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思いついたままの発想を図面に-武蔵野美術大学 建築学科に欠かせないツール(1)

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姉妹サイトのデザイン情報サイト「JDN」で連載している「Vectorworks活用事例」。同シリーズでは、設計に携わる方々にとって空間をつくる上で欠かせないツール「Vectorworks」を、どのように利用しているのかを紹介してきました。

今回は、建築設計やデザインを学ぶ学生と、その教育に携わる教職員や教育機関向けに提供している「教育支援ライセンス」をピックアップ。同ライセンスを活用する、武蔵野美術大学 造形学部 建築学科にインタビューをおこないました。

お話をうかがったのは、建築学科教授の布施茂先生と、大学院修士2年生の飯島裕也さん。個人宅から公共建築まで多数の作品を手がけ、現在は、大学創設100周年プロジェクトにも携わる布施先生と、修士課程に在籍しながら実践的な学びを深める飯島さんに、Vectorworksの使い方をうかがいました。

建築家を養成してきた、美術大学における建築学科

インタビュー取材をおこなった武蔵野美術大学 鷹の台キャンパスは、東京の郊外、小平市に位置する。同大学の名誉教授で、文化勲章も受賞した建築家・芦原義信先生によるマスタープランのもとに設計・建設、1961年に開設された。


武蔵野美術大学 鷹の台キャンパス


およそ11万m2もの自然豊かな敷地内には、本館(現:1号館)や中央広場、デザイン棟(現:7号館)など、国際的な学術組織であるDOCOMOMO Japanの「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」に選定された建物が点在。ここで絵画、彫刻、デザイン、建築、映像など幅広い学科の学生たちが学んでいる。

まずは布施先生に、建築学科での学びやカリキュラムの特徴についてうかがった。


布施茂先生(以下、布施):大学が開設されて間もない1964年に、建築学科が創設されました。その当時から、芦原先生をはじめとする専任教員の多くが研究者ではなく実務者である点は、本学科の特徴の1つと言えるでしょう。

現在、建築学科で教鞭をとっているのも、現場の第一線で活躍されている方ばかりです。構造デザインや建築デザイン、設備設計、まちづくり、ランドスケープデザイン、そして、建築美術や空間表現のアーティストもいます。


布施茂先生布施茂 建築家・一級建築士、fuse-atelier代表。武蔵野美術大学教授、学長特命補佐・キャンパス設計室長、専門は建築設計。おもな作品に、群馬県立館林美術館、全労済情報センター、東京都立大学(以上第一工房)、VENTINOVE、House in JYOSUI-SHINMACHI、House in TSUTSUMINO、House in ABIKOなど


布施:学部生の定員は1学年72名です。入学時に、卒業後の進路についてのアンケートを取っており、建築家志望が7割、そのうち半数が住宅を中心に設計をする建築家を目指していますね。これほどまで大人数の学生が設計をやりたい、意匠をやりたい、と集まっている大学の建築学科はほかにないのではと思っています。実際、卒業後、大手設計事務所に就職した学生の実績もあります。

授業内容としては、設計・構造をベースにランドスケープ・インテリアの科目、またアートの実習科目もあり、幅広い知識の習得ができます。学生は入学して2カ月後には、アイデアを練りながらの手描きスケッチや、CADの実習など、設計教育全般の授業に取り組みます。総合大学の工学部などと比較すると、かなり早いタイミングかもしれません。課題数は他校と比べて多いと思いますが、小さい空間から大きい建築まで、バリエーションやスケールを幅広く経験できます。


校内に展示された1年次の模型校内に展示された1年次の模型

 

布施:1年次の基礎課程である「建築設計基礎」での製図や、「図学」などの授業でVectorworksを使用しています。CADの授業ではVectorworksのほかに、SketchUpやRhinocerosの使い方も学びます。また、「建築設計表現」の授業では、プレゼンテーションやアイデアスケッチなどでも使っていますね。

学生たちにVectorworksの使い方を初めて教えるときは、クラスとレイヤの設定など、基本的な操作方法はもちろんレクチャーしますが、あとは自由に、それぞれの創造性を発揮しながら使ってほしいと指導しています。


CADを学ぶ授業風景

 

