。田嶋宏行 デザイナー。株式会社ジャクエツ スペースデザイン&パブリックスペース開発課主任を務める 田嶋さんは2015年にジャクエツに入社し、遊具や遊び空間のデザイン・設計を担当。遊具や公園をデザインし、グッドデザイン賞やキッズデザイン賞など数多くの賞を受賞しているデザイナーです。そんな田嶋さんが仕事をする上で大切にしているのが「3つ以上の居場所を持ちつづける」ということ。会社以外の場所に飛び込むことで、幅広い視点を持つことができ、ストレスの分散にもつながる。これからデザイナーとして世に出る参加者に向けて、10年間経験を積んだからこそのリアルな視点からアドバイスがありました。例えば、事例として紹介された「RESILIENCE PLAYGROUND」は、まさに会社以外の居場所から生まれたプロジェクト。デザインスクールで知り合った紅谷医師が立ち上げたプロジェクトで、田嶋さんはデザイナーとして医療的ケア児向け遊具の開発に参画。遊びたくても遊べない医療的ケア児の課題や、フィールドワークで得た気づき、遊具をデザインする際の細やかな配慮など、臨場感あふれるお話に参加者は熱心に耳を傾けていました。田嶋さんは「障害の有無にかかわらず、実はみんな自分なりのあそびを持っているんだと、遊具で遊ぶ医療的ケア児の子どもたちを見て感じました。しかし、大人の先入観や寛容でないあそび環境が、彼らのあそびを妨げてしまっていたんです」とプロジェクトを振り返ります。「世の中の“しょうがない”を更新し、誰もが好きなように遊んで幸せを感じられる世界をつくれたらいいなと思います」また、プロジェクトで得た学びについて、「今回『遊びたくても遊べない』という遊具から遠いテーマに向き合ったことで、健常児や大人など多くの人を包括した遊具をつくることができました。みなさんもいまいる環境から遠く離れた場所に足を運んでみると、結果としていろんなものを包括した生き方ができるんじゃないかと思います」と、参加者へのアドバイスとも紐づけてお話されました。未来のあそびが生み出されるオフィス空間を見学ジャクエツで活躍する2人からのお話の後は、2班に分かれてのJAKUETS TOKYO MATSUBARA館内ツアー。社員の方による案内のもと、2階から7階まで1フロアずつ見学しました。2階と4階の執務スペースは、大型モニターで互いの様子を見ることができ、会話もできる仕様になっています。実際に2階と4階で会話している風景を見せてもらい、シームレスにコミュニケーションが取れている様子に参加者のみなさんも驚きの表情を浮かべていました。執務スペース。ジャクエツの社員の方が普段の仕事の様子について説明 3階のオフラインフロアは、社内イベントや昼食の際によく利用されるスペースで、ブランコやロープを使った遊具が設置されたなんともジャクエツらしい空間です。参加者自ら遊具で遊んでみるなど、ジャクエツのあそび空間を堪能しました。オフラインフロア。仕事を離れ、気分転換ができる空間 キッチンスペースに設置されたブランコで遊ぶ参加者 5階の倉庫スペースでは、遊具の試作品やまだ世に出ていない製品サンプルなどがところせましと並んでおり、普段目にすることのないリアルな現場を体感。倉庫スペースを案内する澤村さん そして6階は、通常のオフィスには珍しいホテルフロア。福井本社や全国の支社から出張に来た社員が宿泊することができます。参加者たちは実際に家具や設備に触れながら、興味津々な様子で部屋を見学。実際に足を運んでみることで、デザイン現場のリアルな雰囲気や働く空間にも宿ったジャクエツらしさを知る機会となりました。ホテルフロア、宿泊部屋が並ぶ廊下 部屋の内部に興味津々のみなさん 館内ツアーの間も、案内役である澤村さんのお話に聞き入る参加者のみなさんが印象的でした。この後は、新宿にある都立明治公園へと移動。実際にジャクエツの遊具が設置されている現場を見学します。次ページ:ジャクエツの生み出したあそび環境に触れる
2025年6月16日(月)
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レポート

“あそびをデザインする現場”に学ぶ-グッドデザイン・ニューホープ賞 受賞後プログラムレポート(2)

