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デザインへの入り口はひとつじゃない。「デザインノトビラ」ロゴデザインに込めた思い

クリエイターズクラブ「NEW」インタビュー(1)
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デザインを学び、将来を考えたい人のための情報サイトとしてオープンした「デザインノトビラ」。デザイン・クリエイティブを学ぶ楽しさを表現したカラフルなロゴデザインは、クリエイターズクラブ「NEW」が手がけています。武蔵野美術大学出身の4人のデザイナーによって結成された「NEW」のみなさんに、ロゴデザインのプロセスをはじめ、学生時代の思い出や卒業制作、これからデザイン・クリエイティブを学ぶ人に向けたメッセージをお話いただきました。


デザインの世界へのトビラを表現した12種類のロゴデザイン


デザインノトビラ ロゴデザイン案


――今回は「デザインノトビラ」のロゴをデザインしていただきありがとうございました!デザインノトビラは、これからデザイン・クリエイティブを学ぶ人へ向けた情報を発信するサイトなので、デザインの世界へと進むワクワク感を表現したデザインをお願いさせていただきました。依頼を受けてから、どのようにデザインを進めていきましたか?


山田十維さん(以下、山田):NEWはいつも2人1組でプロジェクトに臨むことが多いのですが、実は今回はじめて全員一つずつ案を出し合ってつくってみました。採用していただけた僕の案のコンセプトは、「デザインを学ぶ人の第一歩」。しかも、サイト名が『デザインノトビラ』ということだったので、「入り口は一つじゃない」ということをいちばん表現したかったんです。

 

山田十維山田十維(やまだとおい) 1994年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業後、世界株式会社(CEKAI)を経て、2021年よりNEW inc.を設立。 企業のブランディングやプロダクト開発に携わり、デザイナー・アートディレクター、時にはプロデューサーとして活動している。家業は、箱の設計を得意とする印刷加工会社。 


――本サイトでは、デザイン・クリエイティブの領域を12種類に分けて、各カテゴリごとの魅力を情報として発信していきたいことを打ち合わせでお話しさせていただきました。山田さんをはじめ、みなさん独自の“12ノトビラ”をデザインしていただきました。

 

山田:サイトのコンセプトを聞いて、たしかにデザインというひとつの世界ではあるものの、12の分野それぞれの“デザイン”が存在すると思ったので、一つの分野に対して一つずつロゴを考えていきました。かたちの意味合いとしては、扉のモチーフを「D」で表現して、「D」の外側の縁取りが変形するような、それぞれバラエティに富んだ12種類の分野をロゴデザインとして表現しています。


デザインノトビラロゴ

 


デザインノトビラ 山田さんによるロゴデザイン山田さんによるロゴデザイン


デザインプロセスとしては、本当にいろいろなかたちをたくさんつくり、それぞれの違いを12種類考えていくという作業を繰り返しながら、一つずつ検討してブラッシュアップしていきました。この作業にいちばん時間をかけましたね。 

 

――かたちを仕上げていく過程は、みなさんで話し合いながら進めていったのですか?


山田:完成させるにあたって明確な答えがあるわけではないので、自分のセンスに頼るしかない部分がありました。メンバーのみんなに聞いてもそれぞれ意見がバラバラだったので、最後は自分の感覚でピンときたものの中で、いちばんきれいだと思うかたちを組み合わせていった感じですね。12個並んだときのかたちのと色のバランスも、最終的な判断材料になりました。


デザインノトビラ ロゴデザイン試作案ロゴデザインの試作案。完成までに何度も試行錯誤があったそう。


――今回に限らず、デザイン制作中に4人で相談したり、話し合ったりはしますか?