布施先生自身も、40年以上になる建築家のキャリアを通じて、Vectorworksの前身であるMiniCad時代からツールを愛用し続けてきた建築家だ。

2023年には、授業の教科書としても用いることができるようにと、書籍『布施茂建築作品設計図面集』を刊行。豊富な写真図版と共に、RC造11件、S/W造16件もの平面詳細図や、断面詳細図、細かな寸法・仕様に関する詳細な情報が網羅された内容となっている。これらの編集作業にも、Vectorworksが大いに活躍したという。


布施:最終的な印刷用のデータはInDesignで完成させましたが、その前段階のレイアウトはすべてVectorworksで作成しています。Vectorworks上でこれまで撮影してきた膨大な写真データや図面を、建築家目線で見せたい部分がしっかり伝わる図面集となるよう、レイアウトにこだわりました。建築学科の大関助手と飯島くんには編集作業の段階でデータの整理を担当してもらい、とても助かりました。


『布施茂建築作品設計図面集』の中面


『布施茂建築作品設計図面集』の中面

 

布施:Vectorworksは設計図面だけではなく、プレゼンテーションにも、書籍の編集準備にも、本当にいろんな用途で使い続けています。とても重宝していますし、私の仕事においてなくてはならないツールです。


CADの枠を超える、Vectorworksの多様性

一方、飯島さんは、建築学部への入学後に初めてVectorworksを使いはじめたそうだ。折しも入学した年はコロナ禍の真っ最中。当時は地元・岡山県の自宅から、リモートで大学の授業を受けていたという。


飯島裕也さん(以下、飯島):授業がはじまる前にVectorworksを使ってみたくなったので、最初は自分で市販の教則本を購入し、3Dのレンダリングまでひと通り自習してから授業を受けました。


飯島裕也飯島裕也 武蔵野美術大学造形学部建築学科を卒業後、同大学院の修士課程デザイン専攻建築コースに在籍。2023年度卒業制作「BE A GOOD SCENERY(S)」で優秀賞、愛知県蒲郡市「がまごおり公共建築学生チャレンジコンペ2023」では「ふくらむまちの待合所」が佳作賞を受賞

 

飯島:僕は幼い頃からものづくりが好きで、小学生のときはドラえもんの断面図をスケッチブックに描くくらい、細かな絵を好んでいました。また、母も武蔵野美術大学を卒業してインテリアの仕事に就いていたので、自宅に置かれていた仕上げサンプル本や、たくさんの図面などを日常的に眺めていたからか、図面を描くのも見るのも好きでした。中学生や高校生の頃には、建物の模型をつくったり、Adobe Illustratorなどのツールを触ったりもしていました。


浦上駅(長崎市)の設計提案をおこなった飯島さんの卒業制作作品「BE A GOOD SCENERY(S)」の平面図

 

学部生の頃から授業はもちろん、プラスアルファの学びとして、布施先生のもとでさまざまな実務に携わってきた飯島さん。作品集の編集作業などを通して、Vectorworksを使えば使うほど、その汎用性の高さに驚いたそうだ。


飯島:授業の課題はゴールが決まっていますが、実務になると無限に追求できますよね。学部生のうちからそれを経験できる環境があったことは、とてもありがたかったです。


布施:やはり建築はリアルなので、実際に現場に出て確認したり体験したりする方が早いんです。ですので、学生たちをプロジェクトの現場に連れていくこともあります。私自身、武蔵美や東京工業大学(現:東京科学大学)の恩師である、建築家の坂本一成先生のもとで学んでいた頃、研究室の設計活動から学ぶことの方が大きいと実感した経験があったので、現在もできる限りそうしています。


飯島:Vectorworksに関しては、使えば使うほど、CADの範疇におさまらない、オールラウンドで使えるツールだなと思いました。2023年に賞をいただいたコンペの資料や模型制作にも使っていますし、僕の同期にもVectorworksでプレゼンボードをつくっている子がいます。


飯島さんは、愛知県蒲郡市で開催された「がまごおり公共建築学生チャレンジコンペ2023」に、同じ建築学科の学生である杉山峻涼さんとペアで参加。杉山さんがデザインのアイデアを考え、飯島さんがCADで描きながら実際の形に落とし込んでいったという。結果は、応募総数約370組中、上位6組、最優秀作品・優秀作品に次ぐ、佳作に選ばれた。


飯島:最優秀作品に選ばれると、実際に建物を建てることができるという、学生向けとしてはとても珍しい実施コンペでした。そのため、トイレの広さや、ソーラーパネルを設置するなどの仕様の条件がいくつもありました。メーカーが配布しているDXF(Drawing Exchange Format)をダウンロードして使うなど、細かい施工図レベルまでVectorworksを使ってつくりました。模型もVectorworksで描いた展開図を印刷して制作しました。


