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“あそびをデザインする現場”に学ぶ-グッドデザイン・ニューホープ賞 受賞後プログラムレポート(1)

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2025年8月15日まで作品を募集している「グッドデザイン・ニューホープ賞」。同賞の特徴のひとつが、受賞者にさらなるスキルアップとネットワーキングの機会を提供する「受賞後プログラム」です。

今回、JDN編集部はそのひとつ、プロのデザイナーの活動を学ぶ「デザインの現場」見学会を訪問。受賞を経てますます活躍が期待されるみなさんは、いま現場で何を学び、吸収しているのでしょうか?

参加者のみなさん、そして今回、見学先として協力され、2025年度審査委員も務める株式会社ジャクエツ・田嶋宏行さんのコメントともに、その最前線をレポートします。

多彩な受賞者向けプログラム


グッドデザイン・ニューホープ賞は、将来のデザイン分野の発展を担う新しい世代の活動支援を目的として2022年にスタートした賞。大学や専門学校などに在学中の学⽣や、卒業・修了直後の新卒社会人を対象に「優れたデザイン」を選び、推奨しています。


2025年度グッドデザイン・ニューホープ賞メインビジュアル


本アワードの特徴は、デザインを評価・顕彰するだけでなく、受賞後の研修・共創機会の提供にも力を入れていること。受賞者同士の交流会や審査委員と直接対話できるフォローアップ・ゼミ、デザインの解像度を深めるワークショップなど、さまざまな受賞者向けプログラムを開催し、デザイン人材のスキルと視座の向上を支援する多様な機会を提供しています。

「デザインの現場」見学会も、数ある受賞者向けプログラムのひとつ。普段は接点のない企業のデザイン・スタジオなどを訪問し、直接話を聞けるプログラムです。今回訪問したのは、幼児向けあそび環境づくりのトータルソリューションカンパニー・株式会社ジャクエツの東京オフィス「JAKUETS TOKYO MATSUBARA」。

「あそび」という領域で同社のデザイナーが実際にどのような活動をおこなっているのか、どのような環境から「あそび」が生まれているのか。事例紹介や館内ツアーを通して、参加者の感性を刺激するきっかけとなった1日を紹介します。

あそび環境をデザインする企業・ジャクエツを知る


当プログラムのはじまりは、JAKUETS TOKYO MATSUBARA 7階のギャラリースペースから。壁一面に並ぶジャクエツが手がけたユニークな遊具の模型が受賞者たちを出迎えます。


模型を撮影する参加者


はじめに、同社でパブリックスペース設計を担当する設計士の澤村宏さんが登壇し、ジャクエツの歴史や事業、理念について説明がありました。


澤村宏さん澤村宏 一級建築士。株式会社ジャクエツ 執行役員、パブリックスペース設計部長を務める


 福井県敦賀市に本社と自社工場を構える株式会社ジャクエツ。1916年に幼稚園や保育園を設立したことをきっかけに、保育教材や教具、制服の製造・販売事業を展開してきました。現在では子どもの教育を通じた地域課題や社会課題の解決へと事業領域を広げています。

あそびの環境をデザインすることで、未来を担う子どもの力を伸ばしていく。そんな想いが込められたスローガン「未来は、あそびの中に。」の紹介とともに、あそびを生み出すオフィス環境やあそびが集まる公園づくりの事例について語られました。


イラストで描かれた事例一覧「JAKUETS ENTRY BOOK」より、これまでに手がけた製品・デザインの一部

 

会社説明の最後にはジャクエツのブランドムービーを鑑賞。ムービーのキーメッセージである「あそびで100年先を動かす」を踏まえて、澤村さんは「100年先の未来から来たというつもりで、私たちは常に未来を見据えたあそびを提案しつづけます」と力強く締めくくりました。


先輩デザイナーの体験談と参加者に向けたアドバイス


続いて登壇したのは、同社の遊具と遊び場のデザイナー・田嶋宏行さん。デザイナーとしてのアドバイスや自身が手がけたデザイン事例を、参加者のみなさんにお話されました。


登壇する田嶋宏行さん田嶋宏行 デザイナー。株式会社ジャクエツ スペースデザイン&パブリックスペース開発課主任を務める

 

