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武蔵野美術大学

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  • 写真・映像
  • Web・ゲーム・CG
  • デザイン総合
  • 工芸
  • 舞台
  • アート
キャンパス名
鷹の台キャンパス
市ヶ谷キャンパス
所在地
〒187-8505 東京都小平市小川町1-736
〒162-0843 東京都新宿区市谷田町1-4-4

読みもの

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インタビュー
武蔵野美術大学

代替を超えたバイオ素材の可能性を探る─グッドデザイン・ニューホープ賞最優秀賞(1)

将来のデザイン分野の発展を担う、新しい世代の活動支援を目的とするグッドデザイン・ニューホープ賞。グッドデザイン賞がプロ・企業の商品やサービスを対象にしているのに対し、大学や専門学校などに在学中の学⽣や卒業・修了直後の新卒社会人によるデザインを対象に実施される。応募カテゴリーは「物のデザイン」「場のデザイン」「情報のデザイン」「仕組みのデザイン」の4つで、テーマは自由。応募者が在学期間中に独自に制作したものであれば、大学や専門学校などのゼミの課題制作や卒業制作、自主研究などの作品を応募することも可能だ。また、受賞後にはデザイナーや建築家によるワークショップへの参加など、独自のプログラムが用意されている。2023年度グッドデザイン・ニューホープ賞の審査委員長はクリエイティブディレクターの齋藤精一さん、副委員長を建築家の永山祐子さんが務めた。応募総数415点の中から78点が受賞、そのうち各カテゴリーの上位2点、合計8点が最終審査に進み、最優秀賞1点が決定した 第2回目となる2023年度の最優秀賞を受賞したのは、武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科卒の項 雅文さんによる「代替を超えるバイオ素材ー生えるおもちゃMYMORI」。キノコの菌糸体を素材にした子ども向けのおもちゃキットで、バイオ素材が置かれている現状を見直し、他素材の代替品としない未来の在り方を考え、生まれた作品だ。今回、同作品をデザインした項さんに、作品の制作背景やコンペへの取り組み方、受賞後の変化などをうかがった。社会課題を解決する手段を学んだ学生生活――まずは項さんご自身について伺いたいと思います。大学ではどのようなことを学んでいましたか?項 雅文(こう がぶん)武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科を卒業後、新卒で株式会社ディー・エヌ・エーに就職。現在はデザイン統括部に所属し、デザイナーとして活躍 私は2019年に新設された、武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科の1期生として学びました。社会課題の解決の手法や新しい価値を生み出すための考え方を学ぶような比較的新しいタイプの学科で、アウトプットの方法は絵画やグラフィックデザイン、映像などさまざまでした。美術大学の一般的な学部であれば、まず絵画や映像など専門領域のスキルを身につけて作品をつくる流れだと思います。しかし所属していた学科は、産学共同のプロジェクトなどで実社会における課題を発見し、その解決策について表現方法を含め柔軟に考えるといったスタイルでした。デザインを目的ではなく手段として捉えているのが面白いと思います。――例えばどのような課題に取り組みましたか?学科のキャンパスがある東京・市ヶ谷駅周辺の課題を見つけてくるというお題がありましたね。実際に街を歩いて観察するなかで、地下鉄のコンビニの前でおにぎりを食べるサラリーマンの姿が目に入って。市ヶ谷にはオフィスや学校が多く、春には桜が咲き誇る大きな川が流れていたりもするのに、ゆっくり休んだり昼食をとったりできるスペースがないことに気づきました。これに対して私は、川沿いに人が休めるような公共の場をつくる案を提案しました。授業で制作したプレゼン資料。都心において、自然の力を借りて心を休ませる場「WITH RIVER」を提案 この課題の評価はよかったのですが、ある教授から少し面白さや斬新さが足りないとアドバイスをいただいて。それから、自分にしかつくれないものや社会に新しい価値を生み出せるものはなにか?ということを意識するようになりましたね。――もともと項さんがクリエイティブイノベーション学科に進学しようと思った決め手はなんだったのでしょうか?私は中国の上海出身で、高校卒業とともに日本の大学を志しました。子どものころから美しいものが好きで、インターネットで好きなデザインに触れるうちに、日本のプロダクトデザインが世界的に見ても高いレベルにあることを知ったんです。日本のプロダクトは、特に機能面などでユーザーに配慮されたデザインが多いですよね。高校時代は理系のクラスだったこともあって、大学でも造形的なことだけではなく社会的な課題や科学の領域と接続したデザインを学びたいという思いがありました。その点、クリエイティブイノベーション学科のカリキュラムが私に合っていると思ったんです。ちなみに、私のゼミの先生は物理学の出身です。幅広い領域の課題に取り組むなかでデザインの可能性が広がったと思います。――大学卒業後は株式会社ディー・エヌ・エーのデザイン統括部に就職されています。現在のおもなお仕事内容についても伺えますか?現在はアートディレクショングループという部署に所属し、全社横断的な案件のデザインを担当しています。特に、企業のブランドイメージやコンセプトを目に見える形にビジュアライズするCIやVIに携わっています。作品の価値を確かめるためにニューホープ賞に応募――項さんが今回の「グッドデザイン・ニューホープ賞」に応募したのは新卒1年目の6月だったとうかがいました。どのような経緯でアワードを知り、応募を決めたのでしょうか。美術館に展示を観にいった際にニューホープ賞のチラシを見つけたのがきっかけでした。今回応募したキノコの菌糸体を素材にしたおもちゃキットは、大学の卒業制作で取り組んだ作品です。この作品にどれくらいの価値があり、自分のアイデアが社会的にどう評価されるのかを確かめるために、ニューホープ賞は絶好の機会だと思いました。菌糸体でものづくりをする楽しさや素材としての可能性を多くの人に知ってもらいたかったんです。 受賞作品の生えるおもちゃ「MYMORI」 また、卒業制作展のときに教授から「この作品は惜しいところがある」とコメントをもらったのが卒業後も印象に残っていて、もう少しブラッシュアップする余地があるかもしれないと思っていたのも、応募のきっかけのひとつです。今後、どういうデザイナーになりたいかを考えるためにも、もう一度多くの人に評価してもらえるチャンスだなと。――作品をブラッシュアップする絶好の機会になったんですね。改めて、今回最優秀賞を受賞した「代替を超えるバイオ素材ー生えるおもちゃMYMORI」の概要を教えてください。「MYMORI」は、家で育てるキノコの菌糸体を素材にした、3歳から10歳までの子ども向けおもちゃキットです。キノコの菌糸体という環境にやさしいバイオ素材を用いているのがポイントです。子どもたちはバイオ素材を身近に感じながら、キットを利用する体験によって能動的なものづくりを学ぶことができます。色を塗ったり、絵を描いたり、積み木やパズルのようにして遊んだりすることができる ――この作品に行き着いた背景には、どのような問題意識があったのでしょう。最初は同じゼミの友人に菌糸体の存在を教えてもらって。栽培するプロセスが楽しかったのと、出来上がったものの感触のよさなどに惹かれました。バイオ素材であるキノコの菌糸体は優れた耐熱性や軽さなどの特性があり、特にプラスチックの代替品として注目されることが多いです。もともとこうした「循環型のデザイン」みたいなものにはすごく興味があったのですが、菌糸体は単なるプラスチックの代替としてではない、新しいものづくりの素材としての可能性を感じました。加工が必要なプラスチックと比べて、家庭で簡単に制作できるのも利点です。今回の作品づくりの背景には、このバイオ素材が代替品を超えた次世代のスタンダードになればいいなという思いがありました。――そこから「おもちゃ」という形はすぐに導き出されたのでしょうか?おもちゃにいたるまでにはかなり悩んで、さまざまな形を試しましたね。お皿をつくったこともありましたが、市販のものに比べると丈夫さもなく、ゴミにならずに土に還る以外にメリットがあるのかなと疑問に感じて。これはまだ既存素材の代替に留まっているなと思いました。そこで、手触りもいい菌糸体が一番合うものは何だろう?と考え、おもちゃを思いついて。ザラザラした表面や軽い特質も活かし、最終的にパズルや積み木のような形状にたどり着きました。菌糸体は菌なので「なんとなく汚そう」と思われてしまうことも多く、そのイメージを払拭したいという狙いもありましたね。実際、キノコの菌はそこまで強くはなく、バイ菌が入るとすぐに死んでしまうような繊細で綺麗なものなんです。森の香りを感じたり、少し弾力がある感触もすごくいい。そうした素材自体に愛着を持ってもらうためにも、おもちゃというアウトプットは最適だったと思います。キットのビジュアルデザインにも力を入れました。
2024年5月15日(水)
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インタビュー
武蔵野美術大学

代替を超えたバイオ素材の可能性を探る─グッドデザイン・ニューホープ賞最優秀賞(2)