ジャクエツの生み出したあそび環境に触れる本プログラムの最後は、冒頭で登壇した田嶋さんが手がけた「RESILIENCE PLAYGROUND」の遊具がある都立明治公園へ。田嶋さん自らの案内のもと、実際の遊具を目の前にデザインのこだわりや想いが語られました。この日は休日で、「RESILIENCE PLAYGROUND」は大勢の子どもたちでにぎわっていた 明治公園には3種類の遊具が設置されています。1つ目はトランポリン遊具「YURAGI」。トランポリンでありながら、跳躍の高さではなく揺れ体験に重きを置いた遊具です。医療的ケア児と健常児であそびが分断されないよう、寝たきりの子でも健常児がつくり出す揺れによってあそびを共有できることを目指したと田嶋さんは言います。「YURAGI」。揺れる遊びを実践してみせる田嶋さん デザインの細やかな工夫について「寝転がった子と揺れがつながるようにドーナツ型の形にしたり、どの角度からでも遊びに参加できるよう円形にしたりするなど、形にはとてもこだわりました」とコメント。また、参加者から「遊具のサイズはどのように決定したのか」と問われると、「リアルな話、分解せずに運搬できる限界のサイズがこのサイズでした。部品ごとに分解してよりサイズを大きくすることもできましたが、つなぎ目ができることで分断が生まれてしまうのは避けたかったので、このサイズに決定しました」とコンセプトと実現性の葛藤についてもお話されていました。2つ目はスプリング遊具「UKABI」。馬型の遊具ではまたがることが難しい医療的ケア児でも揺れを楽しめる浮き輪型のデザインが特徴です。「浮き輪で遊ばせてみたい」という医療的ケア児の保護者の声から着想を得てデザインされました。大人が座ると大きく揺れ、子どもが座ると穏やかに揺れる絶妙なバランスで設計し、手すりなどがなくとも安全に遊べる遊具に仕上げたと言います。「UKABI」。自分がどう動いたらどう揺れるのか、どのような揺れを感じるのかを障がいの有無に関わらず楽しめる 3つ目は「KOMORI」と名付けられたブランコ。その名の通り球体の中にこもりながら揺れを楽しめ、身長180cmの田嶋さんもすっぽりと収まってしまうくらい大人も子どもも遊べる遊具です。自分の好きな姿勢で、落下の心配が少なく遊ぶことができる「KOMORI」 「ブランコという遊具は、大きな揺れや景色の変化、鎖の音など感覚刺激にあふれた遊具です。医療的ケア児には感覚刺激を痛いと感じ取ってしまう子も多く、どうしたら刺激を和らげることができるだろうと考えながらデザインしました」と田嶋さんは語ります。大きな揺れを防ぐ底面のストッパー、温度変化や匂いの少ない素材、音の出ないステンレスワイヤーを使用した鎖部分など、できる限り刺激を排除した細かなこだわりについて紹介されました。中に入ってみる参加者。「入口は狭いですが、中は意外と広いんですよ」と田嶋さん プログラムを終えると、多くの参加者が田嶋さんのもとへ。参加者からの「インクルーシブデザインに挑戦するにあたって、制作側のバイアスをなくすにはどうすれば良いか」という質問に、田嶋さんは「バイアスを持っている相手には言葉だけで伝えるのではなく、実際に子どもたちが遊具で遊んでいる様子を動画に撮って見せていました。安全性を危惧している人も実際に医療的ケア児が楽しんでいる姿を見るとみんな納得してくれるんです」と実体験を踏まえて回答。実際に医療的ケア児たちが遊具で遊んでいる動画も見せてもらい、「こんなに揺れても意外と平気なんですね」と参加者も驚きと納得の反応を見せていました。参加者同士の交流や成長機会の獲得など、多くのメリットを実感今回の「デザインの現場」見学会を終えた2名にプログラムの感想をインタビューしました。1人目は、工学部でデザインを学ぶ大学生の田中快さん。2024年度ニューホープ賞では「BOX+」という新しいピザ箱を提案し、入選しました。田中快さん 千葉大学工学部総合工学科デザインコースに所属 ――受賞後プログラムに参加して、得られた気付きや学びはありましたか?私は学部4年生ですが、プログラム参加者には1~2年年上の社会人の方が多く、フリーのアーティストとして活動する方や、会社に所属して誇りを持って働く方、進路に迷っている方など、いろんな人がいます。デザインに携わるなかで、さまざまな生き方があることを知ることができました。また、「デザインの現場」見学会はジャクエツさんのほかにデジタル庁、コクヨさんの回に参加しました。登壇されたデザイナーのみなさん一人ひとりの、外からでは見えない働き方や信念のようなものに近づくことができたのは、大きな収穫になったと思います。――受賞者同士の交流などはありましたか?いくつかプログラムに参加するなかで知り合った方の展示を見に行ったりしました。また、参加者同士、SNSでもゆるくつながっていますね。私は普段、工学部のなかでデザインを学んでいるため「論理」に重点を置いていますが、ここでつながるみなさんはほかの学部や美大出身で、工学部とは異なる視点で作品をつくられているので、とても刺激になっています。2人目は新卒2年目のグラフィックデザイナー・岩佐小春さん。大学時代の卒業制作をブラッシュアップしたペットボトルのオープナー「Kurutto」を出品し、2024年度グッドデザイン・ニューホープ賞に入選しました。岩佐小春さん 昭和女子大学環境デザイン学部環境デザイン学科卒業 ――「デザインの現場」見学会に参加して、得られた気付きや学びはありましたか?田嶋さんのお話を通じて、これからデザイナーというキャリアを歩む上での指針ができたと感じています。特に「3つ以上の居場所を持ちつづける」というお話にはとても感銘を受けました。社会人になっても学びつづけるために、自ら居場所を増やして学びの機会をつくっていきたいと思います。――これからグッドデザイン・ニューホープ賞に応募しようと考えている人に向けて、メッセージをお願いします応募費無料で、卒業制作の作品も出せる。グッドデザイン・ニューホープ賞はほかと比べてかなりハードルの低いアワードだと思います。さらに受賞するとたくさんのワークショップやこのような見学会に参加できるのもとても嬉しい特典です。私はこれまですべての受賞後プログラムに参加しており、視野が大きく広がったと実感しています。自分が成長できる機会をゲットできるので、ぜひ応募してほしいです!2025年度審査委員・田嶋宏行さんより応募者へメッセージ見学会を開催したジャクエツの田嶋さんは、2025年度グッドデザイン・ニューホープ賞の審査委員でもあります。そこで田嶋さんに、同賞に応募するみなさんへ期待することなどをうかがいました。――「デザインの現場見学会」の内容を、受賞者のみなさんにどのように活かしていってほしいと思いますか?「デザインの現場」見学会では、生き方・働き方を普段の生活とは違った視点で捉えてほしいなと思いながら、アテンドをさせていただきました。「あそび」という視点で課題解決をおこなう仕事はめずらしいと思いますし、ジャクエツ東京本社のあそびのデザインやアートに囲まれた職場環境も刺激が多かったのではないかと思います。また、私がグッドデザイン賞で大賞をいただいたプロジェクト(遊具研究プロジェクト RESILIENCE PLAYGROUND プロジェクト)は、「遊具と医療」「社内と社外」という“淡い”領域から生まれたもので、そうした在り方やプロセスをお伝えすることで、みなさんが今後、視野を広げ、心地よく生きるヒントとして受け取っていただけたら嬉しいです。――2025年度のニューホープ賞の審査委員として、応募者にどのようなことを期待しますか?見学会参加者のみなさんから、ニューホープ賞で受賞した作品について直接お話をうかがい、それぞれの気付きにいたるプロセスや、アイデアを社会へ届けようとする熱量に深く感動しました。どの作品にも「自分らしさ」が色濃く表れており、その個性が多くの対話を生み出し、互いに刺激し合う場となったと感じています。2025年度の審査委員を務めるにあたり、完成度だけでなく、アイデアの持つ可能性や背景にあるプロセス、そして応募する方の熱意にも注目し、未来へとつながる芽を丁寧に見つけていきたいと思います。――そのほか、審査委員として今後のニューホープ賞への応募者へ伝えたいメッセージがあれば教えてください。良い気付きやアイデアが生まれたときは、自分だけのものにせず、ぜひ周囲の人を巻き込みながら磨いてみてください。グッドデザイン賞の受賞者として、私自身も、気付きをまわりの人と共有し、ともに育ててきたからこそ最後まで折れずに走り抜けることができましたし、支えてくれる仲間と楽しみながら取り組めたのだと思います。「自分らしさ」を大切にしながら、他者と磨き合うプロセスにこそ、アイデアが光る瞬間があり、感動を生む種があるのだと感じています。普段見られないオフィス内部や先輩デザイナーの体験談、事例見学など盛りだくさんのプログラムで、刺激や発見にあふれた1日となりました。新しいデザイン領域に触れてみたい、もっと広い視野を獲得したいという方は、本アワードをひとつのきっかけとして応募してみてはいかがでしょうか?文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 撮影:小野奈那子 編集:萩原あとり(JDN)【開催概要】■「グッドデザイン・ニューホープ賞」公式サイトhttps://newhope.g-mark.org/応募期間:2025年3月25日(火)~8月15日(金)まで募集内容:応募者が独自に各種専修専門学校・大学・大学院において創作した作品で、2025年10月31日の本賞受賞発表日に公表できるもの応募資格:個人またはグループとし、2025年4月1日時点で個人またはグループの全員が日本国内の各種専修専門学校・大学・大学院に在籍しているか、2024年6月1日以降に卒業・修了した者賞:最優秀賞(1点)表彰状、賞金30万円、記念品/優秀賞(7点程度)表彰状、賞金5万円、記念品/入選(点数制限なし)表彰状
2025年6月16日(月)
ニュース