田嶋さんは2015年にジャクエツに入社し、遊具や遊び空間のデザイン・設計を担当。遊具や公園をデザインし、グッドデザイン賞やキッズデザイン賞など数多くの賞を受賞しているデザイナーです。

そんな田嶋さんが仕事をする上で大切にしているのが「3つ以上の居場所を持ちつづける」ということ。会社以外の場所に飛び込むことで、幅広い視点を持つことができ、ストレスの分散にもつながる。これからデザイナーとして世に出る参加者に向けて、10年間経験を積んだからこそのリアルな視点からアドバイスがありました。

例えば、事例として紹介された「RESILIENCE PLAYGROUND」は、まさに会社以外の居場所から生まれたプロジェクト。デザインスクールで知り合った紅谷医師が立ち上げたプロジェクトで、田嶋さんはデザイナーとして医療的ケア児向け遊具の開発に参画。遊びたくても遊べない医療的ケア児の課題や、フィールドワークで得た気づき、遊具をデザインする際の細やかな配慮など、臨場感あふれるお話に参加者は熱心に耳を傾けていました。


メモをとる参加者


田嶋さんは「障害の有無にかかわらず、実はみんな自分なりのあそびを持っているんだと、遊具で遊ぶ医療的ケア児の子どもたちを見て感じました。しかし、大人の先入観や寛容でないあそび環境が、彼らのあそびを妨げてしまっていたんです」とプロジェクトを振り返ります。「世の中の“しょうがない”を更新し、誰もが好きなように遊んで幸せを感じられる世界をつくれたらいいなと思います」


モニターの前で説明する田嶋さん


また、プロジェクトで得た学びについて、「今回『遊びたくても遊べない』という遊具から遠いテーマに向き合ったことで、健常児や大人など多くの人を包括した遊具をつくることができました。みなさんもいまいる環境から遠く離れた場所に足を運んでみると、結果としていろんなものを包括した生き方ができるんじゃないかと思います」と、参加者へのアドバイスとも紐づけてお話されました。


未来のあそびが生み出されるオフィス空間を見学


ジャクエツで活躍する2人からのお話の後は、2班に分かれてのJAKUETS TOKYO MATSUBARA館内ツアー。社員の方による案内のもと、2階から7階まで1フロアずつ見学しました。

2階と4階の執務スペースは、大型モニターで互いの様子を見ることができ、会話もできる仕様になっています。実際に2階と4階で会話している風景を見せてもらい、シームレスにコミュニケーションが取れている様子に参加者のみなさんも驚きの表情を浮かべていました。


デスクや大型モニターが置かれたオフィス執務スペース。ジャクエツの社員の方が普段の仕事の様子について説明

 

3階のオフラインフロアは、社内イベントや昼食の際によく利用されるスペースで、ブランコやロープを使った遊具が設置されたなんともジャクエツらしい空間です。参加者自ら遊具で遊んでみるなど、ジャクエツのあそび空間を堪能しました。


大人が寝転がれるサイズのハンモックのような遊具が設置されたフロアオフラインフロア。仕事を離れ、気分転換ができる空間

 

天井から吊り下げられたブランコキッチンスペースに設置されたブランコで遊ぶ参加者

 

5階の倉庫スペースでは、遊具の試作品やまだ世に出ていない製品サンプルなどがところせましと並んでおり、普段目にすることのないリアルな現場を体感。


書類や模型が所狭しと並ぶ倉庫倉庫スペースを案内する澤村さん

 

そして6階は、通常のオフィスには珍しいホテルフロア。福井本社や全国の支社から出張に来た社員が宿泊することができます。参加者たちは実際に家具や設備に触れながら、興味津々な様子で部屋を見学。実際に足を運んでみることで、デザイン現場のリアルな雰囲気や働く空間にも宿ったジャクエツらしさを知る機会となりました。


廊下に5つの扉ホテルフロア、宿泊部屋が並ぶ廊下

 

室内を撮影する参加者部屋の内部に興味津々のみなさん

 