モノづくりのプロセスが伝わるようなプレゼンを工夫――卒業制作での発表時から、具体的にどのような点をブラッシュアップしたのでしょうか。今回の作品ではキノコの菌糸体という「素材の魅力」と、「モノづくりの楽しさ」の2つを伝えたいと思っていました。ただ、後者については卒業制作展で教授から「モノづくりのプロセスがもう少し見えるといい」と指摘をもらっていたのが引っかかっていたんです。そこで、遊びながらバイオ素材の魅力に気づいてもらうといったコンセプトを理解してもらうために、応募に向けたプレゼン資料を工夫したり、制作過程を動画にしたりしました。動画にはある親子に出演していただき、キットが届いてから、菌糸ブロックを砕き、型に入れて栽培、4〜5日後に収穫して最終的に遊ぶところまでの一連の流れを撮影しました。――動画では楽しそうに菌糸ブロックを混ぜたり、匂いを嗅いだりしている子どもの姿が印象的ですね。菌は汚いだろうと思うのも大人の先入観が大きくて、子どもは砂場で遊んでいるような感覚で純粋に菌糸ブロックに触れてくれるのだと知ることができましたね。キットに入っている菌糸ブロックの袋を開けると森の香りがしたり、日々育っていく菌糸体を観察したりする楽しさもあって、そうした一連のプロセスが伝わる動画になったと思います。――最優秀賞を受賞して、審査委員やオーディエンスから反響はありましたか?「商品化してほしい」とか「遊んでみたい!」といった声が一番大きくて、とてもうれしかったです。卒業制作展でも同様の声をいただいていたんですけど、商品化に踏み出す勇気はありませんでした。ただ今回は、審査委員の方々にアドバイスをいただいたり、賞をきっかけに出会ったほかの参加者がサポートしてくれたりして、商品化に向けてプロジェクトを進めることができています。賞を受賞したという実績があると、生産や流通において話を進めやすいなとも感じています。 ――受賞した際の率直な感想も教えてください。事前にほかの参加者の方々の素晴らしい作品を見ていたので、私はまさか最優秀賞には選ばれないだろうと思っていたんです。だからすごく驚きましたね。受賞後には、改めて応募した作品について参加者が簡潔にプレゼンをして、審査委員やほかの参加者からアドバイスをいただく「フォローアップ・ゼミ」にも参加しました。ゼミでは、みなさんからの客観的なコメントによって、自分では見えていなかった価値に気づかされた場面も多くありました。特に、コンセプトや制作背景を褒めていただいたのがうれしかったですね。自分の作品に対しての自信や愛着がより一層強くなりました。フォローアップ・ゼミの様子 自分が信じるデザインを追い求めながら、社会に貢献したい――デザイナーとしての今後の展望をお聞かせください。今回受賞させていただいたことによって、自分が信じているデザインは意外と世の中に認められるのかもしれないと希望を見出すことができました。今後は、デザイナーとしての責任をちゃんと持って、より社会に役立つものをつくっていきたいなと思っています。まずは、「MYMORI」を商品化することが直近の目標。それぞれのターゲットがより楽しく体験できるようなかたちを検討しています。その先に、遊びだけでなく、菌糸素材のものづくりを介した教育や地域活性化など、より深い価値につながることを目指したいです。まだはっきりとは決めていないのですが、会社の仕事と両立しながら、社会に貢献するクリエイティブを追い求めたいなと思っています。――最後に、現在応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。ニューホープ賞は、自分の作品をブラッシュアップしたり、客観視したりできるチャンスだと思います。この賞の応募を考えている人の中には、いままでにない斬新なデザインを提案したいと思っている人が多い気がしていて。そうしたデザインには、ひとつの視点からだと見えないこともあると思います。ニューホープ賞は多様な視点から作品を見てもらえる絶好の機会なので、あまり結果を気にすることなくぜひ参加してみてほしいです。■グッドデザイン・ニューホープ賞https://newhope.g-mark.org/■2024年度グッドデザイン・ニューホープ賞セミナー 「審査委員が注目する次世代デザインの条件」開催情報日時:2024年5月21日(火)18:00~19:30場所:京都市立芸術大学 C棟1階 講義室1(C-101)登壇者:井上裕太氏(2023年度ニューホープ賞審査委員|プロジェクトマネージャー・KESIKI INC.パートナー/Whatever ディレクター)、原田祐馬氏(2023年度ニューホープ賞ワークショップ講師|デザイナー | UMA /design farm 代表)概要:2023年度ニューホープ賞審査委員の井上裕太氏と原田祐馬氏が、審査委員の視点から、次世代のデザインに求められる条件や、ニューホープ賞での審査の視点や基準などを語ります。参加申し込み:https://nha2024seminar-kyoto.peatix.com/
2024年5月15日(水)
コラム
武蔵野美術大学

「注目のデザイナー」を多く輩出する学校って? 出身校ランキングを発表!

「JDN」連動企画! コラム「注目のデザイナー」たちの出身校をランキングで紹介デザインに関わる情報を広く発信するサイト「JDN」で、20年以上続くコラム「注目のデザイナー」。デザインディレクターとして活躍する桐山登士樹さんが、毎月、旬のデザイナーをセレクトし、その方の代表作や直近の作品を紹介しています。これまでに登場したデザイナーは総勢290名以上(2023年9月時点)。デザイン業界の“いま”を知ることができ、現役のデザイナーたちもチェックしている人気コラムです。今回、デザインノトビラではJDN編集部と協力し、同コラムに登場したデザイナーの方々のうち2012年以降のみなさん(164名)の出身校をリストアップ。桐山さんが選ぶ「注目のデザイナー」を数多く輩出する学校とは、いったいどこなのでしょうか? 本記事では「総合ランキング」をご紹介します!総合ランキング、1位は武蔵野美術大学順位学校名掲載人数1位武蔵野美術大学11人2位多摩美術大学東京大学10人3位東京造形大学9人4位金沢美術工芸大学6人5位桑沢デザイン研究所東京藝術大学日本大学早稲田大学5人大学院を除いた大学・専門学校のランキング結果がこちら。最も多かった出身校は、武蔵野美術大学でした!ここからは、各学校出身の「注目のデザイナー」を、直近の更新順にピックアップしてご紹介していきます。まずは1位の武蔵野美術大学。登場したデザイナーは、国内外で空間デザインを軸に、家具・プロダクトなど多岐にわたるデザインを手掛ける山本大介さん(造形学科建築学科卒)のほか、古くから存在するメディアや素材から現代的なテクノロジーまで、さまざまな手法をかけ合わせて作品を生み出す後藤映則さん(視覚伝達デザイン学科卒)など11名。2人の作品は街中で見かけたことがあるという方もいるかもしれません。続いて、2位には多摩美術大学、東京大学が並びました。多摩美術大学からは、日本とフィンランドでテキスタイルを学んだテキスタイルデザイナーの氷室友里さん(テキスタイルデザイン専攻卒)、そして、環境に負荷を与えないデザインを模索するアートディレクター・グラフィックデザイナーの清水彩香さん(グラフィックデザイン学科卒)を含めた10名が登場しています。東京大学からは、建築・インスタレーション・都市まで幅広いジャンルで国際的に活動する建築・デザイン事務所のnoiz(メンバーのうち豊田啓介さん、酒井康介さんが工学部建築学科卒)など10名。実は、東京大学に「デザイン」と名のつく学科はありませんが、「注目のデザイナー」には建築家も含まれているためランクインしています。3位は東京造形大学。Eテレ「デザインあ 解散!コーナー」の企画制作で知られるグラフィックデザイナーの岡崎智弘さん(デザイン学科卒)のほか、9名が登場しました。続く4位は金沢美術工芸大学です。同校からは“心地よい革新”という視点のもと、多彩な領域でデザイン/クリエイティブディレクションを行う北川大輔さん(デザイン科卒)ほか6名のデザイナーが登場。そして5位にランクインしたのは4つの学校です。なかでも桑沢デザイン研究所は専門学校として唯一、5位以内にランクインしました。その桑沢デザイン研究所からは、プロダクトデザインの分野でミニマルな造形を追求し続けるインダストリアルデザイナーの渡辺弘明さん(リビングデザイン研究科卒)、そして東京藝術大学からは、椅子に魅せられた家具デザイナー・横田哲郎さん(デザイン科卒)。日本大学からは領域にこだわらないデザインを手がけるプロダクトデザイナーの大沼敦さん(デザイン学科卒)、早稲田大学からはプロジェクトデザイナー/プロデューサー/知財ハンターといういろいろな顔を持つ出村光世さん(経営システム工学科卒)が登場しています。活躍するデザイナーをきっかけに、学校を調べてみよう!総合ランキング1~5位までの学校と、登場した「注目のデザイナー」の一部をご紹介しました。さまざまな領域で活躍するデザイナーのみなさんの出身校についてもっと知りたいという方は、デザインノトビラの「学校をさがす」ページから学校情報を調べることができます。また、ここで紹介しきれなかったデザイナーは他にもたくさんいます。これまでどんなデザイナーが活躍し、その人は学生時代にどんな環境で何を学んできたのかを知ることは、学校選びのヒントになるはず。ぜひJDNの「注目のデザイナー」もチェックしてみてくださいね!
2023年11月2日(木)
コラム
武蔵野美術大学