著名デザイナーやイラストレーターが講師に。小中高生対象のワークショップ「Summer Studio 2025」がBUGで開催

株式会社リクルートホールディングスが運営するアートセンターBUGが、ワークショップメインのプログラム「Summer Studio 2025『手からうまれる創造』」を2025年7月30日から8月31日まで開催します。小学生から高校生を対象に、アーティストやクリエイターが講師となって多彩なワークショップを実施する同イベント。昨年夏にスタートした「Summer Studio」の2回目となる今回は、グラフィックデザイン、建築、アート、漆工芸など、さまざまなジャンルでの作品づくりを体験できます。メインプログラムとして、中学生・高校生を対象にした特別ワークショップ「マスキングテープで描く名画、名作ポスター」を7月6日、12日、13日の3日間開催。アートディレクター/グラフィックデザイナーの居山浩二さんを講師に迎え、マスキングテープを使って名画を模写し、大型ポスターを制作します。完成作品は7月30日から東京駅のBUGで展示されます。会期中のワークショップにはほかにも、輪島塗沈金師の芝山佳範さん、アーティスト/イラストレーターのとんぼせんせい、グラフィックデザイナー/アートディレクターの中村至男さんや、HAGISO、ミナ ペルホネンが参加します。初出:デザイン情報サイト「JDN」https://www.japandesign.ne.jp/news/2025/06/82468/
2025年6月10日(火)
ニュース

成安造形大学が、ゲーム・アニメーション領域など3つの新領域を開設

滋賀県大津市の成安造形大学が、2027年4月に3つの新領域を開設し、新校舎を完成させる計画を発表しました。社会テーマと芸術の接点を捉え、新しい学びのジャンルの追加や教育・研究の高度化を図る取り組みで、教育理念である「芸術による社会への貢献」の実現をめざしています。開設される新領域は「ゲーム・アニメーション領域」「コスチューム領域」「空間造形デザイン領域」の3つ。ゲーム・アニメーション領域では、ゲームグラフィック、3DCG、アニメーションの3コースを設置し、遊びから「好き」を深める学びを提供します。コスチューム領域では100年の歴史を受け継ぐコスチューム教育を展開し、空間造形デザイン領域では、住環境デザインとプロダクトデザインの2コースで新たな価値を創出する構想となっています。また、2027年3月に完成予定の新校舎を建設。1階は地域実践領域の教室と新しいギャラリー、2、3階は新設されるゲーム・アニメーション領域の教室となります。さらに、「クリエイティブサポートセンター」と「デジタルクリエーションオープンラボ」の新設も計画しています。初出:デザイン情報サイト「JDN」https://www.japandesign.ne.jp/news/2025/05/82064/
2025年5月27日(火)
ニュース