館内ツアーの間も、案内役である澤村さんのお話に聞き入る参加者のみなさんが印象的でした。この後は、新宿にある都立明治公園へと移動。実際にジャクエツの遊具が設置されている現場を見学します。


次ページ:ジャクエツの生み出したあそび環境に触れる

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ニュース

学生限定!「長谷工住まいのデザインコンペティション」が開催。高校生の応募歓迎

マンション開発を中心とした大手建設会社・デベロッパーの株式会社長谷工コーポレーションが主催する、「第18回 長谷工住まいのデザインコンペティション」。応募対象は高校生・大学生をはじめとした学生で、「集合住宅の新しいあらわれ」をテーマに、2024年11月5日まで建築プランを募集します。都市を構成する重要な要素である、建築の外観(あらわれ)を改めて問う今回のコンペ。審査員には「Dior Ginza」などで有名な建築家の乾久美子さん、同じく建築家の藤本壮介さん、増田信吾さんなど、第一線で活躍する豪華メンバーが並びます。さらにゲスト審査員として、コミュニティやケアの領域で制作、実践、研究、提案を行う文化活動家・アーティストのアサダワタルさんも参加。審査は、1次のアイデアコンペで選出された上位4組が2次に進み、模型の提出・プレゼンテーションを行う2段階方式。最優秀賞1点には100万円、優秀賞3点には各50万円、佳作10点には各10万円が授与されます。9月30日までに応募登録を行うと、昨年の審査の様子を収めた動画を視聴できる特典も。ぜひ、新しい都市の景観を生み出すような集合住宅の「あらわれ」を提案してみてください。
2024年8月1日(木)

KNOCK vol.1 -【結果発表】 デザインノトビラ「KNOCK」メイングラフィック募集

 結 果 発 表 個性豊かでフレッシュな魅力にあふれた作品の数々をご応募いただき、誠にありがとうございました。編集部の審査を経て、見事入選を果たした作品を発表いたします。最優秀賞「感性を刺激する強いノック」中西 達海神奈川大学附属高等学校 2年作品コンセプト“KNOCK”と聞くとドアを叩く様子を思い浮かべるが、それだけではない。私たちは五感で何か強い刺激を感じ取った時、今までにない新しい発想を生み出す。それらの外部からの刺激は、今までの常識や固定概念を打ち砕く自分自身への「ノック」である。この作品ではデザイン性も意識し、リアリティを追求するのではなく平面的な表現になるように作成した。今までの常識を強いノックで打ち砕く迫力を表現した。審査員による講評高校生の若さからくる力強さ、将来に向かって挑戦する情熱や意思が伝わってくる作品。作品のコンセプトが企画の趣旨と合っており、トビラをノックするという難しい表現を逃げずに描けていると思います。「自分がノックする」だけでなく、「外部からの刺激が自分をノックしてくる」という発想は、これからさまざまなものに触れ、感受性豊かに学んでほしいという編集部の思いとも合致しています。また、応募作品は筆や絵画などの具体的な表現が多かった中、本作は「五感」を意識して抽象的に表現されていて、「五感」や「目に見えないもの」をデザインしていくことが増えているデザイン業界にマッチしていると思い、受賞作品に選びました。審査員特別賞「輝きの中へ」山口 紗瑛野沢北高等学校 1年作品コンセプト新しいことや楽しさで満ちた、鮮やかに輝いているデザインの世界に胸を躍らせる気持ちをイメージしました。審査員による講評高校生らしいフレッシュさが魅力の作品です。女の子の瞳や表情からは不安とワクワクが入り混じった様子が伝わり、これから進路を考えようとする高校生のみなさんの背中をやさしく押してくれるのではないかと思います。また、カラフルな色づかいからは、「多様さ」や「未来の可能性」といったイメージが連想され、デザインノトビラが発信するデザイン・クリエイティブ領域の学びのイメージとも合致しており、掲載した際のサイトとの相性の良さも評価につながりました。審査にあたり、受賞作品の「感性を刺激する強いノック」との接戦を繰り広げた本作に、特別に賞を授与いたします。募集要項(募集は締め切りました)出題テーマデザインノトビラ新企画「KNOCK」のメイングラフィック募集この企画の趣旨「高校生のみなさんに、デザインの世界へのトビラをノックしてもらう」という内容に沿った、自由な発想の作品を募集します!「わくわくする気持ち」「将来に向かって挑戦する情熱」「道が開けていく様子」など、前向きで明るいイメージを求めます。賞最優秀賞(1点)Amazonギフトカード3万円分、作品を企画のメインページグラフィックに採用※該当なし(採用作品なし)、あるいは、内容が変更となる場合があります応募締切2024年8月30日(金)15:00までにフォームから投稿※終了しました参加資格下記いずれかに該当する方高校または高等専門学校に在籍している方高校卒業あるいは同等の資格をお持ちで、美大やクリエイティブ系の大学・専門学校等へ進学を希望している、20歳以下の方審査員デザインノトビラ&JDN 編集部美術・デザイン系学校出身のWebエディター4名が担当!日々、日本中のデザインに触れているプロの編集者たちが、あなたの作品を審査します。
2024年7月16日(火)