【10月・11月開催】美術系大学・学校のセンスが光る!学園祭ポスターまとめ

美大・デザイン系の学校の学園祭日程は、デザインノトビラ「イベントをさがす」ページから検索できます。ぜひ活用してみてくださいね!注目の学園祭ポスターを編集部がピックアップ!学年や学科・学びの領域を飛び越え、学生たちが自らの手でつくり上げる学園祭。とくに美大・デザイン系の学校においては、ものづくりを学ぶ学生の創造力が存分に発揮される一大イベントです。進学を考えているなら、志望校の色を知るためにも訪れない手はありません。今回は、そんな学園祭の楽しさや魅力を伝えるポスターに注目。2023年10月・11月に開催される学園祭のなかから、デザインノトビラ編集部がピックアップしたポスタービジュアルを、各学園祭の運営を担当する学生からのコメント・メッセージとともにご紹介します。わくわくするような、センスの光るポスターがこちら!桑沢デザイン研究所「桑沢祭」(10月7日・8日)【在学生よりコメント】■学園祭テーマ・コンセプト今年度の桑沢祭は「さがす・さぐる」をテーマに開催します!みなさんのご来校お待ちしております!■来場者のみなさんへ桑沢祭の目玉でもある学生によるファッションショーは、10月7日11:00〜・15:00〜、10月8日11:00〜の全3回実施します。ほかにも、スタンプラリーや桑沢生による作品販売の場「桑マート」、課題展示、大正ロマンカフェ、学内の作品コンペティション「桑沢グランプリ」、学生展示、イラストサークル展示、きぐるみ「さぐるん」 などなど、注目のプログラムが盛りだくさんです!※10月7日(土)13時までは桑沢デザイン研究所の学生のみ入場可能となります東京造形大学「Creative Spiral Festival」(10月13日~15日)【在学生よりコメント】■学園祭テーマ・コンセプト今年のテーマは「溢れんばかり。」です!“溢れんばかり”とは、所定の範囲に収まりきらず溢れそうなほどにたくさんある、または満ちている様子を表します。メインビジュアルの色鮮やかな色彩とさまざまなエレメンツは、アイデアが溢れ出た瞬間を表現しており、美術大学ならではのものとなっています。■来場者のみなさんへ学生たちのあり余るほどの情熱やアイデア満載の作品展示、マーケット、パフォーマンス、模擬店、イベントなどをご用意してみなさまをお待ちしています。ぜひご来場ください!武蔵野美術大学 芸術祭(10月27日~29日)【在学生よりコメント】■学園祭テーマ・コンセプト今年度のテーマはメキシコの伝統行事である「Dia de muertos(死者の日)」です。隔たれていた故人の魂を、1年に一度生者の世界へ楽しく迎え入れる死者の日のように、普段はムサビの外や美術の領域外にいる方を、美術の楽しさで迎え入れられる祭典にできるようにと願いを込めて決定しました。■来場者のみなさんへムサビ生の情熱と信念のこもった作品の数々を、現地で是非お楽しみください。この芸術祭で、みなさまに魂躍る作品との出会いがありますように!名古屋デザイナー学院「DESIGNERS market」(11月2日・3日) 【在学生よりコメント】■学園祭テーマ・コンセプト名古屋デザイナー学院のデザイナーズマーケットは「作品から商品へ」をコンセプトにし、学生からクリエイターへと意識を転換させる実践型の学園祭です。学科、学生それぞれの特性を活かし、デザインを提供・販売します。マーケットを通して消費者へ商品を届けることでクリエイターとしての考えやお金と時間の使い方を学ぶことを目的としています。■来場者のみなさんへサイバーパンク!平成回顧!童話の世界!さまざまな学科が趣向を凝らした企画でおもてなしします。イラスト展示!フォトスポット!クイズ!探偵!ギャル!?デコ!?ほかにも喜んでいただける企画をたくさん用意しています!将来デザイナー、クリエイターを目指す学生たちのつくるグラフィックやCG、イラスト、グッズ、洋服を生で「見る・買う・話す」ことができる貴重な機会です。ぜひご来場ください!愛知県立芸術大学「愛芸祭」(11月3日~5日)【在学生よりコメント】■学園祭テーマ・コンセプト愛芸祭2023のテーマは、「カオス~芸術の波、創造の渦~」です。音楽学部と美術学部、学生一人ひとりの個性、無数の自由な創造が混ざり合うカオス。それは時に波となり押し寄せ、渦となり人々を巻き込む。さまざまな場所で湧き起こるカオスに身を委ね、ここでしか味わえない芸術に浸ってみませんか。■来場者のみなさんへ自由に構成されたステージ、展示、演奏会。学生が自ら設計する模擬店。学生たちの豊かな個性によってつくり出される愛芸祭には、芸術に関心がある人も、そうでない人も、みんなが楽しめる企画が盛りだくさん。ぜひ遊びに来てください!多摩美術大学 芸術祭(11月3日~5日)【在学生よりコメント】■学園祭テーマ・コンセプト「さん、はいっ」こちらのテーマは、芸術祭という晴れ舞台で「作品や作家が日の目をみる、光に照らされること」をキーワードにして考案されました。「さん=sun」、「はいっ=high,Hi」といった意味合いを込めており、「さん、はいっ」の掛け声で一斉にジャンプするような元気さ、明るさ、楽しさで溢れる芸術祭になってほしいという願いも込めました。■来場者のみなさんへ多摩美術大学の芸術祭は、作品の展示や企画、模擬店やフリーマーケット、ライブパフォーマンスなど、たくさんの催しを一挙に楽しむことができるイベントです。2023年度はコロナ禍以前に近い形式での開催を目指し、飲食物の提供も行う方向で準備を進めています。学生たちの熱い思いを、ぜひとも体感していただきたいです!みなさまのご来場を、心よりお待ちしております。学園祭を調べよう!いかがでしたか?各学校の学園祭については「イベントをさがす」ページから検索できます。ぜひ活用してみてくださいね!こちらの記事もチェック! 【学園祭2023】美大・デザイン系学校の学園祭へ行こう! 見どころを紹介
2023年10月6日(金)
コラム
武蔵野美術大学

【学園祭2023】美大・デザイン系学校の学園祭へ行こう! 見どころを紹介

美大・デザイン系の学校の学園祭日程は、デザインノトビラ「イベントをさがす」ページから検索できます。ぜひ活用してみてくださいね!一般的な大学とは一味違う?美大・デザイン系学校の学園祭 写真提供:武蔵野美術大学 写真提供:武蔵野美術大学  学校生活の雰囲気や楽しさに触れることができる学園祭。オープンキャンパスとはまた異なる視点で学校を知ることができます。中でも、ものづくりにおいては一味違うのが美大・デザイン系学校の学園祭です。絵画、彫刻、工芸、建築、デザイン……さまざまな領域でものづくりを学ぶ学生が協力してつくりあげるため、構内を彩る装飾やポスターなどの制作物には気合の入ったものが多く見られます。また、作品展示や作品・手作りグッズの販売がおこなわれるのも特徴のひとつ。本記事では、そんな美大・デザイン系の学校でおこなわれる学園祭の魅力を、写真とともに紹介していきます!※具体的なプログラムの内容については各大学の情報を参照ください。学園祭の検索は「 イベントをさがす」ページへ学園祭のここが見どころ!3選■その1 目にも楽しい模擬店に注目学園祭と聞いて、まずは模擬店を思い浮かべるという人も多いのでは?のぼりや看板、着ぐるみなどでお客さんを呼び込むのは定番の風景ですが、美大・デザイン系の学校のなかには凝った外観で人を集めるお店があります。アイデアもそうですが、実際にかたちにできてしまうところは、さすが普段からものづくりに励む学生たち。メニュー表のグラフィックやお店・商品のネーミングにいたるまで創意工夫が見られたりするので、ぜひ細かい部分も注目してみてください!写真提供:多摩美術大学 写真提供:多摩美術大学 ■その2 作家・アーティストの卵の作品も?フリーマーケットがアツい!手づくりのキーホルダーや小物、アクセサリー、イラストや写真のポストカード、Tシャツ、陶芸品……学生によるさまざまな手づくり品が販売されるフリーマーケットは美術・デザイン系の大学・学校ならでは。学生の手づくり品だからといって侮ることなかれ。中には既製品に負けない、かなり本格的なつくりのものもあります。普段行くようなお店では手に入らない、ここだけの一点ものに出会えるかもしれません!写真提供:東京造形大学 写真提供:東京造形大学 写真提供:多摩美術大学 写真提供:多摩美術大学 ■その3 学校全体が美術館!作品展示をじっくり楽しむ学科やコース、研究室、有志グループなどが企画し、普段の創作活動を発表する作品展示。学業の集大成として4年次におこなわれる卒業制作展とは異なり、さまざまな学年の作品を通して日頃の学びの様子を垣間見ることができます。また、開設されている学科やコースによりますが、絵画、彫刻、デザイン、工芸などの作品展示のほか、舞台の上演やアニメーションの上映、ファッションショー、ダンスパフォーマンスなどがおこなわれる大学・学校も。学科やコース選びに迷っているという人は、学園祭でさまざまなジャンルの表現に楽しみながら触れてみるのがおすすめです。写真提供:武蔵野美術大学 写真提供:東京造形大学 写真提供:東京造形大学 写真提供:多摩美術大学 夏のオープンキャンパスを逃した人は特に注目!進学コーナー高校生も多く集まる学園祭。受験生向けに進学相談コーナーや説明会、資料配布、入試参考作品の展示などをおこなう大学・学校もあります。オープンキャンパスに行きそびれてしまったという人は、この機会にチェックしておきましょう。また、学園祭は在学生との交流のチャンスでもあります。もし進学コーナーがなかった場合でも、会場の在学生に勇気を出して声をかけてみましょう。受験に役立つ、生の情報を得られるかもしれませんよ。写真提供:多摩美術大学 写真提供:多摩美術大学 学園祭の開催情報を調べよう!写真提供:武蔵野美術大学 学生たちによる、ものづくりへの熱意やこだわりを存分に感じられるのは美大・デザイン系学校の学園祭ならでは。また、進学を考える人にとっても、大学の色を知ることができる貴重な機会です。デザインノトビラでは、そんな学園祭を簡単に検索できます。「イベントをさがす」ページの「イベント種別」で学園祭を選択して、ぜひ探してみてくださいね。※本記事の掲載写真は2022年度以前に開催された学園祭で撮影されたものです
2023年9月11日(月)
インタビュー
武蔵野美術大学

学生デザイナー×学生経営者が二人三脚で運営するショップ「アナザー・ジャパン」の学びとは?