デザイン教育の現在を紹介、「ゼミ展 2025 デザインの学び方を知る」が東京ミッドタウンで開幕

東京ミッドタウン・デザインハブにて、第114回企画展「ゼミ展 2025 デザインの学び方を知る」が2025年5月19日から6月21日まで開催されます。同展は、全国の大学・専門学校の教育課程や研究室で取り組まれている課題内容と学生作品を紹介する企画展で、2018年から継続して開催されているもの。全国の教育機関のゼミやクラスで進行中のさまざまなデザイン領域の課題と作品を通して、現代社会で求められるデザイン・デザイナー像や、将来のデザイン最前線を担う学生たちの課題への取り組み方を紹介する展示となっています。今回の展示では、全国から公募で選ばれた8組11校が参加。通常の課題展示に加え、デザイン教育における国際交流に焦点を当てた内容も展開されます。日本と海外の教育機関による共同課題や、海外の教育機関による滞在制作など、異なる文化や習慣、思考や社会をベースにした多様な学びの形を紹介します。会期最終日の6月21日には、出展する各ゼミが会場に集う交流イベントの開催を予定しています。【出展校】ArtCenter/多摩美術大学、千葉大学/シンシナティ大学、東京都市大学、長岡造形大学、名古屋造形大学、武蔵野美術大学/バンドン工科大学、モナッシュ大学、早稲田大学初出:デザイン情報サイト「JDN」https://www.japandesign.ne.jp/news/2025/04/81609/
2025年4月24日(木)
ニュース

東京大学が、「デザイン」を柱とする新学部「UTokyo College of Design」を2027年9月に開設

東京大学は、2027年9月に新学部「UTokyo College of Design」を開設します。69年ぶりの学部新設となり、マイルス・ペニントン教授(東大大学院情報学環)が学部長を務めます。同学部は学士4年・修士2年の一貫型の教育プログラムで、成績優秀者は5年で修了可能。カリキュラムは「デザイン」を柱とし、造形的・芸術的なデザインだけでなく、銀行や食品流通、交通などの社会システムの在り方を考えるような広義のデザインを学ぶことができます。また、既存の各学部の幅広く専門的な知識を織り交ぜたプログラムも受講でき、デザインの方法論と組み合わせた多様な学びが可能です。入学定員は100人で、そのうち約半数は外国人学生となります。全面英語授業・秋入学が予定されており、1年次には全寮制を採用。2年次以降に「Environment & Sustainability」(環境と持続性)や「Technology Frontiers & AI」(テクノロジーの最前線とAI)など5つのカテゴリーの分野横断的な選択科目が用意されているほか、4年次には最大1年間の「Off-Campus Experience」で、海外留学や企業でのインターンへの参加などが可能です。入学試験は筆記試験を課さずに、世界中から多様な学生が来るようなシステムとなります(概要は2025年7月に発表予定)。学生の募集開始は2026年秋です。初出:情報デザインサイト「JDN」https://www.japandesign.ne.jp/news/2025/04/81378/
2025年4月14日(月)
ニュース

テーマは「つながり」、ワコムが学生向けコンテスト「WCCC CC」を初開催

株式会社ワコムは、学生向けのコンテスト「WCCC CC(ワコムクリエイターズカレッジクラブ・クリエイティブコンテスト)」を開催します。同コンテストは、全国のクリエイティブ分野の教育に取り組む、大学・専門学校・スクール・高等学校を対象とした教育支援プログラム「WCCC(ワコムクリエイターズカレッジクラブ)」の加盟校に所属する学生を対象とするもの。WCCCの新たな取り組みとして、クリエイティブに挑戦する学生たちの表現の場と成長の機会を提供することを目的としています。初開催となる今回は、「つながり」をテーマに、イラスト・グラフィック・3DCGなどのデジタル作品を募集。審査員には、イラストレーターの有田満弘さん、コンセプトアーティスト/アートディレクターの本庄崇さんなど、第一線で活躍するクリエイターを迎えます。募集開始は2025年5月16日。グランプリには液晶ペンタブレット「Wacom® Cintiq® Pro 17」、準グランプリには有機ELペンタブレット「Wacom® Movink 13」が贈られるほか、クリイエティブスタジオ訪問や、プロクリエイターとの座談会などの特典も用意されています。また、優秀作品はワコム主催イベント「コネクテッド・インク 2025」で展示および表彰の予定です。
2025年4月14日(月)
コラム

【卒展レポート】2025年に開催された卒業制作展のレポートを公開中!

「卒展レポート」って?デザイン・アートを学ぶ学生たちによる「卒業制作展(卒展)」を紹介する、デザインノトビラのレポート記事のこと。展示の概要のほか、実際に展示された作品数点を、学生本人による紹介文や画像とともに紹介しています。卒展はその学部・学科の学びを知ることができる、受験生にとっても重要なイベントです。現地に行けなかったという方は、ぜひチェックしておくことをおススメします!「卒展」って?なぜ行くべき? 卒展の魅力を発信する編集部コラムはこちら!https://school.japandesign.ne.jp/article/sotsuten-ikou続々と公開中!卒展レポート一覧(2025年開催分)●2024年度 多摩美術大学 美術学部卒業制作展 大学院修了制作展https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/tamabi-2025●第73回 東京藝術大学 卒業・修了作品展 美術学部/大学院美術研究科修士課程https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/geidai-2025●ICSカレッジオブアーツ第57回卒業制作展https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/ics-2025●阿佐ヶ谷美術専門学校 卒業・修了制作展 2025「星火燎原」https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/asabi-2025●東京工芸大学 芸術学部 卒業・大学院修了制作展 2025https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/tokyo-kougei-2025●2024年度 倉敷芸術科学大学 卒業・修了制作展https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/kurashiki-science-art-2025●明星大学 第8回 明星デザイン 卒業研究展https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/meisei-2025●東北工業大学 産業デザイン学科 卒業制作展 2024https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/tohoku-tech-2025●第55回 文化学園大学 造形学部 卒業研究展https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/bunka-gakuen-2025●富山大学 芸術文化学部 大学院芸術文化学領域 卒業・修了研究制作展 GEIBUN 16https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/toyama-art-design-2025●拓殖大学 工学部 デザイン学科/工学研究科 情報・デザイン工学専攻 第35回「卒業・修了展」https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/takushoku-2025●日本大学芸術学部 デザイン学科 卒業制作展 2025https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten/nihon-20252025年以前の開催分を含めた、卒展レポート一覧はこちら!https://school.japandesign.ne.jp/sotsuten
2025年4月1日(火)
ニュース