コンテスト型新企画「KNOCK」スタート!企業が高校生の作品を募集

高校生向けコンテスト型の新企画「KNOCK」とは?「絵を描くことが好き」「アイデアを考えることが好き」「ものづくりが好き」というデザイナー・クリエイターの卵のみなさん!クリエイティブを学び、将来を考える人のための情報サイト「デザインノトビラ」は、そんなみなさんから作品・アイデアを大募集する新企画、「KNOCK」をスタートします。「KNOCK」では今後さまざま企業が不定期にテーマを出題。高校生のみなさんだからこそ生み出せる、フレッシュで自由なアイデアや作品を募ります! 将来を考えるきっかけとして、作品発表の場として、まずは「KNOCK」でデザインのトビラを叩いてみませんか?高校生が「KNOCK」に応募すると、いいことが!あなたの作品が社会に出るチャンス!企業・クリエイターに作品を審査してもらえる!素敵な賞金や賞品がもらえる!応募のしかた募集中のテーマ一覧から挑戦したいテーマを選ぼう!締切までに作品をつくろう!作品応募フォームへの投稿で、応募完了!決まった期日まで、ドキドキしながら結果を待とう……!募集中のテーマ(新着順)ただいま募集は行っておりません。新しいテーマの発表をお楽しみに!これまでに募集したテーマデザインノトビラ(株式会社 JDN)「KNOCK」のメイングラフィック募集(8月30日15:00締切)始まったばかりの新企画「KNOCK」のメイングラフィックを大募集!サイト内で注目を集める、すてきなグラフィック作品を募集しました。最優秀賞(1点) Amazonギフトカード3万円分、作品を企画のメインページグラフィックに採用このテーマの募集要項を見る今後も続々と、このページでテーマを出題していきます!
2024年7月16日(火)
ニュース

大賞は穴吹デザイン専門学校2年生!「日本パッケージデザイン学生賞2023」の入賞作品が決定

公益社団法人日本パッケージデザイン協会(JPDA)が主催する、学生向けのアワード「日本パッケージデザイン学生賞2023」の入賞作品が決定。大賞に選ばれたのは、穴吹デザイン専門学校2年生の綾野裕次郎さんの作品「ボーッと⼊浴剤」です。パッケージデザインの新しい魅力と価値を学生と共に発掘・伝播していくことを目的に開催される「日本パッケージデザイン学生賞」。第2回となる今回は「ひらく」をテーマに、オリジナリティのあるパッケージデザインのアイデアが3カ月間募集され、全国の大学・専門学校から513点の応募がありました。受賞作品のべ29点のうち、大賞に選ばれた作品「ボーッと⼊浴剤」は、開封後は船となる入浴剤のパッケージ提案です。ゴミになる入浴剤の袋を、楽しいものに変えたいと考えた作品です。審査委員からは、「不要さトップクラスの入浴剤のパッケージを一気にプラスにする提案」「捨てることのできるおもちゃという視点でもとても実用的」「夢や遊び心を表現しながらも、社会課題に答えているスマートなデザイン」などの評価を得ましたなお、今回の入賞作品は、2025年5月刊行予定の『年鑑日本のパッケージデザイン』に収録されます。
2023年12月11日(月)