「デザインに興味はあるけど、どんな進学先があるんだろう?」「美大を卒業した後の就職先って?」
あまり情報がなく、漠然と将来に不安を感じることってありますよね。そこで「デザインノトビラ」では美大・デザイン系学校を卒業した若手クリエイターを取材。クリエイターの体験談を通して、皆さんの進学先の先にある仕事を考えるためのヒントを探ります!
2回に分けてお届けする本記事の前編では、2022年から自動車メーカーのマツダ株式会社でデザイナーとして働きはじめた富田菜月さんに、幼少期から美術系大学進学までの道のり、充実した大学生活について伺いました!
一番やりたいことを考えたら、やっぱり『つくる』ことだった
――美術系の学科に進学し、現在マツダに勤められている富田さんですが、小さい頃はどんなお子さんでしたか?
小さい頃から絵を描いたり粘土で遊んだり、とにかく何かを作ることが大好きな子どもでしたね。どちらかというと立体を作ることのほうが得意だったと思います。
富田 菜月さん 2022年、広島市立大学デザイン工芸学科立体造形専攻を卒業。同年、マツダ株式会社に新卒入社し現在はデザイン本部ブランドスタイル統括部にて活躍中。大学時代は軽音楽部に所属し、現在もギターとベースをたしなむ。
――やはり昔からものづくりが好きなお子さんだったんですね。高校生の時も美術への関心は高かったんですか?
昔から絵を描くことが好きだったものの、特にその道を極めようとは思ってなかったんです。なので高校も美術系の学科があるところではなく、普通科の高校に進学しました。美術部にも入らず帰宅部として漠然と高校生活を送っていると、気づいたら高2の夏になってしまって……(笑)。
――高2……そろそろ進路について考え始める時期ですよね。
そうなんです。当時の担任の先生にも「何かしたいことはないの?」と聞かれ、もう進路を考え始めないといけないんだとハッとしました。そこで改めて「自分のやりたいことって何だろう?」と考えてみると、最初に浮かんだのがデザインだったんです。それから本格的にデザイン系の大学を目指そうと、美術部や画塾に入って入試対策を始めました。
小さい頃からものづくりが好きだった富田さん。大学、就職とデザインの道を進むことになる。(写真は大学入学後、専攻を選ぶための体験課題で陶器のコップを作る富田さんと同級生)
――進学先に広島市立大学のデザイン工芸学科を選んだ理由は何だったのですか?
県内でデザイン系の大学を探していた時に、先生に紹介してもらったのが広島市立大学を知ったきっかけです。一度どんな大学なのか見てみようと文化祭に行ったら、本当に楽しくて……!
特に軽音楽部のライブがすごい盛り上がりで、キラキラした表情で舞台に立つ先輩たちを見て、一気に心をつかまれちゃいました。また、展示されていたデザイン工芸学科の卒業制作もクオリティが高く、高校生ながら圧倒されたのを覚えています。この大学なら学業もサークル活動も、充実した学生生活が送れると感じたことが一番の決め手でしたね。
自由な発想で創作活動に励んだ大学生活
――受験を経て憧れの大学に入学した富田さんですが、4年間通ってみていかがでしたか?
軽音楽部と学業、どちらも全力でやり抜いた4年間でした。軽音楽部では5つくらいバンドをかけもちしながら、毎日スタジオで練習してました(笑)。
――5つもですか!学業に支障はなかったですか?
高校とは違って課題を提出するまでの時間の使い方は本人の自由なので、うまく時間を調整して学業と部活動を両立できるようにがんばりました。軽音楽部とはいえ、楽器の練習だけでなく、グッズやTシャツのデザインなど、ものづくりにもこだわって活動していました。
文化祭で見たライブに憧れた富田さんは、入学後に自身も軽音部で大活躍。
――授業ではデザインの基礎を学びつつ、サークルでは創造性を発揮しながら創作する。ものづくりが好きな人にはもってこいの環境だったんですね。
そうですね。授業でいうと、広島市立大学のデザイン工芸学科は出される課題が特徴的で、学生の想像力に委ねるテーマがとても多いんです。例えば『魔法の灯』というテーマでプロダクト課題が出されたこともありました。
――すごく抽象的なテーマですね……。
抽象的だからこそ、自由に発想できることに楽しさを感じていました。テーマに沿ってストーリーを考えながら、素材やデザインに意味を持たせることでプロダクトの世界観を一から作り上げる。そんな力を養うことができたと思います。実は、立体造形を専攻したのも、幅広く発想しながらものづくりをしたかったからなんです。
卒業制作で取り組んだ竹素材の照明。さまざまな素材の中からプロダクトのストーリーに最適なものを選べることは、立体造形専攻の魅力の一つだという。
――そうなんですね。立体造形はどのような専攻なのでしょうか?
基本的に工芸は、金属や染織のようにあらかじめ素材が決められていることが多い分野です。だけど、私はそこに違和感があって。テーマや目的によって最適な素材は変わるはず。それなのに素材が限定されてしまうのはどうなのだろう?って。もちろん、一つの素材でものづくりを極めることは素晴らしいと思います。そんな人を尊敬しています。でも、私は素材選びも含めてストーリーを考えたかったんです。その点、立体造形は立体であればなんでもOK。私がやりたいものづくりのスタイルにぴったりな専攻だと思いました。
絵本制作の課題に取り組んだときの様子
大学祭のカフェで配布するフライヤー用の写真を撮影。グループ課題として取り組んだカフェの企画運営で、建築からメニュー料理まで全てをプロデュース。富田さんはヴィジュアル面を担当した。
――選択肢の幅が広い分、どの素材が最適か選ぶのも難しいのではないですか?
確かにおっしゃる通りです。なので、選択に迷った時はデザイン工芸学科の他の専攻の友人にアドバイスをもらうようにしています。違う専攻同士の距離感が近いところがこの学科の魅力の一つ。金属造形や染織造形、漆造形など一つの素材を極めた人たちの脳みそを借りながら、最適な素材を選んでいきます。
また、途中で専攻を変えることができるのも、この学科ならではの特徴かもしれません。デザインには興味あるけど、何から始めてみればいいかわからない。そんな人も自分のやりたいことを見つけやすい学科だと思います。
執筆:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 取材・編集:猪瀬香織(JDN)
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