専門スクール「バンタン」が札幌校を2026年4月に開校、生徒を募集

株式会社バンタンが、2026年4月に「バンタン札幌校」を開校します。開校するのは、「バンタンゲームアカデミー」「KADOKAWAドワンゴ情報工科学院」「ヴィーナスアカデミー」「バンタンデザイン研究所」などの計4スクール、10部門です。「バンタンゲームアカデミー」はゲームをはじめとしたコンテンツクリエイターの専門スクールで、現場で活躍するプロの講師から業界の最新技術を学べます。「KADOKAWAドワンゴ情報工科学院」は、AIプログラミングやWEBデザインといった最新ITを学ぶ専門スクールです。スタートアップのプロ講師による授業や現場でのインターンなどを通して実践力を身につけることができます。「ヴィーナスアカデミー」は「美」をトータルで学ぶビューティ専門スクールで、ファッション・ヘアメイク・ネイル・エステティック・モデル・インフルエンサーといった分野を総合的に学ぶことができます。「バンタンデザイン研究所」は、デザイン・映像・フォトの分野に特化したデザイン・映像学部と、スケートボードに特化したスポーツ・デザイン学部にて即戦力を育成する専門スクール。講師を務めるのは業界で活躍する現役クリエイターで、今業界で必要とされるスキルを学べます。また、各スクールでは定期的に説明会がおこなわれています。
2025年1月23日(木)
インタビュー

【トビラの先輩インタビュー】笑顔と驚きを届ける"ヒーロー"のデザイン

「遊び」の経験がデザイナーとしての幅を広げてくれる――学生時代のことを思い出していただいて、今の仕事につながっていると感じる学びがあれば教えてください。仕事で3D CADを使うことがあるのですが、大学の授業でしっかり技術を身に付けられたことはとても役立っています。3D CADは空間把握能力に優れているので、平面で描いたものが横からどう見えるか確認したいときなどによく活用しています。学生時代はガンプラ(ガンダムのプラモデル)にハマっていて、よくガンプラのパーツをつくっていました。それで大学3年生のときにCADのコンペに出展させてもらったところ特別賞をいただいて、さらに自信につながりました。――では、おもちゃづくりはそこから始まっていたと言っても過言ではないですね。確かにそうですね。3Dプリンタも学校にあって自由に触れる環境だったので、休日や夏休みに一人で大学に行って誰もいない部屋でのびのびと使っていました。これも最初はガンプラのパーツづくりがきっかけで触りはじめたのですが、最終的にはオリジナルで考えたキャラクターのフィギュアをつくったりしていました。考えてみると、その頃からやっていることはあまり変わってないですね(笑)。――有澤さんはどんな学生でしたか?出席日数もギリギリで、真面目な学生ではなかったと思います(笑)。好きなものに熱中しすぎるところがあって、家にいてもプラモデルや3D CADなど、何かしらにずっと触れてつくっているんですよね。課題もやらなくてはいけないのですが、楽しいこともやめられませんでした。大学の先生たちからも、学生時代はたくさん遊んで、やるときはしっかりやることが大事だと教わったので、メリハリだと思って寝る間も惜しんで遊んでいましたね(笑)。――今の高校生に対して、デザイナーになるためにやっておくといいと思う有澤さんなりのアドバイスがあればお願いします。好きなことに貪欲になってたくさん遊ぶこと、そしてその中でさまざまな経験をすることは将来必ず活きてきます。僕自身そういう部分があったからこそ今の仕事に就いていますし、やることさえしっかりやれば多少ハメを外しても大丈夫だと僕は思っています。もちろん手を動かすことも大切ですが、楽しければ楽しいほどその情報は頭にずっと残るはずなので、高校生のうちはとにかくインプットして自分の中の引き出しを増やしてほしいですね。実際に今の仕事でも、子どもの頃に地元で流行っていたものや遊んだもの、大学時代の楽しかった記憶、それに加えて今現在日常で気になるさまざまなものを総動員してアイデアを考えています。――遊びの引き出しがたくさんあることが役立っているということですね。現在、 お仕事される中で最もやりがいを感じるのはどんな瞬間ですか?自分の手がけたものが形になり、商品化されたときです。休日によくおもちゃ屋に行くのですが、店頭で自分が手がけたおもちゃを手にした子どもを見るととてもうれしいですね。あとは仕事帰りの電車で子どもがお母さんに「これ買って」と言っている光景を見かけることがありますが、その商品が僕の手がけたものだったりすると、うれしくて疲れも吹き飛びます。――最後に、目指すデザイナー像があれば教えていただきたいです。漠然とした答えですが、劇中のアイテムでも玩具でも、やっぱりおもしろいものをつくっていきたいと思っています。おもしろさの中に驚きやかっこよさがある、視聴者や子どもたちの意表をつくような作品がつくれたら最高ですね。文:開洋美 撮影:井手勇貴 取材・編集:萩原あとり(JDN)
2024年12月25日(水)
インタビュー