「がまごおり公共建築学生チャレンジコンペ2023」に提出したプレゼンボード「がまごおり公共建築学生チャレンジコンペ2023」に提出したプレゼンボード

 

飯島:ちなみに、芸術祭で屋台をつくったときには、Vectorworksを使って描いたパーツの設計図を原寸で紙に印刷して木材に貼り、印をつけて削ったこともあります。平面の図面だけではなく、立体をつくるときもVectorworksが欠かせないですね。


次ページ:直感的な操作性が、アイデアと思考を広げる


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ニュース

学生限定!「長谷工住まいのデザインコンペティション」が開催。高校生の応募歓迎

マンション開発を中心とした大手建設会社・デベロッパーの株式会社長谷工コーポレーションが主催する、「第18回 長谷工住まいのデザインコンペティション」。応募対象は高校生・大学生をはじめとした学生で、「集合住宅の新しいあらわれ」をテーマに、2024年11月5日まで建築プランを募集します。都市を構成する重要な要素である、建築の外観(あらわれ)を改めて問う今回のコンペ。審査員には「Dior Ginza」などで有名な建築家の乾久美子さん、同じく建築家の藤本壮介さん、増田信吾さんなど、第一線で活躍する豪華メンバーが並びます。さらにゲスト審査員として、コミュニティやケアの領域で制作、実践、研究、提案を行う文化活動家・アーティストのアサダワタルさんも参加。審査は、1次のアイデアコンペで選出された上位4組が2次に進み、模型の提出・プレゼンテーションを行う2段階方式。最優秀賞1点には100万円、優秀賞3点には各50万円、佳作10点には各10万円が授与されます。9月30日までに応募登録を行うと、昨年の審査の様子を収めた動画を視聴できる特典も。ぜひ、新しい都市の景観を生み出すような集合住宅の「あらわれ」を提案してみてください。
2024年8月1日(木)

KNOCK vol.1 -【結果発表】 デザインノトビラ「KNOCK」メイングラフィック募集

 結 果 発 表 個性豊かでフレッシュな魅力にあふれた作品の数々をご応募いただき、誠にありがとうございました。編集部の審査を経て、見事入選を果たした作品を発表いたします。最優秀賞「感性を刺激する強いノック」中西 達海神奈川大学附属高等学校 2年作品コンセプト“KNOCK”と聞くとドアを叩く様子を思い浮かべるが、それだけではない。私たちは五感で何か強い刺激を感じ取った時、今までにない新しい発想を生み出す。それらの外部からの刺激は、今までの常識や固定概念を打ち砕く自分自身への「ノック」である。この作品ではデザイン性も意識し、リアリティを追求するのではなく平面的な表現になるように作成した。今までの常識を強いノックで打ち砕く迫力を表現した。審査員による講評高校生の若さからくる力強さ、将来に向かって挑戦する情熱や意思が伝わってくる作品。作品のコンセプトが企画の趣旨と合っており、トビラをノックするという難しい表現を逃げずに描けていると思います。「自分がノックする」だけでなく、「外部からの刺激が自分をノックしてくる」という発想は、これからさまざまなものに触れ、感受性豊かに学んでほしいという編集部の思いとも合致しています。また、応募作品は筆や絵画などの具体的な表現が多かった中、本作は「五感」を意識して抽象的に表現されていて、「五感」や「目に見えないもの」をデザインしていくことが増えているデザイン業界にマッチしていると思い、受賞作品に選びました。審査員特別賞「輝きの中へ」山口 紗瑛野沢北高等学校 1年作品コンセプト新しいことや楽しさで満ちた、鮮やかに輝いているデザインの世界に胸を躍らせる気持ちをイメージしました。審査員による講評高校生らしいフレッシュさが魅力の作品です。女の子の瞳や表情からは不安とワクワクが入り混じった様子が伝わり、これから進路を考えようとする高校生のみなさんの背中をやさしく押してくれるのではないかと思います。また、カラフルな色づかいからは、「多様さ」や「未来の可能性」といったイメージが連想され、デザインノトビラが発信するデザイン・クリエイティブ領域の学びのイメージとも合致しており、掲載した際のサイトとの相性の良さも評価につながりました。審査にあたり、受賞作品の「感性を刺激する強いノック」との接戦を繰り広げた本作に、特別に賞を授与いたします。募集要項(募集は締め切りました)出題テーマデザインノトビラ新企画「KNOCK」のメイングラフィック募集この企画の趣旨「高校生のみなさんに、デザインの世界へのトビラをノックしてもらう」という内容に沿った、自由な発想の作品を募集します!「わくわくする気持ち」「将来に向かって挑戦する情熱」「道が開けていく様子」など、前向きで明るいイメージを求めます。賞最優秀賞(1点)Amazonギフトカード3万円分、作品を企画のメインページグラフィックに採用※該当なし(採用作品なし)、あるいは、内容が変更となる場合があります応募締切2024年8月30日(金)15:00までにフォームから投稿※終了しました参加資格下記いずれかに該当する方高校または高等専門学校に在籍している方高校卒業あるいは同等の資格をお持ちで、美大やクリエイティブ系の大学・専門学校等へ進学を希望している、20歳以下の方審査員デザインノトビラ&JDN 編集部美術・デザイン系学校出身のWebエディター4名が担当!日々、日本中のデザインに触れているプロの編集者たちが、あなたの作品を審査します。
2024年7月16日(火)