坂本俊太さん(以下、坂本):特に見せ合って話し合うことはしないですが、実際はみんなそれぞれが勝手に途中のデザインを見て、「これちょっと変だよね」とか聞かれてもないのに突っ込んだりはしますね(笑)。

 

坂本俊太坂本俊太(さかもとしゅんた) 1993年生まれ。大阪府出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。

 

――自由に言い合えるのも、信頼関係があるからこそですね。


坂本:そうですね。最近はお互いの趣味や思考がわかりすぎて、「お前はそう言うと思ったよ」と返したり(笑)。

 

――今回は山田さんの案に決定させていただきましたが、ご提案いただいたみなさんのデザインはどれもすばらしく、デザインノトビラのメンバーでもとても悩みました。それぞれのデザインについてもお聞きしたいです。

 

藤谷力澄さん(以下、藤谷):僕の案は、扉を開いたときに向こうの景色が少し見えているイメージで、扉の隙間をシンボリックに表現できないかなと考えてデザインしました。


藤谷力澄藤谷力澄(ふじたにりきと) 1995年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒業。 


デザインノトビラ 藤谷さんによるロゴデザイン藤谷さんによるロゴデザイン


沖田颯亜さん(以下、沖田):私はデザインの分野ってそれぞれ隣接していると思っていて、そのことに気づくことで、ほかの分野への興味や新しい発見につながることを表現しています。これは私の学生時代の実体験も踏まえていて、これからデザインを学ぶ人にもそんな体験をしてほしいと思いデザインしました。


デザインノトビラ 沖田さんによるロゴデザイン沖田さんによるロゴデザイン

 

進学前って、大学や専門学校にどんな学部があって、デザインにどんな分野があるかのかがわからなかったんですよね。でも、先生の話を聞いたり、自分で調べたりしながら、徐々に知らなかったデザインの世界を知っていく体験をしたので、ぼんやりとした状態がだんだん明確になっていく様子を表現しています。

 

沖田颯亜沖田颯亜(おきだそうあ) 1993年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学 基礎デザイン学科卒業。同年資生堂クリエイティブ本部に所属し、アートディレクターとして活動中。主に、ビューティーブランドや中国茶/クラフトビールなどの飲料系のパッケージを含めたコミニケーション全体のアートディレクションを手掛ける。

 

坂本:僕が考えたのは迷路ですね。物事って、知れば知るほどわからなくもなっていくけれど、そのことにちょっとワクワクもする、みたいな感覚をデザインしています。それは学生にとっての進路に対してもいえることだと思うので、その感覚を迷路で表現してみました。


デザインノトビラ 坂本さんによるロゴデザイン坂本さんによるロゴデザイン

 

――みなさんそれぞれの案に違った方向性や魅力がありますね。山田さんや坂本さんの案は、おふたりの独特な造形感覚が表現されていて、沖田さんや藤谷さんの案は、グラフィカルなものとして美しく構築されている印象を受けました。

 

藤谷:今回は、最初にアイデアを持ち寄った段階で、4人の方向性がちょうどバラバラだったんですが、なんとなく近いアイデアの場合は少し離してみたり、バランスを取ったりしていますね。

 

沖田:「デザインノトビラ」なので、まずは“トビラ”をかたちとして使うかどうかがあったよね。

 

藤谷:うん。ほかの3人は素直にはやらないだろうし(笑)、結構飛ばしてくるなと予想していたので、僕はストレートに扉のイメージを使う方向で考えました。全部扉がモチーフになると偏ってしまうので、そこはバランスを考えながら。

 

――編集部内で話し合った際には、どの案にも票が入っていました。最終的にはデザインを学ぶ楽しさを感じるロゴデザインにしたいなと、山田さんの案を選ばせていただきました。それぞれ今回のロゴデザインにあたっての考え方についてお話しいただきましたが、みなさんはデザインの際に常に心がけていることなどはありますか?