【トビラの先輩インタビュー】笑顔と驚きを届ける"ヒーロー"のデザイン

デザイン・クリエイティブの学校を卒業し、クリエイターとして活躍する先輩を取り上げる「トビラの先輩インタビュー」。第2回目に登場するのは、プロダクトデザイナーでキャラクターデザインにも携わる有澤英飛さんです。有澤さんは大阪芸術大学でデザインを学び、卒業後、玩具やテレビキャラクターなどの企画・デザインを行う株式会社プレックスに入社。誰もが知るヒーローコンテンツのスーツや武器などのデザインを手がけられてきました。そんな有澤さんに、学生時代からデザイナーとして活躍されるまでのお話を伺いました。子どもの頃からの「好き」が仕事に――有澤さんの経歴と現在のお仕事内容を簡単に教えてください。高校卒業後は大阪芸術大学のデザイン学科で、プロダクトデザインを専攻していました。2021年に新卒でプレックスに入社して、今はプランニング・デザイン部という部署でプロダクトデザインを担当しています。主には取引先のバンダイから発注を受けて、玩具などの企画提案を行っています。――具体的にはどういったものを提案されるのですか?僕はプランニング・デザイン部の「スーパーヒーローチーム」というところに所属していて、ヒーローシリーズものに関連するアイテムの企画提案が中心ですね。例えば番組劇中でヒーローが使用する武器やベルト、剣といった小道具のほか、バンダイのフィギュアや玩具などです。仕事の流れとしては、発注がきたらまずは簡単なデザイン案をチーム内で出し合い、社内コンペを行います。そこで通った案をバンダイとの企画会議に持って行き、細かい調整を経てプレゼン用のデザイン案を作成します。その後、版権元や映像制作会社との打ち合わせを行い、そこでブラッシュアップしたものを精密なデザイン画として描き、造形会社に制作してもらいます。――有澤さんがデザインの仕事を意識されたのは、いつ頃だったのでしょう。意識したのは高校の終わりくらいです。僕は中学、高校とあまり勉強が好きではなく、特に進路の希望もありませんでした。でもアニメを見たり絵を描いたりするのは子どもの頃から好きだったので、デザイン系の大学なら楽しいかもしれないと考えたんです。偶然にも、通っていた高校の図書室の司書の方が大阪芸術大学の出身で、いろいろ話を聞くうちに行ってみたいと思うようになりました。そこで高校2年の終わり頃から、司書の方に教わってデッサンの練習を始めました。勉強は頭に入ってこなかったのにデッサンはとても楽しくて、当時はイラストを描く仕事に就きたいと思っていましたね。――美術予備校には通わずにデッサンを学ばれたのですね。イラストからプロダクトデザインに専攻を変えたのは、何かきっかけがあったんですか?大阪芸術大学では専攻を絞るのに1年間の猶予期間があり、ひと通り学んでみて2年生に上がるタイミングで決めることができます。最初はイラストかグラフィックデザインで迷っていたのですがどちらもしっくりこず、純粋にいちばん楽しいと感じたプロダクトデザインを専攻しました。専攻した時点では実は家具デザイナーに憧れがあり、大学3年生のときに大手家電メーカーのインターンシップにも参加しました。ところがプレッシャーから失敗してしまって。自分が本当に好きなものはなんだろうと改めて考えてみたんです。そのときに、幼少期にアニメのおもちゃやプラモデルが好きだったことを思い出し、憧れよりも本当に好きなものを追求しようと玩具メーカーへの就職を決めました。僕自身子どもも大好きなので、子どもが笑顔になれるものをつくりたいと思ったことも大きな理由です。ヒーロースーツのデザイン案 遊び心を忘れないデザインを――これまでに担当されたお仕事の中で、特に印象的だったものはありますか?入社して間もない頃に、ヒーローと闘う敵が着用するスーツのデザインを任されたことがありました。僕の案がコンペで通ったのですが、そのときに初めて版権元との会議に出席し、最終的な造形チェックまでさせてもらいました。一つの作品ができあがる過程を目の当たりにできたのは、とても感慨深かったですね。あがり症な性格の上に入社後すぐのことだったので、本当に自分の作品でいいのかなという不安もあったのですが、子どもの頃から親しんできた番組に自分の手がけたアイテムが登場したときは本当に感動して、両親にも連絡しました。――それはうれしいですね。ヒーローもののアイテムのデザインということですが、デザインされるにあたって、苦労された点などはありましたか?絵だけで見ると違和感なく見えるものも、実際に人が着るとなると細部の形状が気になったり、パーツ位置などがズレてしまったりするんです。当時はそういったことがまったくわかっておらず、実際にスーツとして再現されたときにマスクの覗き穴がおかしな位置にくるようなデザイン画を描いてしまったこともあります。2Dと3Dの違いに最初は苦労しましたが、とてもいい勉強になりました。また、スーツアクターの方は僕がデザインした服を着て動き回ることになるので、できるだけ動きを邪魔しないようなデザインにも配慮しています。――社内のアイデア出しはどんな雰囲気で進んでいくのですか? チームにはだいたい10人弱のメンバーがいるのですが、最初は大喜利のような雰囲気で和気あいあいと進んでいきます。アイテムをつくるときは大前提となるテーマに沿ってデザイン案を考えるのですが、僕が常に意識しているのは遊び心を忘れないデザインです。――例えばどのようなものがアイデアのもとになっているのでしょうか?普段からいろいろ見るようにしていて、目に入ってくるあらゆるものがヒントになっています。例えば日常生活の中で電球がチカチカ点滅する様子だったり、街なかを歩いていて目についたおもしろい造形だったり、何気ない些細なことでも気になったものは心に留めておき、自分の中の引き出しを増やすようにしています。チョコレートとポテトチップスがモチーフの武器。手で握る部分のチョコが溶けていたり、ポテトチップスの袋から中身が勢いよく飛び出していたりするデザインに遊び心を感じる次ページ:「遊び」の経験がデザイナーとしての幅を広げてくれる
2024年12月25日(水)
コラム