コンテスト型新企画「KNOCK」スタート!企業が高校生の作品を募集

高校生向けコンテスト型の新企画「KNOCK」とは?「絵を描くことが好き」「アイデアを考えることが好き」「ものづくりが好き」というデザイナー・クリエイターの卵のみなさん!クリエイティブを学び、将来を考える人のための情報サイト「デザインノトビラ」は、そんなみなさんから作品・アイデアを大募集する新企画、「KNOCK」をスタートします。「KNOCK」では今後さまざま企業が不定期にテーマを出題。高校生のみなさんだからこそ生み出せる、フレッシュで自由なアイデアや作品を募ります! 将来を考えるきっかけとして、作品発表の場として、まずは「KNOCK」でデザインのトビラを叩いてみませんか?高校生が「KNOCK」に応募すると、いいことが!あなたの作品が社会に出るチャンス!企業・クリエイターに作品を審査してもらえる!素敵な賞金や賞品がもらえる!応募のしかた募集中のテーマ一覧から挑戦したいテーマを選ぼう!締切までに作品をつくろう!作品応募フォームへの投稿で、応募完了!決まった期日まで、ドキドキしながら結果を待とう……!募集中のテーマ(新着順)ただいま募集は行っておりません。新しいテーマの発表をお楽しみに!これまでに募集したテーマデザインノトビラ(株式会社 JDN)「KNOCK」のメイングラフィック募集(8月30日15:00締切)始まったばかりの新企画「KNOCK」のメイングラフィックを大募集!サイト内で注目を集める、すてきなグラフィック作品を募集しました。最優秀賞(1点) Amazonギフトカード3万円分、作品を企画のメインページグラフィックに採用このテーマの募集要項を見る今後も続々と、このページでテーマを出題していきます!
2024年7月16日(火)
ニュース

大賞は穴吹デザイン専門学校2年生!「日本パッケージデザイン学生賞2023」の入賞作品が決定

公益社団法人日本パッケージデザイン協会(JPDA)が主催する、学生向けのアワード「日本パッケージデザイン学生賞2023」の入賞作品が決定。大賞に選ばれたのは、穴吹デザイン専門学校2年生の綾野裕次郎さんの作品「ボーッと⼊浴剤」です。パッケージデザインの新しい魅力と価値を学生と共に発掘・伝播していくことを目的に開催される「日本パッケージデザイン学生賞」。第2回となる今回は「ひらく」をテーマに、オリジナリティのあるパッケージデザインのアイデアが3カ月間募集され、全国の大学・専門学校から513点の応募がありました。受賞作品のべ29点のうち、大賞に選ばれた作品「ボーッと⼊浴剤」は、開封後は船となる入浴剤のパッケージ提案です。ゴミになる入浴剤の袋を、楽しいものに変えたいと考えた作品です。審査委員からは、「不要さトップクラスの入浴剤のパッケージを一気にプラスにする提案」「捨てることのできるおもちゃという視点でもとても実用的」「夢や遊び心を表現しながらも、社会課題に答えているスマートなデザイン」などの評価を得ましたなお、今回の入賞作品は、2025年5月刊行予定の『年鑑日本のパッケージデザイン』に収録されます。
2023年12月11日(月)