インタビュー
広島市立大学
ただ 『つくる』 ことが好きだった少女が、自分だけの強みを見つけてデザイナーになるまで(後編)
「デザインに興味はあるけど、どんな進学先があるんだろう?」「美大を卒業した後の就職先って?」漠然と将来に不安を感じることってありますよね。そこで「デザインノトビラ」では美大・デザイン系学校を卒業した若手クリエイターを取材。クリエイターの体験談を通して、皆さんの進学先の先にある仕事を考えるためのヒントを探ります!前編では、2022年から自動車メーカーのマツダ株式会社でデザイナーとして働く富田菜月さんに、進学の道のりや大学で学んだことについて伺いました。今回の後編では、マツダに就職するまでの経緯や、大学で学んだことをどのように仕事に生かしているか語っていただきました波乱の就職活動の中、本当に自分のやりたいことが見えた――サークルも学業も充実した学生生活を送っていたとのことですが、就職活動はいかがでしたか?なかなか波乱の道のりでした……。大学3年でドイツに留学する予定だったのですが、コロナ禍によって断念。それなら大学院に進学してから留学に再チャレンジしよう。そう思ったのですが、「本当にそれでいいのかな?」と思い始めてしまって。富田 菜月さん 2022年、広島市立大学デザイン工芸学科立体造形専攻を卒業。同年、マツダ株式会社に新卒入社。現在デザイン本部ブランドスタイル統括部にて活躍中。大学時代は軽音楽部に所属し、現在もギターとベースをたしなむ。 ――それはどうしてですか?コロナによってなかなか学生生活を満足に送ることができず、目標だったドイツ留学も諦めることになって、大学院進学.......。全部コロナによって自分の将来が左右されているなと感じたんです。それが悔しくて、「なにくそ!」という気持ちが沸々と湧いてきて(笑)。それで自分の力で進路を切り拓こうと、4年生のタイミングで就活することを決心しました。――職種はやはり、デザイン系を志望していたんでしょうか。そうですね。デザイン系を中心に見ていたのですが、4年生の時期だとデザイン系職種って新卒採用を締め切っている会社がほとんどなんですよね。やっとの思いで募集を見つけても中途のみの採用だったりして、途方に暮れました。大学4年生の頃、ゼミでの地域課題解決を目指したプロジェクトに取り組む富田さん(左)。仲間と制作に全力で取り組みつつも、将来には迷いを持っていた。 ――そうなんですね……。それからどうされたのですか?改めて自分が本当にやりたいことについて考えてみたんです。今の私に一番必要なこと。それは、造形美だけでなく機能美も意識したデザインをできるようになること。実はドイツに留学したかったのも、車や文房具などプロダクトが強い国で機能美について学びたかったからなんです。大学では造形の美しさのほうにこだわりを持って創作したからこそ、次は機能的で洗練されたデザインスキルも身につけたい。そんな思いがあって、機能美について学べる会社を探そうと思いました。――そこで思い浮かんだのが、地元・広島のマツダだったんですね。はい。実は立体造形専攻には広島市立大学とマツダの「共創ゼミ」があって、私はそのゼミ生でした。週に1回マツダのトップデザイナーにプロダクトデザインの講義に来ていただいて、一緒に課題を進めていく。そんな活動を通して、造形美だけでなく機能も考慮したデザインの重要性について学びました。だからこそ、就職して機能美について学ぶならマツダしかないと思いましたね。株式会社マツダは広島県広島市に本拠地を置く自動車メーカーで、2020年に創立100年を迎えた。「魂を吹き込む。命を与える。思想を実現する。」という哲学のもと、カーデザインをしている。 ――ということは、車のデザイナーを志望されたのですか?最初はそのつもりでした。しかし、私のポートフォリオを見たマツダの方から「富田さんはストーリーを考えてものを作るのが得意だから、車に関わるデザインよりもブランディングのほうが合っているんじゃない?」と言っていただいて。そこでマツダには「ブランドスタイル統括部」というブランドの魅力や価値を外部に発信する部署があることを知りました。自分の強みを活かしながら、マツダが長年培ってきた機能的なデザインに関するノウハウも学べる。こんなに最高な環境はないと思いましたね。何度も選考プレゼンを行い、心が折れそうになった時もありましたが、無事内定をいただけて心の底からホッとしました。大学で培った“伝える”力で、多くの人にブランドの魅力を発信――現在マツダのデザイン本部ブランドスタイル統括部にお勤めとのことですが、改めてお仕事内容について教えてください。ブランドスタイル統括部は、あらゆるお客様とのタッチポイントの姿をデザインしてブランド価値を伝える部署。店舗やWEB、映像、またグッズの制作によって、マツダというブランドの魅力や価値を人々に伝えていくのが私たちの仕事です。地元の老舗和菓子店とコラボした「にしき堂×MAZDA 特製饅頭&もみじ詰合せ」。饅頭のパッケージはマツダ車を彷彿とさせる赤、焼印にはロードスターをはじめとしたマツダの歴代名車があしらわれている。また、広島の名所をカードにデザインして同梱。富田さんはカード、シール、焼印のデザインを担当した。 ――大学で学んだことが仕事に活かされていると感じる瞬間はありますか?大学時代は作品そのもののクオリティだけでなく、その作品が見る人にどのように伝わるのかまで考えながら制作していました。照明の当て方、プレゼン資料の作り方、発表での語り方……あらゆる方法を使って「伝わる形」を模索する。その経験がマツダの魅力を最適な形で伝える今の仕事にものすごく生きているなと感じています。マツダというブランドに共感してもらえるようなストーリーを、いろんな施策を通して発信していきたいですね。自分の強みを伸ばしつつ、周りの先輩方から吸収できることはとことん吸収しながらデザイナーとしてのスキルを磨いていけたらと思います!――最後に、デザイン系の学校への進学を検討している方々にメッセージをお願いします!「ここ面白そうかも!」と少しでも思ったら、話を聞きにいったり調べてみてください!デザイン系の大学も職業も、わかりやすく道が拓かれていないことが多いです。だからこそ、自らアクションを起こして情報をつかみにいくことが大事になってきます。自分の直感に正直に、興味が出たら迷わず突き進んでほしいと思います!美大・デザイン系学校で楽しむには、まず自らアクション!(広島市立大学 ライブの様子) 執筆:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 取材・編集:猪瀬香織(JDN)
2023年4月27日(木)