いま、デザイナーに求められているのは、製品の形やパッケージなどの目に見えるものだけではなく、コンセプトや戦略のような、形のないものまでデザインする力。そんな広義のデザイン力を養える場でもあるのが、『新しい発見と懐かしさを届け、もうひとつの日本をつくる』をビジョンに掲げ、学生が本気で経営を学び実践する47都道府県地域産品セレクトショップ「アナザー・ジャパン」です。(Photo : Kiyoshi Nishioka) 舞台は東京駅前の再開発プロジェクト「TOKYO TORCH」。参加するのは、「郷土愛」と「フロンティアスピリット」を持ち、数ヶ月間にわたる選考を経て集まった学生21名。店頭に置かれる商品は2ヶ月ごとに産地を変え、入れ替わるシステムです。日本全国を地域ブロックごとの6チームに分け、3人の経営担当の学生と、伴走するデザイン担当の学生1人が商品の仕入れから店舗づくり、運営、接客までを担います。なかでも今回は、デザイン担当の学生として、「アナザー・ジャパン」の経営を支える3名のデザイナーを紹介。デザイナーとして応募しようと思った理由や活動内容、得られた学び、卒業後の夢や目標について語っていただきました。それぞれの応募のきっかけとデザインへの思い――まず、みなさんが経営者枠ではなく、デザイナー枠で応募した理由を教えてください。谷中晴香(たになかはるか) 群馬県出身。群馬大学医学部医学科4年生谷中晴香さん(以下、谷中):もともと大手教育企業の学生チームで、デザイン統括としてWebサイトやアプリ、販促物などのデザインを担当していたこともあり、平面デザインは経験がありました。将来は医師になると考えたときに、空間デザインやそのほかのデザイン分野についても学んでみたいと思ったのが応募のきっかけです。医療の世界はデザイン分野が未開拓で、たとえば手術などに関する説明書きや院内の明るさ、器具の配置など、あらゆるところにデザインが介入する余地があると感じています。だから学生のうちに、どこまでデザインで解決できるのかを知ってみたいと思いました。今井咲希(いまいさき) 神奈川県出身。武蔵野美術大学造形構想学部クリエイティブイノベーション学科3年生今井咲希さん(以下、今井):私は、もともと美術大学を志望した理由も「地域活性に携わりたい」という思いからでした。自分で創造性を操れる人の方が自分の思考を社会に反映させやすいと考え、その術を身につけたいと思ったんです。またデザインを人に届けるためには、戦略的な部分も同時に学ばないといけないと考えていて、アナザー・ジャパンでは戦略を練るところから経営者と伴走しつつ、クリエイティブなアウトプットもできる点に惹かれました。滝本陸人(たきもとりくと) 埼玉県出身。早稲田大学文化構想学部文化構想学科3年生滝本陸人さん(以下、滝本):僕は大学1年生のときに趣味でデザインをはじめて創作の楽しさに目覚め、2年生でグラフィックデザイナーとして個人で活動していました。そんななかで自分をもっと鍛えたい、自分のデザインや考え方を成熟させたいと思ったのが応募した理由です。デザイン事務所のインターンなども探していたけど、一番の決め手は、コンセプトから構想したり、お店づくりから携われたりすること。何年も経験を積み上げてきたデザイナーしかやらせてもらえないような仕事に挑戦できるというのは貴重な機会だと思いました。学生が考える、組織でのデザイナーの役割――研修を受け、それぞれプロジェクトを進めているとうかがいました。具体的にどんな活動をしていますか?谷中:研修ではまず、それぞれが各地域の担当チームに入って、3人の経営者がどんな思いを持っているか聞いた上でコンセプトづくりをします。これがデザイナーとして最初の仕事。並行して、アナザー・ジャパンらしさを表現したイメージコラージュを作成。こういう雰囲気のお店にしようとか、こういう雰囲気の場所に並ぶような商品を集めよう、などを考えていきます。これは経営者の商品セレクトにも反映されます。滝本:僕は九州を担当しています。イメージコラージュと並行して、企画自体のコンセプトづくりや陳列方法、タペストリーなどのデザイン、地域の事業者さんとのコラボ商品のパッケージデザインなどの準備に追われています。九州担当の滝本さんが制作したタペストリー。2023年8月9日~10月1日まで開催している「アナザー・キュウシュウ」にて使用される今井:私はコンセプト成形から商品のセレクトまでをおこないつつ、近隣のホテルやビルに置かせてもらうチラシや掲示するポスターなど、販促物のデザインを進めています。また、コンセプトや雰囲気が伝わるビジュアルをつくるための撮影に立ち会い、プロのデザイナーやカメラマンにサポートしていただきながらスタイリングやディレクションも経験しました。――経営者に伴走しながら、デザイナーとしてさまざまな場面で活動されていると思いますが、デザイナーにはどんな役割が求められていると感じますか? 経営チームとデザイナーチームによるミーティングの様子谷中:課題を解決することが、デザイナーの役割だと思います。経営者もそれぞれにクリエイティビティがあって、表現したいコンセプトなどがあるなかで、根本的な課題や目指したいところはどこだろうと考え、収束させること。いまはそこを意識して、いろいろなクリエイティビティをまとめてコンセプトづくりをしています。今井:私は課題解決に加えて、新しい価値を提供するというのもデザイナーやクリエイティビティの役目だと感じています。その新しい価値を提供するためには、ものの本質、根源を突き詰めて見極める力も重要で、そこがデザイン力だと思います。滝本:参加する前は、デザイン的な思考力がなかったなと気づきました。想像力だけだった。コンセプトを決めたり、イメージコラージュをつくったりするときなどは、何をあらわしたいのか、何がその地域らしさなのかをリサーチから引き出して、土台をつくって考えないといけない。そういったやり方を知ったのは衝撃でした。アート寄りの頭だったのが、研修を経てデザインの思考に変わってきている感じはあります。デザイナーもロジカルに考える力が大事で、経営者の視点も持ちながら、いろいろなアイデアをまとめたり、違う切り口でアイデアを出したりして議論を進展させる努力も必要だと思いました。壁にぶつかりながら得た、新しい学びとは――いまぶつかっている壁や学びはありますか?谷中:異なる人のいろいろな考えを、背景もふまえた上でまとめるということが難しいと感じています。最終的に1つの意見にするためにはほかの意見を捨てなくてはいけない。研修では、「やらなくていいことを決める」ことが大事だと学びました。そのときに大切だと思ったのが、その決断に関わるすべての人と話をすること。だからこそ、同じビジョンを持つこと、率直な意見が言える関係性や心理的安全性が大事だと学びました。今井:困難なことは、経営者との間でデザインの共通言語をいかに築いていくかというところです。デザインの方向性はパッと決まるものではなくて、背景があってこそ生まれます。そういった内容を理解しやすく伝えるのはデザイナーの役割でもあるなと。表面を作るだけがデザインではなくて、背景やビジョンをデザインするまでがデザインの領域であるということを一人でも多くの人に周知していく必要があると感じました。 サービスデザインだったり、人の心理に働きかけるデザインだったり。単なるものづくりやビジュアルデザインではないからこそ、社会が新しい方向を向いていくのかなと。実社会に出たときもここでの学びが生かせるようにしたいですね。滝本:ふと思いついたアイデアでは解決できない課題が多く、そこに至るまでの背景、本質を理解することがとても重要だと気づきました。同時に、自分のリサーチ力不足にもぶつかって。将来デザイナーをやるのか、ほかの仕事につくかわからないけど、取り組み方を変えないと活躍できないだろうと思い知らされました。いい意味で我流を見直し、自分に足りなかったものを摂取できている。将来どんな道に進んでも、大事なことだなと思っています。デザインの楽しさを再確認。これからに生かせること――初めてのことばかりで大変なことも多いなか、楽しいと感じることはありますか?滝本:うまくいかないもどかしさが続いて、ようやく手を動かしてビジュアルをつくっているけど、改めてつくるのって楽しいなと思っています。しっかりリサーチをした上でつくるということを理解して、これまでと違う心持ちでデザインと向き合うことで、最初にデザインをはじめたときと同じ高揚を感じています。今井:経営者チームとやりとりを重ねて、一緒に形にできたときはやりがいを感じますし、デザイナーチームのみんなと作業をすることは少ないけど、同じ境遇だろうと考えると心強いです。同じ土俵に立つデザイナーの仲間ができたことは、私の中では支えになっています。谷中:私も、デザイナーであり仲間を得られたのは、心の支えになっています。自分がデザインしたものに対して、同じ目線でいろいろ言い合えることは新鮮で楽しいです。滝本:僕は2人から学ぶことが多いですね。自分にはなにが足りないか考える機会にもなっています。谷中:それぞれが違うタイプだからこそ、お互いのいいところを見て盗みあえるというか、参考にできるところはありますね。集まったときには情報共有ができるし、別のチームだけど似たところで詰まっていたり。組織の関係性もいいと感じます。――最後に、ここでの学びを今後どう繋げていきたいと考えていますか?滝本:将来を決めかねてはいますが、どんな仕事についても、課題をみつけて本質を理解して、形にならないものをデザインしていくことは同じだなと。自分の考えをどんどんブラッシュアップしていくスキルは必ずどこかで生きてくると思います。今井:日本を編集的な視点で見るのもそうですし、将来どこかの街のコミュニティに入ったときも、住人の思いにいかに寄り添うアウトプットができるか、その術を空間設計やビジュアル、言葉のデザインを通して身につけることができていると感じます。将来は地域デザインに携わりたいので、この力を生かして、地域に合ったクリエイティブをつくれるクリエイターになりたいと思います。谷中:卒業後は、医師兼デザイナーとして活動したいと思います。難しい内容をわかりやすくする平面デザインから、空間デザイン、さらに患者さんが着る洋服や病院の食事まで、広義のデザインでトータル的に患者さんを元気にしたい。どこまでデザインで介入できるかわからないけど、いろいろな方法を模索していきたいと思っています。目の前の病気だけでなく、患者さんの豊かな人生までもデザインできるような医者になりたいと思います。地域で活躍するデザイナー・坂本大祐さんより若者にメッセージ合同会社オフィスキャンプ代表 坂本大祐(さかもとだいすけ)「アナザー・ジャパン」のクリエイティブに携わるプロのデザイナーで、日本各地の課題をデザインの力で解決している坂本大祐さん。そんな坂本さんから、デザインに関心のある学生に向けたメッセージをいただきました。若い世代のみなさんは、新しいことだけでなく、我々が古いと思っていたことにも新しさを見つけ、おもしろがってくれていると感じます。そして我々よりも、もっとウェットに世の中や地域と付き合っているなという印象です。デジタルネイティブであることにも、ものすごい可能性を感じています。さまざまな地域で活動していて実感しますが、ネットやテレビで見聞きするほど地域はパラダイスではないし、すごく閉鎖的で後進的な場所でもありません。それは都市でも同じ。魅力も課題も地域によってさまざまです。 だから、もし将来地域で活躍するデザイナーになりたいと考えている方は、ぜひ実際に足を運んで、自分の目で見て、話を聞いて、そこで得られた情報から判断してほしいと思います。興味があるなら、リアルな自分だけの体験をなるべく増やして、活躍していってもらいたいですね。文:高野瞳 撮影:井手勇貴 取材・編集:萩原あとり(JDN)
2023年8月23日(水)
インタビュー
武蔵野美術大学