 

山田:僕はなるべく言語化しながらデザインしたいと思っているので、論理的にカチッと構築するデザインや、逆に抽象度の高いものであっても、なるべく言葉でわかりやすく表現できるように意識しながらデザインしていますね。

 

坂本:あ、逆に僕はこの時のテーマは「ノープラン」だった気がします。

 

山田:なんか坂本にはあるんですよね、自分の中での流行みたいなのが(笑)。

 

坂本:僕は普段いろいろと理詰めで考えちゃって縮こまってしまうタイプなので、ちょうどその時期にやっていた展示でも、もっと感覚的につくろうと考えていました。その後、やっぱりあんまりよくないかもと考え直したんですが(笑)。このロゴも、なんで色が青なんだろうとか思いますよね。

山田:説明してくれよ(笑)。


4人のデザインとの出会い



――「デザインノトビラ」は、これからデザインを学ぼうと考えている人のためのサイトなので、みなさんにとってのデザインとの出会いをお聞きしたいなと思います。デザインに興味をもったきっかけはどんな体験でしたか?

 

坂本:僕は高校時代、音楽をつくったり漫画を描くのが好きで、卒業後に音楽をやっていきたいなと思っていたんですが、半年ぐらいで才能がないなと感じてしまい……。じゃあ漫画家を目指そうと思って、出版社に持ち込みをしていた時期もあったんですけど、なかなかうまくいかなくて。

ただ、その頃に作品を発表するためにWebサイトをつくってみたり、AdobeのIllustratorで漫画のタイトル文字をつくってみたりしていて、だんだんそれが楽しくなってきたんですよね。いま思えば、それがデザインと出会ったきっかけだったと思います。


坂本俊太


沖田:私の最初のきっかけは、お小遣いを貯めて買った資生堂の「マジョリカ マジョルカ」のリップグロスでした。すごくパッケージデザインがかわいくて大切にしていて、嫌な掃除の時間の前や、母に怒られた後などに塗って癒されていたんです。私もそんな風にキュンとしてもらえるものをつくりたいと思い、高校に入ってからは美大志望一直線でした。

 

山田:僕は実家が特殊な印刷会社だったので、中学生ぐらいの頃からイベント会場の設営の手伝いなどに駆り出されていて、日常的にデザイナーさんが周りにいる状況だったんですよね。だから、世の中に溢れているものの背景には必ずデザイナーの存在があるということを自然と知っていて、自分がかっこいいと思ったものを誰がつくったのか、調べる癖がついていました。そうしていくうちに、デザインの仕事への憧れが生まれたんだと思います。

 

藤谷:僕は中学校のときの美術の授業ですね。環境問題についてのポスターをつくる授業があったのですが、そこで自分の描いた絵がはじめて褒められたのがすごく嬉しくて。絵を描くことって楽しいなと思ったのが、最初のきっかけです。

 

山田:藤谷とは高専が一緒だったので知ってるんですが、そのポスター実家のトイレに貼ってあったよね。いま思うとベタだけど蛇口と地球の絵に「節水!」って書いてあった(笑)。

 