【卒業制作展2024】受験生必見! 美大・デザイン系学校の卒業制作展へ行こう

美大・デザイン系学校ならではの一大イベント「卒展」って?写真提供:阿佐ヶ谷美術専門学校 毎年1~3月にかけて開催される卒業制作展(以下、卒展)。主に美大や美術・デザイン系の専門学校で学んだ学生が、最終学年で取り組む卒業制作課題の作品展示会です。卒業制作とは、一般的な大学でいう卒業論文のようなもので、学業の集大成といえます。そのため、会場に並ぶのはオープンキャンパスや学園祭での展示作品よりも、さらに力の入った大作ばかり。本記事では、そんな卒展の魅力を写真とともに紹介していきます!美大・デザイン系の学校の卒業制作展は、デザインノトビラ「イベントをさがす」ページから検索できます。ぜひ活用してみてくださいね!受験生にとって志望校の卒展は必見!その理由は……写真提供:阿佐ヶ谷美術専門学校 学生が自由にテーマ設定を行い、制作を進める卒業制作。作品は数か月~約1年という長い時間をかけてつくられます。学生生活最後の作品で、思い入れも強いはず。そんな作品群を観れば、その学生が何を学んできたのかが見えてきます。会場では、ぜひ「もし自分だったらどんな作品をつくるだろう……」と、数年後の姿を想像してみてください。自分がやりたいことと、その学校で学べることを照らし合わせることで、志望校も絞られていくはずです。写真提供:長岡造形大学 また、卒展の会場は学校のキャンパス内であったり、美術館であったりします。いずれにしても、比較的大きな会場で展示が行われることが多く、展示手法もさまざま。社会人やギャラリーの関係者が訪れることもある本格的な展示の場ですから、進学を考えている皆さんにとっても、多くの学びを得られる機会であることは間違いありません。写真提供:長岡造形大学写真提供:長岡造形大学 写真提供:阿佐ヶ谷美術専門学校 写真提供:東京工芸大学 写真提供:東京工芸大学 ちなみに、東京では「東京五美術大学連合卒業・修了制作展」といって、東京五美術大学と呼ばれる多摩美術大学、女子美術大学、東京造形大学、日本大学芸術学部、武蔵野美術大学が合同で開催する卒業・修了制作展があります。ただし、同展ではデザイン系学科・コースの作品展示はないため要注意。油絵や日本画、彫刻などのファインアート系の学科展示が行われます。一方で、5大学の作品を同時に見て特色を知ることができる機会でもあるので、首都圏で美術系大学への進学を考えている人にはおすすめの展示です。卒展関連イベントを実施する学校も中には、作品展示のほかに、卒展に関連した受験生向けのイベントやミニオープンキャンパスを開催していたり、卒展をまわるツアーを実施していたりする学校もあります。せっかくの機会にイベントを見逃さないよう、事前に詳細をチェックしておくと安心ですよ!志望校の卒展はいつ開催される? まずはスケジュールをチェック!写真提供:東京工芸大学 学業の集大成を見ることができる卒展は、志望校を選ぶにあたりとても参考になります。高校1、2年生のうちからスケジュールをチェックして、複数の卒展を訪れておくのがおすすめです。デザインノトビラでは、卒展の情報を簡単に検索できます。「イベントをさがす」ページの「イベント種別」で卒業制作展・卒展を選択して、ぜひ探してみてくださいね!※本記事の掲載写真は2022年度以前に開催された卒業制作展で撮影されたものです
2024年12月6日(金)
コラム