美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(1)

進学を考える時に気になるのが、リアルな大学生活の様子。なかでもカリキュラムやイベントに特徴がある美大・デザイン系大学の様子は、外部からはわかりづらいもの。そこで「デザインノトビラ」では、実際に美大・デザイン系大学に通っている学生の皆さんを取材して、リアルな学生生活を聞いちゃいました!今回ご紹介するのは、東京都にある武蔵野美術大学(以下、ムサビ)の学生さんたち。2022年10月28日から30日まで開催される学園祭「武蔵野美術大学芸術祭2022 まうじゃないか」の準備に励む、「芸術祭実行委員会執行部」の方、4名にお話を伺い4回連載でお届けします!トップバッターは造形学部彫刻学科2年で芸術祭実行委員会執行部のSさんです。美大生の忙しい一日 ―― 学園祭(芸術祭)準備でお忙しい中、ありがとうございます!毎日、どんなスケジュールで生活しているのですか?一限がある日はそれに合わせて学校に行っており、ない日も昼休みからは学校で芸術祭準備をしています。放課後は週に数日バイトに行っているんですが、それがなくても執行部の業務を進めてから帰宅しています。その後も自宅で課題に取り組んだり、オンライン授業を受けたりするんです。午前の授業がない日も、芸術祭の準備活動を行う  ―― とても忙しくて、驚きました。そうですね。でも私が学んでいる彫刻は体力が大事なので、日付が変わる頃には就寝するよう心がけています。 ―― 制作のためにコンディションを整えてらっしゃるんですね。ちなみに、どんな講義が好きですか?日本国憲法を学ぶ講義です。著作権のことなどについて判例を見ながら詳しく学ぶことができ、今後クリエイターやアーティストとして生活することを考えている学生なら必見の授業だと思います。 ―― 将来のために制作以外もしっかり学ばれているのですね。サークルには入ってらっしゃいますか?サークルは、「学生広報局」というムサビを目指す高校生の支援をするサークルに所属しています。高校生の相談に乗ったり、大学生活を紹介する動画を作ったりしています。そして今は、芸術祭実行委員会執行部で芸術祭の準備活動もしています。準備活動は今、お昼休みの一時間と放課後は毎日行っていて、帰宅してからも作業することも多いですね。とはいえ学生の本分は勉強なので、できるだけ授業を欠席したりしないように頑張っています。 ―― ムサビに入ってみて感じる、一番の魅力はどんなところですか?ムサビの一番の魅力は、「なんでもできる」ところだと思います。他の美大よりも授業の幅も広く、教養科目と呼ぶのが惜しいほど専門的な知識を得ることができます。芸術祭実行委員会執行部や「旅するムサビプロジェクト」など、大学生という立場を目一杯活かせる活動もたくさんあります。もちろん制作まわりも充実しています。学内に画材店の「世界堂」があるから制作で足りないものをいつでも買いに行くことができ、アトリエは朝早くから夜遅くまで使えるんです。できあがった作品は、著名な作家でもある教授陣に見ていただけるという、本当に素晴らしい環境です。また、就職活動にも大学をあげて取り組んでおり、「美大は就職できない」という先入観を覆す高い就職率を誇っています。みんなで学園祭(芸術祭)をつくり上げる ―― 武蔵野美術大学の学園祭(芸術祭)は、毎年テーマに沿ってその世界観を作り上げ、美術大学の中でも国内最大級とうたわれていますね。ここからはその準備の様子を伺います。まず今年は3年ぶりにキャンパス現地での開催となりますが、どんなテーマなのでしょうか?テーマは「ええじゃないか」です。江戸の活気を受けて、コロナの収束を芸術を通して願うというコンセプトのもと決定しました。タイトルはMusashino Art Universityの略称「MAU(まう)」をかけて、「まうじゃないか」。皆でコロナ収束を共に願い、新しい芸術祭を楽しんでいただければ嬉しいです。武蔵野美術大学芸術祭2022「まうじゃないか」公式ポスター   ―― 学園祭(芸術祭)の準備で工夫したところ、そして、大変に感じたところをお教えください。私は全体をとりまとめる立場なので、部員全員ができる限り快適に活動できるように考えて動くことが多いです。作業を手伝ったり、参加者の対応をしたり、みんなが使う部屋を掃除したり。全体を見渡して人手の足りなさそうなところを手伝い、困っている部員に手を貸すことを心がけていました。大変だったのは、部員との考え方の違いをすり合わせることです。執行部にはムサビにある2学部両方の学生が所属していて、考え方がさまざまです。その隙間をどう埋めるか、とても苦労しました。でも、どの部員も、ものを作る人間としての信念をしっかり持っていて、ひとつのものをみんなで作り上げる達成感は格別でした!  ―― ありがとうございました。ムサビの皆さんの集大成、芸術祭「まうじゃないか」が本当に楽しみです。最後に、進路を考えている高校生へのメッセージをお願いします。私はもともと他大学志望で、2浪してムサビに入学しました。ムサビへの入学が決まった時、4年間全力で大学生活に取り組もうと決めたんです。大学は、自分で動かないと何かを得られない場所。つまり熱意があれば、きっと素晴らしい大学生活になると思います。頑張ってください!(取材・制作:JDN「デザインノトビラ」編集部)次の記事はこちら>【第2回】美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(2)
2022年10月26日(水)
インタビュー
武蔵野美術大学

美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(3)

進学を考える時に気になるのが、リアルな大学生活の様子。なかでもカリキュラムやイベントに特徴がある美大・デザイン系大学の様子は、外部からではわかりづらいもの。そこで「デザインノトビラ」では、実際に美大・デザイン系大学に通っている学生の皆さんを取材して、リアルな学生生活を聞いちゃいました!第1回、第2回に引き続き、武蔵野美術大学(以下、ムサビ)で学園祭「武蔵野美術大学芸術祭2022 まうじゃないか」の準備に励む、「芸術祭実行委員会執行部」の方4名にお話を伺っています。今回ご紹介するのは、造形学部視覚伝達デザイン学科2年で実行委員会執行部のOさんです。前回の記事はこちら>【第2回】美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(2)美大生になって、自分が知らなかった自分に出会えた ―― 執行部の皆さん、本当にお忙しいようですが、Oさんは今どんなスケジュールで学生生活を送られていますか?午前中の授業に合わせて大学に行き、授業や課題、芸術祭の準備をして帰宅すると、就寝するのは日付が変わった後ですね。芸術祭の準備は、空きコマ(自分が選択している講義と講義の合間)や放課後を利用して行っています。講義の合間を縫って行われる、芸術祭の準備  ―― 大学では、どんな講義がお好きですか?「写真演習」が好きです。座学では写真やカメラの仕組みと歴史を知ることができ、実習では、スタジオと暗室を使って本格的な撮影やフィルムの現像を体験できるのが魅力です。写真を撮る習慣ができると、これまで何気なく見ていた景色を観察する目で見られるようになりました。景色を眺めながら構図を考えるのがとても楽しく、他の制作にも、この経験はつながっていきそうです。 ―― アルバイトやサークル活動などはされていますか?テレビセットの装飾などを扱う会社でアルバイトをしています。私は収録現場で、床材や装飾を飾ったりバラしたりする部署に所属しています。芸術祭準備期間は少しお休みしていますが、それ以外は週に数日勤務しています。サークルは「東京五美術大学管弦楽団」という、東京の5つの美術大学からなるオーケストラサークルに所属しています。非公認ですが、ビリヤードサークルにも籍を置いています。また、友達と一緒に「ensemble」という演劇ユニットで演劇をつくっており、舞台美術を担当しています。3月にオリジナルの2.5次元作品の公演を予定していますので、ぜひ足をお運びください。 ―― ムサビに入ってみて、魅力を感じるのはどんなところですか?自分が知らなかった自分に出会えることです。さまざまな考えを持った人と出会い刺激しあう中で、自分のやりたいことも、自分自身が何者なのかも、少しずつわかっていくように感じます。授業が「手本通りにつくれることが目標」ではなく、課題のテーマ決めから自分で行い、たくさんリサーチや分析をした上で作品ができあがるのを目指すという、原点に立ち返って考える機会が多いのも理由の一つかと思います。また、どんな挑戦も馬鹿にされない環境もありがたいなと日々思っています。コロナ禍を経て、3年ぶりにキャンパスで開催する学園祭。エントランスに注目! ―― 学園祭(芸術祭)の準備段階では、どんなところに気を配りましたか?私はエントランス(※)の制作班長なのですが、ほかの班員を上手に巻き込めるように気をつけました。もともと一人で完結させたい性分なんです。でも今回は、なるべく抱え込まないように、誰かに任せられることがないか常に探して、積極的にお願いしています。また、班員や部員とのコミュニケーションは大変だなと感じました。学年も学科もさまざまで、特に授業期間が始まると、予定を合わせて会うのが難しくなっていきました。そんな中で、どうすれば集団としてのモチベーションを維持できるか考えていました。※芸術祭の期間中、入口に臨時設置される立体構造物チームでエントランス設営作業 エントランス仮設置の様子  ―― ムサビ芸術祭「まうじゃないか」の見どころを教えてください。正門を通ってすぐのエントランスを、ぜひくぐっていただきたいです。コロナ禍を経てキャンパスでの開催となった今年は、3年ぶりにエントランスが建つんです。3年前に来場者として見たエントランスを、今年はつくる側となり、エントランス班⻑として力を尽くした思い入れのあるものです。 ―― ありがとうございました。高校生をはじめ、美大・デザイン系大学への進学を考えているへのメッセージをお願いします!美大生は楽しいです。興味のあるものは、全部手を出してみると面白い未来が待っているかもしれません。高校生の頃は、自分が舞台美術をつくったり、エントランスのような建築に近いものを扱ったりするとは思いもよりませんでした。頑張ることも大事ですが、何より今を楽しんでください。(取材・制作:JDN「デザインノトビラ」編集部)次の記事はこちら>【第4回】美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(4)
2022年10月26日(水)
インタビュー
武蔵野美術大学