藤谷:よく覚えてるね(笑)。大学生になってから中学校に行った時にも、まだ僕が描いたポスターが貼ってあって、嬉しかったな。


クリエイターズクラブ「NEW」インタビュー(2)につづく

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多摩美術大学

多様な領域で活躍するデザイナーの「考える力」を鍛える。多摩美術大学統合デザイン学科での4年間

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人間の知覚能力を基盤としたコグニティブデザインの考え方による行動や意志の領域のデザインを専門としており、近年は視線による共同注意を利用した、新しい誘導体験を生み出すための表現技術について探求している。https://syunichisuge.com―統合デザイン学科は、デザインを領域ごとに分けるのではなく、「統合されたデザイン」を学ぶことが大きな特徴です。とはいえ、これからデザインを学ぶ10代の学生にとっては、少し理解するのがむずかしいようにも思えるのですが、1年生にはどのように説明をされていますか?永井:いちばん最初の授業で、「すべてはデザインされている」という話をするようにしています。たとえば、このインタビューという場も、最終的なゴールである記事制作のプロセスとしてデザインされていますよね?学生たちがこれから取り組んでいく課題解決や、情報を集めることもデザインであり、具体的なかたちをつくることもデザインだということです。―菅先生はいかがでしょうか?菅:人間の知的な活動というのは、すべてデザインとして捉えられると思うんですね。仕事や生活を営む中で、考えたり、ものをつくったりすることのすべてにデザインは含まれています。ですので、分野としてデザインを学ぶのではなく、デザインという考え方そのものを学ぶことで、いままでわからなかったことがわかるようになりますし、それは世界を理解するためのツールにもなり得るという話をしています。―学生さんたちの反応はどうですか?永井:いきなり全部を理解するのはなかなかむずかしいとは思いますね。学生たちに「デザインってなんだと思う?」という質問を必ずしているんですが、「課題を解決することです」「幸せを生み出すことです」など、その時点で多様な意見が出てきます。学生たちには、4年間で知識を身につけて、自分なりの実感を持ってデザインのことを理解してもらえたらと思っています。菅:専門選択科目である「統合デザイン論」では、学科の先生方それぞれの考えによるデザインの話をしています。学生たちにとっては、いままで聞いたことのない視点ばかりだと思うんですが、1・2年次の基礎科目で手を動かしていく中で、先生方の言葉がわかるようになっていきます。そうやって、学生たちには入学前とはまったく違うデザインの考え方を身につけてほしいと考えています。目と手を鍛えるための基礎科目「デザインベーシック」―統合デザイン学科のカリキュラム についてお聞きしていきます。まずは1・2年次の「デザインベーシック」について教えていただけますか?菅:初年度の基礎教育である「デザインベーシックI」では、「見る=目を鍛える」「つくる=手を鍛える」ことを軸に科目を設定しています。グラフィック基礎・プロダクト基礎・インターフェース基礎・描写の4科目がありますが、基本的には平面で情報を扱う際のものの見方と、立体物の制作技術およびそれらの関係性を学んでいきます。たとえば、僕が担当しているインターフェース基礎は、「もの」と「もの」の境界について考えていく科目です。目で見る、皮膚で触るなど、人は感覚器を使ってどのように世界を把握しているのか、そして把握したものをどうやってアウトプットしているのか。そういったことを考えるための頭の使い方を学んでいきます。統合デザイン学科では「広く・深く」教えているので、異なる手法や技術を同時に学びながら、その中にある共通点や違いを知ることで、ものをつくる上での基本的な考え方や目線を徹底的に身につけることができます。2年次の「デザインベーシックII」では、具体的な表現技術を学んでいきます。文字の扱い方を学ぶ「タイポグラフィー」や、情報を集約して可視化する「ダイアグラム」、情報と身体をつなぐ関係を考える「インタラクション」、立体的な思考と造形技能を学ぶ「造形技法」など、3年次からはじまるゼミ形式の「プロジェクト」に取り組む上で必要な表現技術が網羅される構成になっています。―それぞれの科目を教える上で、学生たちに意識して伝えていることはありますか?