【2025-2026年度 新設予定】注目のデザイン系学部・学科特集

時代や社会の動きに応じて、教育の現場も日々変化し続けるもの。そこで、本記事では編集部が注目する最新のデザイン・クリエイティブ系学部・学科をご紹介します。いずれも2025~2026年度に新設予定です。ぜひ将来のキャリアを見据えた進路選択の参考にしてみてくださいね!※掲載の学部学科の中には仮称・設置構想中のものも含まれます(2024年12月2日時点)【愛知東邦大学】経営学部 コミュニケーション・デザイン学科※2025年4月新設予定、設置構想中経営学、マーケティングといった経営学部の学びと、グラフィックデザインや映像制作、イベント演出といったデジタル・デザイン分野の学びを展開する愛知東邦大学のコミュニケーション・デザイン学科。双方を関連付けることで、ブランド・マーケティング・広報宣伝などの分野で活かせる実践力を身につけることができます。キャンパス:〒465-8515 愛知県名古屋市名東区平和が丘3-11学部公式サイト:https://www.aichi-toho.ac.jp/faculties/business/lp2023【大阪産業大学】情報デザイン学部 情報システム学科/建築・環境デザイン学部 建築・環境デザイン学科※2025年4月新設予定新設される大阪産業大学の情報デザイン学部では、ソフトウェアデザインやデータベースデザインといった情報システムの設計デザインから、ゲームデザインやサービスデザインなどのメディアデザインまで多様に学ぶことができます。また、建築・環境デザイン学部では、1年次に「もの・建築・環境・空間・自然・都市」の幅広いデザインに触れたうえで、2年次から専門分野を選択して学ぶことができます。 キャンパス:〒574-8530 大阪府大東市中垣内3-1-1情報デザイン学部公式サイト:https://ih-lp.osaka-sandai.ac.jp/rikei/ise/建築・環境デザイン学部公式サイト:https://ih-lp.osaka-sandai.ac.jp/rikei/edd/【金沢工業大学】情報デザイン学部 環境デザイン創成学科※2025年4月新設予定地域や社会が抱える課題に対し、「サイエンス×デザイン」「環境×デザイン」「コミュニケーション×デザイン」の視点から解決策を導く金沢工業大学の環境デザイン創成学科。工学、技術、経営、文化、芸術を幅広く学び、持続可能な新しいビジネスや社会システムの創造をめざします。キャンパス:〒921-8501 石川県野々市市扇が丘7-1学部公式サイト:https://www.kanazawa-it.ac.jp/gakubu_daigakuin/c-design/edi/index.html【近畿大学】建築学部 建築学科(通信教育課程)※2025年4月新設予定一級建築士合格者を多数輩出してきた近畿大学が、日本初となる建築学部の通信教育課程を開設。通称「建築学部オンライン学士プログラム」では、オンラインでの学習を軸に、安価な学費でいつでもどこでも学ぶことができます。キャンパス:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1 ※学生センター所在地学部公式サイト:https://www.kindai.ac.jp/tsushin/architecture/【駒沢女子大学】空間デザイン学部 空間デザイン学科※2025年4月新設予定駒沢女子大学の住空間デザイン学類が、新たに「空間デザイン学部」として誕生。建築・インテリアデザインを中心に、家具・陶芸・テキスタイルなどのプロダクトデザイン、コミュニティデザイン、ビジュアルデザイン、デザイン心理など、空間デザインに関わるあらゆる分野を幅広く学ぶことができます。キャンパス:〒206-8511 東京都稲城市坂浜238番地公式サイト:https://www.komajo.ac.jp/uni/index.html【芝浦工業大学】デザイン工学部 社会情報システムコース/UXコース/プロダクトコース※2025年4月再編予定、設置構想中社会的にデジタル分野が大きく進展するいま、芝浦工業大学は既存のデザイン工学部内のコースを再編。「ユーザーに共感し、人々に共感される物事を生み出す」というデザインの特徴と「デジタルを中心とした工学技術」をあわせ、社会に学び、社会に貢献するデザイン人材の育成を目的とした3つのコースに生まれ変わります。キャンパス:〒337-8570 埼玉県さいたま市見沼区深作307(1・2年次)、〒135-8548 東京都江東区豊洲3-7-5(3・4年次)学部公式サイト:https://renew-sit-eng-design.jp/【安田女子大学】理工学部 建築学科※2025年4月新設予定女子大学としては日本初の理工学部が安田女子大学に新設。建築学科には「建築コース」「空間デザインコース」が用意され、2年次前期からコースに分かれて学びます。デザインを重視した意匠設計を中心に学び、女性の感性、きめ細かさ・共感力を活かし、想いをカタチにできる建築家を養成します。キャンパス:〒731-0153 広島県広島市安佐南区安東6-13-1学部公式サイト:https://www.yasuda-u.ac.jp/【跡見学園女子大学】情報科学芸術学部 情報科学芸術学科※2026年4月新設予定、仮称・設置構想中跡見学園女子大学が新設する情報科学芸術学部では、デジタル・情報化社会に求められるAIやデータサイエンスの知識、技能を身につけるのと同時に、新しい芸術表現であるメディアアートを学ぶことができます。データサイエンスとメディアアートを融合させた教育により、新たな発想や多様なものの見方を養います。キャンパス:〒112-8687 東京都文京区大塚1-5-2学部公式サイト:https://www.atomi.ac.jp/univ/mediaarts_science/【京都橘大学】デジタルメディア学部 デジタルメディア学科※2026年4月新設予定、仮称・設置構想中京都橘大学のデジタルメディア学科では、情報技術を基盤に、ゲームやアニメ、音楽といったコンテンツの制作技術、CG、画像・音声処理、AI技術などを学ぶことができます。4つのモデルコース「ビジュアルエンジニアリング」「サウンドエンジニアリング&クリエイション」「ゲームクリエイション」「ビジュアルクリエイション」から選択し、学びを深めます。キャンパス:〒607-8175 京都市山科区大宅山田町34学部公式サイト:https://www.tachibana-u.ac.jp/admission/2026special/【金城学院大学】デザイン工学部 建築デザイン学科/情報デザイン学科※2026年4月新設予定、仮称・設置構想中2026年に5つの学科が新たに誕生する金城学院大学。建築デザイン学科では住居・建築・インテリア・都市などに関するデザイン工学の知識や技術を身につけ、同時にインクルーシブデザインについて学びます。一方、情報デザイン学科では情報工学をベースに、AI・データサイエンスからデザイン、映像などのメディア表現、社会課題の解決まで文理の枠を超えて学びます。キャンパス:〒463-8521 愛知県名古屋市守山区大森2-1723学部公式サイト:https://www.kinjo-u.ac.jp/ja/admissions/reorg//【立命館大学】デザイン・アート学部※2026年4月新設予定、仮称・設置構想中創立125周年を控えた総合大学・立命館大学では、「『美的感性』が未来を切り拓く導き手となってくれる」という考えのもと、デザイン・アートの新たな学びが誕生します。美的感性に裏打ちされた「問題解決力」「問い直し力」「共創力」「問題発見力」「創造的思考力」を身につけ、社会の新たな価値を創造する人材を育成します。キャンパス:〒603-8577 京都市北区等持院北町56-1学部公式サイト:https://www.ritsumei.ac.jp/da/美大・デザイン系の学校は、デザインノトビラ「学校をさがす」ページから検索できます。ぜひ活用してみてくださいね!
2024年12月2日(月)
ニュース

東京工芸大学の学生が制作に参加したCMが入賞。「2024 64th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」受賞作品発表

テレビ、ラジオCMの質的向上を目的とし、あらゆる領域におけるクリエイティブを募集対象とする「2024 64th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」。日本最大級のアワードとしても広く認知されており、クリエイティブ業界で活躍する関係者の大きな目標となっています。今回、2,323本の応募作品の中からフィルム部門、ラジオ&オーディオ広告部門、PR部門など全13部門の入賞作品が決定しました。なかでも、フィルムクラフト部門で入賞したのは、東京工芸大学芸術学部アニメーション学科の学生たちが制作に参加したアニメーション「TOTOトイレ川柳20回記念 1(ワン)ロールシアター」。TOTO株式会社が主催する「TOTOトイレ川柳」20回目の募集開始記念として制作されたものです。日常や家族の生活が詠まれた過去の句を使用してアニメートされた原画を元に、同学科の山中幸生研究室所属の学生を中心とした14名と山中幸生准教授が、トイレットペーパーに1コマ1コマ手描きして制作した同作品。コマ撮りしたトイレットペーパー1ロール(約110m)分に描かれたイラストは、原画600枚相当になります。アニメーションは、TOTO株式会社公式Webサイトで公開中。また、制作時の様子を収めたメイキング映像も同時公開されています。
2024年11月28日(木)