美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(4)

進学を考える時に気になるのが、リアルな大学生活の様子。なかでもカリキュラムやイベントに特徴のある美大・デザイン系大学の様子は、外からでは分かりづらいもの。そこで「デザインノトビラ」では、実際に美大・デザイン系大学に通っている学生の皆さんを取材して、リアルな学生生活を聞いちゃいました!4回にわたり、武蔵野美術大学で学園祭(芸術祭)「まうじゃないか」の準備に励む、「芸術祭実行委員会執行部」の学生4名それぞれにお話を伺っています。今回のご登場は、造形学部工芸工業デザイン学科(以下、工デ)2年のRさんです。前回の記事はこちら>【第3回】美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(3)ムサビの魅力は「多様性を認め合う」ところ ―― ここまでお話を伺ってきた皆さん、講義にバイトに学園祭(芸術祭)準備にと大変充実した生活ですね。Rさんは毎日、どんなスケジュールで生活しているのですか?1年生の時は午前中にキャンパスで必修の実技を履修していたので、早朝に起きていました。今は午前中にオンデマンドの授業を受けたあと、実技の授業に合わせて学校に行く生活です。帰宅時間はその日によってまちまちです。遅くまで学校に残って制作したり、バイトしたりする日もあれば、夕方に帰れる時もありますね。 ―― オンデマンドと実技と、両方の講義があるんですね。どんな講義が一番お好きですか?工房で制作する時間が一番好きです。やっぱり制作するために大学に入ったというところがあるので。工デは2年の9月から専攻に分かれ、今ようやく自分の好きな素材で制作ができています。座学の授業で印象的だったのは「文化講義」で、『ジョーズ』やマーベル作品など名作と言われる映画を分析的思考で鑑賞していくものです。映画の見方が180度変わりました。 ―― アルバイトやサークルはされていますか?アルバイトは授業がない日にたくさん入れていますが、今は執行部の活動が忙しいので週1回ほどです。サークルには入っていません。 ―― 入学して気づいた、ムサビの魅力はどんなところでしょうか?この大学の魅力の一つは、「多様性を認め合える」ところだと思います。人数も美大にしては多い方ですが、だからこそ、いろんな人がいて、それぞれ個性的だけれどその良さを面白がれるのがとても心地良いです。勉強や運動ができなくても、自分に素直な人が一番強いのがこの大学です。コロナ禍を経て3年ぶりのキャンパス開催となる学園祭 準備はすべてが手探り ―― いよいよ学園祭(芸術祭)が間近です。準備で苦労したことや、力を入れたのはどんなところでしょうか?コロナ禍が3年にわたったため、キャンパス開催を経験した学生が少なく、準備は過去の引継書や他大学の様子を見ながらすべて手探りでした。時にはくじけそうになりつつも、いろんな人の支えを感じながら頑張ってきました。私自身は、芸術祭実行委員会執行部のなかでも「広報部」として宣伝や制作物を担当しており、週1回Zoomまたは対面で班会と部会を行っています。会議の場で、分担して制作したものや作業の進捗確認をしているんです。制作物は最初から最後まで関わるのが基本なので、大学に入りたての1年生でもガンガン制作してもらっています。制作物を進める過程では、テーマからそれていないか何度も話し合いました。3年ぶりのキャンパス現地開催ということで宣伝に力を入れたい、テーマ「まうじゃないか」が示す前向きなイメージを体現したいとの思いからです。芸術祭公式サイトヴィジュアル 構内の告知物 納品されたDM  ―― 芸術祭の見どころを教えてください。くまなく見てほしいです。私は宣伝が主な仕事なので、開催できてたくさんの方にご来場していただけたらひとまず満足なのですが、学科の友人が当日行うフリマのために授業の合間をぬって制作したり、展示の準備をしたりしているのを間近で見ているので、お越しくださった方にはその熱量を感じてもらいたいんです。また、公式グッズは大学に入りたての一年生が一生懸命制作してくれたものですし、ポスターやDMはひと夏かけて議論を重ねたものです。学生みんなの、芸術祭にかけてきた思いを肌で感じてもらいたいです。 ―― ありがとうございました!10月28日からのムサビ芸術祭「まうじゃないか」を楽しみにしています!最後に、進路を考えている方にメッセージをお願いします。きっとこの記事を読んでくれている高校生などの方は、美大に進学しようか迷っていたり、興味はあるけれど一歩踏み出せていない人が多いのではと思います。私も含め、多くの美大生が同じように悩み抜いてこの大学にたどり着きました。美大に進むと将来の選択肢が狭まるように思えますが、特化した分野に秀でるからこそ希少価値が高いと、私は思っています。真剣に向き合えば、なんでもできるような大学なので、ちょっとでも興味があったら、まずは学園祭やオープンキャンパスなどで大学を訪れてみてください!(取材・制作:JDN「デザインノトビラ」編集部)
2022年10月26日(水)
インタビュー
武蔵野美術大学

美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(2)

進学を考える時に気になるのが、リアルな大学生活の様子。なかでもカリキュラムやイベントに特徴がある美大・デザイン系大学の様子は、外部からではわかりづらいもの。そこで「デザインノトビラ」では、実際に美大・デザイン系大学に通っている学生の皆さんを取材して、リアルな学生生活を聞いちゃいました!第1回に引き続き、武蔵野美術大学(以下、ムサビ)で学園祭「武蔵野美術大学芸術祭2022 まうじゃないか」の準備に励む、「芸術祭実行委員会執行部」の方4名にお話を伺っています。2人目となる今回は、造形構想学部クリエイティブイノベーション学科2年で実行委員会執行部のYさんです。前回の記事はこちら>【第1回】美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(1)やりたいことができる美大、ムサビ―― 学園祭(芸術祭)準備でお忙しい中、ありがとうございます!今は毎日、どんなスケジュールで生活しているのですか?高校生の頃と変わらない時間に学校に着いています。平日は毎日、午前中に学科の必修授業があるので大変ですね(笑)。今は基本的に講義が終わったらすぐ芸術祭実行委員会執行部(以下、執行部)の部屋に行って、書類をつくったりと芸術祭準備のあれこれをすすめ、いろいろ終わって寝るのは25時を過ぎてます。―― 朝早くから遅くまで、大変ですね。大学の講義では、どんなものが好きですか?「基礎造形」です。建築学科が開講しているのですが、建築に限らず、抽象的なものを視点としてさまざまな作品や作家、デザイナーを紹介する授業です。ゲスト講師による講義の回もとても面白いんですよ。 ―― 美大ならではですね。アルバイトやサークルもしているんですか?アルバイトは土曜日に、母校の中高でワークショップのファシリテーター的なことをしています。あと、バドミントンサークルに所属しています。 ―― ムサビの良さはどんなところだと思いますか?自由になんでも、やりたいことをやれること。それを冷たい目で見ない環境だと思います。そのような環境があるからこそ、つくる人たちは萎縮せず、奇抜なものだったり面白いものだったりをつくれるんだと思います!学園祭の全体を統一感あるものに。雰囲気まで楽しんでほしい! ―― 学園祭(芸術祭)の準備で、特に力を入れているのはどんなところですか?芸術祭を全体で統一感あるものにすることです。さまざまな要素……たとえばポスターやDMのような印刷物とエントランス(※)やオブジェなどの構造物で、色や雰囲気が異なると楽しんでもらえないと思い、それぞれの差異をなくすように頑張りました。※芸術祭の期間中、入口に設置される構造物 武蔵野美術大学芸術祭2022「まうじゃないか」公式ポスター 正門付近のオブジェ  ―― 学園祭(芸術祭)の見どころを教えてください。見どころは全部です!(笑)。つくったものに限らず、芸術祭をつくっているすべての学生の熱気、そして芸術祭自体の雰囲気を存分に堪能してください。 ―― 最後に、これから美大やデザイン系大学を目指す方にメッセージをお願いします。まずは1回でもいいので、都心からは少しばかり遠いムサビに足を運んでみてください。ぼくはクリエイティブイノベーション学科という、アートっぽくもデザインっぽくもない学科にいます。絵が描けなくても、デザインに触れたことがなくても、一般大学ではなかなか出会えないようなおもしろい人、モノ、文化に出会えると思います。(取材・制作:JDN「デザインノトビラ」編集部)次の記事はこちら>【第3回】美大・デザイン系大学生に聞く、学生生活のリアル!(3)
2022年10月26日(水)
インタビュー
武蔵野美術大学