菅:課題を出す前に、「これはなにを身につけるための課題なのか」をきちんと話すようにしています。学期末や年度末のタイミングでも、いままでやってきたことが何だったのかを振り返ることで、学生たちの頭の中で学んだ内容と体験が体系化されるような伝え方をしています。―学び方そのものをデザインしていくような感覚でしょうか。永井:それは意識していますね。俯瞰した視点でデザインを考えられることは統合デザインの「芯」でもあるので、講義で聞いた内容を、学生たち自身が演習を通して意味づけできるような、そんなカリキュラム構成になっていると思います。課題を通して自分自身のテーマを発見する「プロジェクト」と「卒業制作」永井プロジェクトの様子―3年次からは、ゼミ形式の「プロジェクト」を選択します。永井プロジェクトと菅プロジェクトには、どんな学生が集まりますか?永井:僕のプロジェクトでは、自ら課題を発見し、アイデアを考え具体的なかたちにし、それをきちんと伝えることができる人を目指しているので、そこに関心のある学生に来てもらうようにしています。―まずはどのような課題に取り組むのでしょうか?永井:抽象度の高い課題に取り組んでもらうことが多いですね。1・2年生までは明解なルールに基づいた課題が多いので、3年生になったタイミングで、課題の自由度を上げていきます。たとえば、「新しい光をデザインしなさい」という課題。これは、必ずしも「照明をつくりなさい」ということではないんです。光をどのように解釈し、どのような手段でかたちにするのかを考える課題で、「明るさ」を体験するための真っ暗なスペースをつくる学生もいれば、グラフィックや映像で光を表現する学生もいます。永井プロジェクトの学生の作品。「新しい光のデザイン」をテーマに、点字への理解や関心の入口となるトランプが制作された。永井:もちろん、突然抽象度が上がるので「なにをやったらいいんですか?」と悩む学生もいます。なので、まずは導入として「既存のものをかけ合わせて新しいものつくりなさい」という課題を先に出しています。組み合わせによって新しいものが生まれることをイニシエーション(通過儀礼)として体験してから、自由度が高い課題への準備をしてもらう感じですね。一方で、社会連携を取り入れた課題にも取り組んでもらっています。たとえば、今年度は上野毛にある「日本菓子専門学校」と連携して、五感についてリサーチしながら、新しいお菓子体験をデザインする課題に取り組みました。最終的には、日本菓子専門学校の方々に実際に食べられるお菓子として制作していただき、今年の11月には玉川高島屋S・Cでの展示を予定しています。―菅先生のプロジェクトはいかがですか?菅:僕自身が変なことをやっているので、ちょっと変わった学生が来ること多いんですけど(笑)、基本的には、僕が専門としている行動や判断の手がかりとなるデザイン=「コグニティブデザイン」に関心がある人が多いです。僕のプロジェクトでは、1・2年次では扱わなかったテーマの課題に取り組んでもらっていて、まずはこちらからフォーマットを指定するようにしています。たとえば、小さなレーザープロジェクターを使って、手をスクリーンにした場合の映像表現について考えてみる。通常は、平面の壁に映像を四角く投射しますが、手のような隆起した複雑な形状のものに光を当てる場合、映像表現はどのように変化するのか。学生にとってはいままで考えたことがないような特殊なフォーマットではあるんですが、条件があることで学生の創造性が発揮されるような課題を設定するようにしています。学生たちには、2週間に1回ぐらいのペースで次々と課題に取り組んでもらいながら、徐々にテーマの抽象度を上げていきます。その中で、自分がアイデアを出しやすいのはどんなフォーマットなのかを考えながら、自分自身の考え方そのものを意識できるようにしています。「手をスクリーンにした場合の映像表現」をテーマとした菅プロジェクトの様子菅プロジェクトでの作品発表の様子―4年次の卒業制作に取り組む上で、学生たちはどのようにテーマを決めていくのでしょうか?永井:3年次の課題を通して、自分の心に引っかかるものや、やってみたいと強く関心が持てることを発見してもらうようにしています。その後、4年次で取り組む卒業制作は、4年間の集大成であると同時に「社会への入口」という意味もあるので、現在の自分が社会に対して何を投げかけていきたいのかを起点にテーマを探してみてくださいと伝えています。菅:僕のプロジェクトの場合は、3年次から月に1度個人面談を実施していて、「好きなものは?」