デザインへの入り口はひとつじゃない。「デザインノトビラ」ロゴデザインに込めた思い

デザインを学び、将来を考えたい人のための情報サイトとしてオープンした「デザインノトビラ」。デザイン・クリエイティブを学ぶ楽しさを表現したカラフルなロゴデザインは、クリエイターズクラブ「NEW」が手がけています。武蔵野美術大学出身の4人のデザイナーによって結成された「NEW」のみなさんに、ロゴデザインのプロセスをはじめ、学生時代の思い出や卒業制作、これからデザイン・クリエイティブを学ぶ人に向けたメッセージをお話いただきました。デザインの世界へのトビラを表現した12種類のロゴデザイン――今回は「デザインノトビラ」のロゴをデザインしていただきありがとうございました!デザインノトビラは、これからデザイン・クリエイティブを学ぶ人へ向けた情報を発信するサイトなので、デザインの世界へと進むワクワク感を表現したデザインをお願いさせていただきました。依頼を受けてから、どのようにデザインを進めていきましたか?山田十維さん(以下、山田):NEWはいつも2人1組でプロジェクトに臨むことが多いのですが、実は今回はじめて全員一つずつ案を出し合ってつくってみました。採用していただけた僕の案のコンセプトは、「デザインを学ぶ人の第一歩」。しかも、サイト名が『デザインノトビラ』ということだったので、「入り口は一つじゃない」ということをいちばん表現したかったんです。 山田十維(やまだとおい) 1994年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業後、世界株式会社(CEKAI)を経て、2021年よりNEW inc.を設立。 企業のブランディングやプロダクト開発に携わり、デザイナー・アートディレクター、時にはプロデューサーとして活動している。家業は、箱の設計を得意とする印刷加工会社。 ――本サイトでは、デザイン・クリエイティブの領域を12種類に分けて、各カテゴリごとの魅力を情報として発信していきたいことを打ち合わせでお話しさせていただきました。山田さんをはじめ、みなさん独自の“12ノトビラ”をデザインしていただきました。 山田:サイトのコンセプトを聞いて、たしかにデザインというひとつの世界ではあるものの、12の分野それぞれの“デザイン”が存在すると思ったので、一つの分野に対して一つずつロゴを考えていきました。かたちの意味合いとしては、扉のモチーフを「D」で表現して、「D」の外側の縁取りが変形するような、それぞれバラエティに富んだ12種類の分野をロゴデザインとして表現しています。 山田さんによるロゴデザインデザインプロセスとしては、本当にいろいろなかたちをたくさんつくり、それぞれの違いを12種類考えていくという作業を繰り返しながら、一つずつ検討してブラッシュアップしていきました。この作業にいちばん時間をかけましたね。  ――かたちを仕上げていく過程は、みなさんで話し合いながら進めていったのですか?山田:完成させるにあたって明確な答えがあるわけではないので、自分のセンスに頼るしかない部分がありました。メンバーのみんなに聞いてもそれぞれ意見がバラバラだったので、最後は自分の感覚でピンときたものの中で、いちばんきれいだと思うかたちを組み合わせていった感じですね。12個並んだときのかたちのと色のバランスも、最終的な判断材料になりました。ロゴデザインの試作案。完成までに何度も試行錯誤があったそう。――今回に限らず、デザイン制作中に4人で相談したり、話し合ったりはしますか?坂本俊太さん(以下、坂本):特に見せ合って話し合うことはしないですが、実際はみんなそれぞれが勝手に途中のデザインを見て、「これちょっと変だよね」とか聞かれてもないのに突っ込んだりはしますね(笑)。 坂本俊太(さかもとしゅんた) 1993年生まれ。大阪府出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。 ――自由に言い合えるのも、信頼関係があるからこそですね。坂本:そうですね。最近はお互いの趣味や思考がわかりすぎて、「お前はそう言うと思ったよ」と返したり(笑)。 ――今回は山田さんの案に決定させていただきましたが、ご提案いただいたみなさんのデザインはどれもすばらしく、デザインノトビラのメンバーでもとても悩みました。それぞれのデザインについてもお聞きしたいです。 藤谷力澄さん(以下、藤谷):僕の案は、扉を開いたときに向こうの景色が少し見えているイメージで、扉の隙間をシンボリックに表現できないかなと考えてデザインしました。藤谷力澄(ふじたにりきと) 1995年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。 藤谷さんによるロゴデザイン沖田颯亜さん(以下、沖田):私はデザインの分野ってそれぞれ隣接していると思っていて、そのことに気づくことで、ほかの分野への興味や新しい発見につながることを表現しています。これは私の学生時代の実体験も踏まえていて、これからデザインを学ぶ人にもそんな体験をしてほしいと思いデザインしました。沖田さんによるロゴデザイン 進学前って、大学や専門学校にどんな学部があって、デザインにどんな分野があるかのかがわからなかったんですよね。でも、先生の話を聞いたり、自分で調べたりしながら、徐々に知らなかったデザインの世界を知っていく体験をしたので、ぼんやりとした状態がだんだん明確になっていく様子を表現しています。 沖田颯亜(おきだそうあ) 1993年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。同年資生堂クリエイティブ本部に所属し、アートディレクターとして活動中。主に、ビューティーブランドや中国茶/クラフトビールなどの飲料系のパッケージを含めたコミニケーション全体のアートディレクションを手掛ける。 坂本:僕が考えたのは迷路ですね。物事って、知れば知るほどわからなくもなっていくけれど、そのことにちょっとワクワクもする、みたいな感覚をデザインしています。それは学生にとっての進路に対してもいえることだと思うので、その感覚を迷路で表現してみました。坂本さんによるロゴデザイン ――みなさんそれぞれの案に違った方向性や魅力がありますね。山田さんや坂本さんの案は、おふたりの独特な造形感覚が表現されていて、沖田さんや藤谷さんの案は、グラフィカルなものとして美しく構築されている印象を受けました。 藤谷:今回は、最初にアイデアを持ち寄った段階で、4人の方向性がちょうどバラバラだったんですが、なんとなく近いアイデアの場合は少し離してみたり、バランスを取ったりしていますね。 沖田:「デザインノトビラ」なので、まずは“トビラ”をかたちとして使うかどうかがあったよね。 藤谷:うん。ほかの3人は素直にはやらないだろうし(笑)、結構飛ばしてくるなと予想していたので、僕はストレートに扉のイメージを使う方向で考えました。全部扉がモチーフになると偏ってしまうので、そこはバランスを考えながら。 ――編集部内で話し合った際には、どの案にも票が入っていました。最終的にはデザインを学ぶ楽しさを感じるロゴデザインにしたいなと、山田さんの案を選ばせていただきました。それぞれ今回のロゴデザインにあたっての考え方についてお話しいただきましたが、みなさんはデザインの際に常に心がけていることなどはありますか? 山田:僕はなるべく言語化しながらデザインしたいと思っているので、論理的にカチッと構築するデザインや、逆に抽象度の高いものであっても、なるべく言葉でわかりやすく表現できるように意識しながらデザインしていますね。 坂本:あ、逆に僕はこの時のテーマは「ノープラン」だった気がします。 山田:なんか坂本にはあるんですよね、自分の中での流行みたいなのが(笑)。 坂本:僕は普段いろいろと理詰めで考えちゃって縮こまってしまうタイプなので、ちょうどその時期にやっていた展示でも、もっと感覚的につくろうと考えていました。その後、やっぱりあんまりよくないかもと考え直したんですが(笑)。このロゴも、なんで色が青なんだろうとか思いますよね。山田:説明してくれよ(笑)。4人のデザインとの出会い――「デザインノトビラ」は、これからデザインを学ぼうと考えている人のためのサイトなので、みなさんにとってのデザインとの出会いをお聞きしたいなと思います。デザインに興味をもったきっかけはどんな体験でしたか? 坂本:僕は高校時代、音楽をつくったり漫画を描くのが好きで、卒業後に音楽をやっていきたいなと思っていたんですが、半年ぐらいで才能がないなと感じてしまい……。じゃあ漫画家を目指そうと思って、出版社に持ち込みをしていた時期もあったんですけど、なかなかうまくいかなくて。ただ、その頃に作品を発表するためにWebサイトをつくってみたり、AdobeのIllustratorで漫画のタイトル文字をつくってみたりしていて、だんだんそれが楽しくなってきたんですよね。いま思えば、それがデザインと出会ったきっかけだったと思います。沖田:私の最初のきっかけは、お小遣いを貯めて買った資生堂の「マジョリカ マジョルカ」のリップグロスでした。すごくパッケージデザインがかわいくて大切にしていて、嫌な掃除の時間の前や、母に怒られた後などに塗って癒されていたんです。私もそんな風にキュンとしてもらえるものをつくりたいと思い、高校に入ってからは美大志望一直線でした。 山田:僕は実家が特殊な印刷会社だったので、中学生ぐらいの頃からイベント会場の設営の手伝いなどに駆り出されていて、日常的にデザイナーさんが周りにいる状況だったんですよね。だから、世の中に溢れているものの背景には必ずデザイナーの存在があるということを自然と知っていて、自分がかっこいいと思ったものを誰がつくったのか、調べる癖がついていました。そうしていくうちに、デザインの仕事への憧れが生まれたんだと思います。 藤谷:僕は中学校のときの美術の授業ですね。環境問題についてのポスターをつくる授業があったのですが、そこで自分の描いた絵がはじめて褒められたのがすごく嬉しくて。絵を描くことって楽しいなと思ったのが、最初のきっかけです。 山田:藤谷とは高専が一緒だったので知ってるんですが、そのポスター実家のトイレに貼ってあったよね。いま思うとベタだけど蛇口と地球の絵に「節水!」って書いてあった(笑)。 藤谷:よく覚えてるね(笑)。大学生になってから中学校に行った時にも、まだ僕が描いたポスターが貼ってあって、嬉しかったな。クリエイターズクラブ「NEW」インタビュー(2)につづく
2022年4月1日(金)
インタビュー
武蔵野美術大学

武蔵野美術大学での思い出と、デザイナーとしての現在につながる4人の卒業制作とは?