「おもしろいと思うものはなに?」と、ひたすら聞いています。別に追い詰めたいわけじゃないんですが(笑)、学生たちの多くは、自分がおもしろいと感じていること自体に気づいていなかったりもするので。「こんな本を読んでみるといいかもしれない」「こんな考え方をしてみたらどう?」など話をする中で、自分の興味に深く気づき、それを磨いていく中でテーマを見つけてもらうようにしています。多様な領域で活躍するための「考える力」永井プロジェクトでの発表中の様子―4年間の学びを通した学生たちの成長や変化の中で、印象的だったものはありますか?菅:たとえば、もともとデッサンがうまくてグラフィックデザイナーを目指していた学生が、プログラミングに興味を持ち、映像やゲームをつくりはじめ、卒業後にはそういった仕事に就いたことがあって。自分が好きなことを突き詰めていくプロセスが、この学科の学生らしいなと思いました。―卒業後の進路としてはどのような職種が多いのでしょうか?永井:メーカーや制作会社、広告会社に就職する学生もいますが、最近の傾向としては、コンサルティング会社に入る学生もいますね。社会のなかでデザインが求められる領域が広がってきていますし、あらゆる産業の人たちが創造的な人材を求めているということだと思います。菅:学科全体として、新しい商品やサービスを考える企画職に就く人が多いんじゃないかなと思います。もちろん、デザイナーになる学生もいますし、デザイン以外の分野でのびのびと自分の能力を活かしている学生もいます。ある特定の分野に就職するというより、ゼロから自分で何かをはじめたいとか、社会をよりよくするためのお手伝いがしたいなど、学科全体で共通するマインドがあるように感じています。我々がここで教えてきたのは、なにかを美しいと感じることや、物事を考える力であり、それはいろいろな場面で必要な能力だと思います。そういった人達が社会のさまざまな分野に増えていくことで、社会全体がよりよくなっていくのではないかと。今後もしかすると、別の分野で働いている統合デザイン学科の同級生同士が、一緒に仕事できることがあるかもしれないですよね。どこに行っても先輩がいるような状況も起こり得ますし、卒業生のつながりが広がっていくことで、社会に変化がもたらせるんじゃないかと考えています。―最後に、統合デザイン学科に興味のある学生に向けてメッセージをお願いします。永井:2000年代に入ってから、デザインが関わる領域はどんどん広がっているのと、さまざまな社会課題の解決のためにデザインが期待されていることも増えてきています。これからも拡張していくデザイン領域に興味のある方にはぜひ来てほしいですね。菅:何か新しいことをしたい気持ちや、好奇心が強い人には、それを満たすためのものが、統合デザイン学科にはあると思います。また、毎年開催しているオープンキャンパスでは、すべてのカリキュラムの課題作品を展示しているので、実際にみてもらうことで、統合デザイン学科で体験できる学びの多様さを感じてもらいたいですね。  撮影:加藤麻希 取材・文・編集:堀合俊博(a small good publishing)
2022年9月8日(木)
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明星大学

明星大学デザイン学部デザイン学科 第5回卒業研究報告展

明星大学デザイン学部の「第5回 卒業研究報告展」は、2021年度に卒業する4年生が、4年間積み重ねた学びの成果を展示とプレゼンテーションで報告する展覧会イベントです。 今年の展覧会のキャッチコピーである「まなんで、むすんで、ひらめいて。」は、学生たちが授業や課題でたくさんのアイデアを求められたとき、それまでの「まなび」がヒントとなって実を「むすび」、新しい「ひらめき」に繋がった経験を表現した言葉です。この言葉の通り、4年間の学びを出し切った卒業研究が出揃いました。 展示する個々の研究成果はもちろん、展覧会ポスターやパンフレットのデザイン、展示会場構成、プレゼンテーションのタイムテーブルに至るまで学生たち自身の手で作り上げた展覧会です。 デザイン学部では、日常にある問題を発見し解決策を考える「企画力」と、それを的確に伝える「表現力」の融合が、社会とつながるデザインの力であると捉え、日々学びを深めています。学生一人ひとりが社会と向き合い、調査と分析から課題を明確にし、解決方法を提案する様子はもちろん、デザインの研究成果が非常に幅広い領域に広がっていることも、本展覧会の見どころです。
2022年5月16日(月)