「デザインノトビラ」のロゴデザインを手がけたクリエイターズクラブ「NEW」のインタビューシリーズ。ロゴデザインのプロセスから、4人のメンバーにとってのデザインとの出会いについてお聞きした前回に続き、本格的にデザインを学ぼうと武蔵野美術大学に進んだ4人の学生時代の思い出や、卒業制作についてお話いただきました。武蔵野美術大学での学生生活――みなさんは武蔵野美術大学出身ですが、大学選びの決め手は何だったのでしょうか? 沖田颯亜さん(以下、沖田):受験時の第一志望は東京藝術大学で、現役の時は藝大しか受けてなかったんです。浪人時代も第一志望は藝大にしていたんですが、やっぱりすごく大変で、第二志望として武蔵野美術大学を受けました。理由としては、両親がインテリアデザイナーと画家で、ふたりの出身大学だったことが大きいですね。結局武蔵野美術大学に進学したのですが、私が入学した基礎デザイン学科は、有名なデザイナーの方々が教授を務めていて、そこで学べるのであれば、グラフィックにしろプロダクトにしろ、まだ進路が決まっていなくても卒業後に目指すことができるのがこの学科の魅力だなと感じていました。沖田颯亜(おきだそうあ)さん 坂本俊太さん(以下、坂本):僕は大阪の吹田市出身なので、家から通える距離の学校を考えて、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)に入学しました。プロダクトやインテリアにも興味があったんですけど、将来のことを考えるとWebの方が道が開けるかなと思い、情報デザイン学科に入りました。 高校まではあまり知識がなかったのですが、大学に入ってからいろいろとデザインの世界が広がっていったんですよね。それこそ、いま僕は広告の会社にいますが、当時はそもそもデザインと広告が関係あるっていうことすらわかってなくて。同じ学科の友だちで、コピーライターになって広告に関わりたいというやつがいたんですけど、「なんで広告やりたいのにデザイン科に来たの?」って思うくらい、その頃は何も知らなくて(笑)。大学に入って本当にいろいろなことがわかっていった感じですね。坂本俊太(さかもとしゅんた)さん 坂本:そんな中で、2年生のときにグラフィックデザイナーの原研哉*さんの存在を知ったんです。原さんは、デザインだけじゃなく、いろんなプロジェクトの仕事をされていて、「デザインってじっくりと時間をかけて学ぶ価値のあることなんだな」とあらためて感じ、原さんが教えているムサビで学びたいと思うようになりました。僕はデッサンができないんですが、基礎デザイン学科はデッサンなしで編入できるのがよかったですね。*原研哉(はらけんや):日本デザインセンター代表取締役を務めるグラフィックデザイナー/アートディレクター。無印良品のアートディレクションや、松屋銀座、森ビル、蔦屋書店、GINZA SIX、ヤマト運輸のVIを手がけるほか、展覧会のディレクションや、写真・動画・文・編集を手がけるWebサイト「低空飛行」など、幅広いプロジェクトを手がける。おもな著書に『デザインのデザイン』(岩波書店、2003)、『日本のデザイン』(岩波新書、2011)、『白百』(中央公論新社、2018)など。 山田十維さん(以下、山田):僕は中学卒業後に5年制のデザイン系の高専に入って、3年次からムサビに編入しました。基礎デザイン学科を選んだのは、僕が好きだった「竹尾ペーパーショウ」をディレクションされている原先生が教授をされていたからですね。ちなみに藤谷とは高専から一緒でした。 藤谷力澄さん(以下、藤谷):僕は3人と学科が違って、高専卒業後は武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科に編入しました。当時は、デザインの仕事に就きたいと思ってはいたものの、分野までは絞り込めていなかったので、イラストやアニメーションなど、幅広く学ぶことができる視デを選びました。 ――特に印象的だった授業はありましたか? 沖田:私は2年生の時に受けたプロダクトデザイナーの柴田文江先生の「形態論」がおもしろかったです。たとえば、「速い」と想像できる魚や自動車のフォルムについて考えたりする授業で、自分が「柔らかい」と思うかたちを石膏粘土でつくるという課題が出たんですが、いざ自分が考える柔らかいかたちをつくろうと思っても、なかなか思ったようにきれいなカーブが出せなかったり、すぐにはうまくいかないんですよね。そういった体験を身体に染み込ませる、とてもいい授業だったと思います。 坂本:僕は原先生のヴィジュアルコミュニケーションについての授業ですね。課題のテーマが「カフェ」だったので、「ぴったり100キロカロリーの食べ物しか置いていない店」をコンセプトに、模型からお店のネーミング、ロゴデザイン、書体設計まで、すべてつくったことが印象に残っています。あと、半分は原先生のファンとして受けていたところもあったので、授業でしか見ることができない原先生の仕事の裏側が垣間見れたのも興味深かったですね。 ――視覚伝達デザイン学科出身の藤谷さんはいかがですか? 藤谷:僕の学科は、代理店などで活躍されている現役のアートディレクターの方が講師としていらしていたのですが、その方が出す課題を2週間で作品として仕上げて提出する、という授業が印象的でしたね。とても大変でしたが、毎回講評いただけるので本当に身になったと思います。藤谷力澄(ふじたにりきと)さん  坂本:僕もその授業を取っていたことがあって、その授業がきっかけで就職活動で代理店を目指すようになりました。入学前の美大のイメージでは、ひとつの作品を仕上げるのに2〜3ヶ月ぐらいかけられると思っていたのですが、ムサビは「1週間でアイデアを出してつくってきてください」という授業がすごく多かったんですよね。そのときは「そんなの無理でしょ……」と思ったんですが、苦しみながらもなんとかやってみると、案外できるものだなぁって。実際に社会に出てみるとそんなことばかりなので、いまだにその経験は役に立っているかもしれないですね。卒業制作として取り組んだ4人の作品山田:僕が印象に残っていることといえば、やっぱり原先生のゼミですね。よく怒られてましたけどね(笑)。藤谷以外のこの3人は同じ原ゼミの生徒でした。原先生のゼミは特徴的で、はじめにゼミ生がそれぞれ気になる言葉を壁に貼り出して、その中からテーマを決めて作品をつくっていくんです。 山田十維(やまだとおい)さん 山田:僕たちのときは「生(なま)」というテーマでした。「live」という意味もあるし、生体しての「生」や「生々しい」「新鮮」など、本当に幅広く解釈できるテーマだったので、いろいろなアプローチがしやすかったですね。僕はこのテーマを、素材としての「生」と捉えて、大量生産・大量消費の象徴としての「缶」を、自分の手で素材に戻していくという過程を卒業制作にしました。コーラなどの空き缶を1,500個集めて、500個は紙やすりで削り、500個は圧縮してリサイクル前の状態である正方形にして、もう500個を溶かした状態にして並べる作品をつくりました。素材としての「生」をテーマに制作された山田さんの卒業制作  ――手を使って素材に戻していくというデザインプロセスには、どのように行き着いたのですか? 山田:作品のテーマをこの方向性にしようと思ったときに、「大量生産」といちばん対極にある「自分」を対比させるのがおもしろいんじゃないかと考えたんです。なので、その後の制作プロセスは結構すんなり決まりました。 ――原先生からの評価やフィードバックはいかがでしたか? 山田:正直プレゼンについては緊張していてあまり覚えていないのですが(笑)、最後は褒めてくれましたね。あと印象的だったのが、制作の過程で僕が「これは業者に頼みます」と言ったら、「業者“さん”と言いなさい」と言われたことでした。デザインの仕事は、業者さんを含めてたくさんの人と協働しながら進めるものなので、すべての人にきちんと敬意を持ちなさいということだったんだと思います。ゼミ時代はたくさん怒られましたが、原先生は一人ひとりのことをきちんとみてくれて、途中で脱落しないようにフォローしていただきましたね。 沖田:私の卒業制作は、「違和感から派生したファッション」という切り口の作品でした。アートディレクターとして制作できるような作品をつくりたいと思っていたので、フォトグラファーやモデルさんと一緒にビジュアルを制作することは先に決めていました。この作品では、ラップユニット「chelmico」のRachelちゃんにモデルをしていただいています。 私は「生」というテーマを解釈するにあたって、「生きていると実感するのはどんな時だろう」と考えて、傷ついた時に、SOSとして痛みを感じることもその証のひとつだなと思い、「傷口」を作品のモチーフにしました。その時に、人間が生まれてから最初にできる傷口って、へその緒だなと思ったんです。そこで、おへそや耳の穴などに包帯を巻くことで、人は違和感を感じるんだろうか? と考え、その違和感をビジュアル化した作品をつくりました。さらに、人間だけじゃなくて、ペットボトルや絵の具に絆創膏を巻くことで「もの」の傷を表現したり、靴やネックレス、チョーカーなどに傷口をつくることで、違和感をファッションに落とし込んだビジュアルを制作して、マガジンとしてまとめました。「傷口」をモチーフとした沖田さんの卒業制作坂本:僕は、一見「生」というテーマから遠いデジタルの情報に結びつけられないかなと考えて、聴診器で聞こえる自分の「心音」の周波数やリズムを、グラフィックパターンに変換してテキスタイルをデザインする装置をつくりました。心音って、自分ではコントロールできないですし、実はすごく「live」なデジタル情報だなと思ったんです。最初は心音を使ってシンフォニーみたいな音楽をつくることを考えていたんですが、聴診器を買ってみてゼミに持っていった時に、聴診器でみんなの心音を聞いていくと、「一人ひとり心音って違うんだな」ということに気づいて。単純に、ゼミのみんなが楽しそうに反応してくれるのもうれしかったですし、原ゼミの過去の作品は、詩的で彫刻的なものが多かったので、こういったみんなが盛り上がる作品をつくれば、ちょっと目立てるかなという気持ちもありましたね。そこから、個性を表すものとしてのファッションを連想して、心音をテキスタイルに落とし込む作品にしようと考えました。「MAX/MSP」という音楽のプログラミングにも使用されるソフトで制作しているのですが、僕はもともと音楽をつくったり、Webサイトを自分でつくることからデザインに触れるようになったので、この作品では、そういったいままで片足を突っ込んできた要素をうまく集めることができてよかったなと思っています。坂本さんの卒業制作「Pattern Per Heart」のビジュアル 坂本さんの卒業制作の展示風景  ――藤谷さんは視覚伝達デザイン科でどなたのゼミに所属されていたんですか? 藤谷:僕は新島実先生のゼミに所属していました。卒業制作に関しては、自分の気になることややりたいことを新島先生と面談しながら掘り下げつつ、最終的なテーマを決めて作品づくりにつなげるという流れでした。僕は、当時までの22年間で通ったことのある道をテーマに考えていて、たとえば通学路や友だちと出かけた時に通った道など、ケータイの画像やカレンダーからデータを抽出して、すべての歩行路を地図上にマッピングした映像作品を制作しました。単純に、自分がこの作品を通して視覚化して見てみたいなと思ったのが動機なのですが、これまでに歩いたことのある道だけを抽出することで、「自分が知っている世界ってこれだけなんだ」ということがわかるというか、自分の知っていることと知らないことが可視化されるような作品になるんじゃないかなと思ったんですね。僕は着実に何か一つをつくり上げることが好きなタイプなので、振り返ってみるとこの卒業制作のテーマにも表れていたと思いますし、いまの仕事への向き合い方も同じだなと感じています。クリエイターズクラブ「NEW」インタビュー(3)につづく
2022年4月1日(金)

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