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少年少女の自立に向けた「第3の存在」を目指して―グッドデザイン・ニューホープ賞最優秀賞(2)

受賞者インタビュー
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サービスの内容や目的に合わせて、デザインを柔軟に変化


――サービスで特にこだわっているポイントはどのような点ですか?


「自分一人で解決に近づけるようにする」という点です。大人の介入を待たなくても自分で支援などを使えるように、わかりやすく発信したり経験者の口コミも載せたり、支援も向き不向きがあるからそれを事前に伝えておいてあげるように心がけています。そうして、一人でもなんとかなるような状態をつくってあげる。サービスは違ってもそこは全部共通しています。


結果的にどうするかは本人たちに任せたい。やっぱり親子だから時間が経てば解決することもあるし、他人から見たらいびつな親子関係でも結構幸せに暮らしている子もいるから、そこは私たちが介入するべきではないと思っています。いまだといろいろな団体や留学制度もあるから、それを知ってもらうことは必要です。最後は自分でしっかり意思を決めてもらいたいけど、いろんな解決策や道があることを知ってほしいと思っています。



――デザイン面で特に工夫しているところはありますか?


サービスによって変えています。「gedokun」や「nigeruno」は当人向けのサービスなので、内容的に辛いことも多いから読んでいて辛くないようにできるだけ優しいトーンで。「家庭環境白書」は幅広い人に見てもらいたいサイトでもあるので、センチメンタルに情を訴える感じではなく公の感じ、より中立的な感じを目指しています。


gedokungedokun サービス画面 

 

実は今回、同じくニューホープ賞の受賞者である2名のデザイナーに依頼し、新たに「第3の家族」のグラフィックとロゴをつくってもらったんです。


第3の家族 新しくなったロゴ(作成:山岸奏大)

 

グラフィックのほうは、団体のビジョンを比喩的に間接的にグラフィックで表現してもらうよう依頼しました。こういう問題はストレートに伝わるより、比喩的なイラストで逆に考えさせられるようにするといいかなと。「家庭環境白書」についても、もっとイラストで見てわかりやすいような、シンプルなテイストにブラッシュアップしたいです。全体的に、団体の色が出すぎない、寄り添いすぎないようなイメージです。


第3の家族 グラフィック(作成:三島うみ)

 

人との繋がりが生まれる温かい賞。後押しが大きく羽ばたくきっかけに


――ではあらためて、今回、グッドデザイン・ニューホープ賞を知ったきっかけや応募理由について教えてください。


学生時代に所属していたデザインサークルの同期から教えてもらいました。その時は社会人1年目でしたが、卒業後久しぶりのコンペへの応募で、自分の中でもかなり力を注いだと思います。学生時代は掛け持ちしながら応募することもありましたが、今回は1つに絞ってかなり集中しました。これまでで一番時間をかけたかもしれません。


プロジェクト自体はすでに動いていたので、資料をまとめる作業に時間を費やし、約1ヶ月仕事と両立しながら進めていきました。プレゼン内容も練りに練って、何回も練習。あとは審査委員の方々を分析して、賞の目的や評価ポイントも自分なりに探りました。


――意識した点を教えてください。


若者らしさ、熱意、アイデアの点をアピールしました。私たちはまだ若いし、堂々と完璧に話すことよりも、等身大で、熱意とアイデアがしっかり伝わることに重きを置いたプレゼンを意識しました。


グッドデザイン・ニューホープ賞 審査会最終審査会での奥村さんのプレゼン風景

 


――受賞後にあった受賞者向けのプログラムは、建築家の内藤廣さんによる街づくりを学ぶツアーや原田祐馬さんによるワークショップなどかなり豪華なものが並びますが、特に印象に残っていることはありますか?


どのプログラムも三者三様で、学校でも習わなかったような分野をプロに教えてもらえ貴重な機会でした。学生時代はデザインに関してはいろいろと学びましたが、建築は勉強したことがなかったので、こういう視点で見るんだとか、物の見方を勉強できたのはおもしろかったです。またワークショップでは純粋にデザインやつくることを楽しむ感覚、大学1年生のときのような懐かしい感覚を思い出しました。


内藤廣さんによる街づくりを学ぶツアー開催時の様子受賞者向けプログラムである、内藤廣さんによる街づくりを学ぶツアー開催時の様子

 

――最優秀賞を受賞した時はどんな気持ちでしたか?


いろいろな感情が出てきました。嬉しい気持ちも、びっくりした気持ちもあります。でもどこかで受賞できるかもしれないと自信があったところも。プロジェクトには自信がありつつ、最後の最優秀賞はすべての分野をまたぐことになるので、建築、プロダクト、UIなどを並べてどう評価するのかなと思って。だから、受賞できて本当に嬉しかったです。


――プロジェクトが最優秀賞を受賞した際、審査委員やユーザーからの反響はありましたか?


反響としては大きく2つあります。大人との繋がりが増えたことと、同期との繋がりが増えたことです。個人活動だったプロジェクトが、受賞を機に後押ししてもらったことで、企業や大きな団体からも声をかけていただけるようになりました。まだまだこれからですが、社会的な信頼を得ることができたのは本当に大きなことだなと思います。


肩書きが重要かと言われると、そう思わない部分もありますが、仕事をする上で必要だと感じる部分もあって。さらに、社会的にも認知度の高いグッドデザイン賞に関連した賞ということで、大人や企業も安心してもらえるんだろうなと痛感しました。この賞ができたことで、若いアイデアや若い種も応援してもらいやすくなっただろうし、審査委員の方々もとても気にかけてくださったり、いろいろな方と話す機会もくださったり、親身になって応援してくれているのを感じます。


また、同期の繋がりの部分ではさきほど話した「第3の家族」のロゴ・グラフィックでのコラボはもちろん、優秀賞を受賞した「葬想式」の株式会社むじょうとも仲良くなりまして、デザイナーとして参加しています。このようなコラボレーションが生まれることもニューホープ賞の強みだと思います。


「葬想式」のビジュアル奥村さんがデザインした「葬想式」のビジュアル

 

いままでいろいろなコンペに応募したり、インターンに参加したりしましたが、今回ほど人との繋がりでてきたことはなくて、とても温かい賞だなと。こんなにいい環境はないし、なかなかこういった賞はありません。


子どもの自死がなくなる世の中を目指して


――今後の展望を教えてください。


数字的、具体的な目標でいうと、子どもの自死を減らすことに貢献できたらと思っています。子どもの自死の理由は約20%が家庭環境によるものだといわれていて、いじめなどは3%くらい。生きている間に20%から5%にするのが理想。それを目指しながら、このプロジェクトはずっと続けていくつもりです。


それでも、どうなるかわからなくていまが正解の形だとも思っていないから、これからもどんどん改善しながらさまざまな形を模索して進んでいきたい。最終的に家庭不和などによる自死がなくなればいいなと思います。またNPO法人にもなるのでこれから一緒に頑張ってくれるスタッフも増やしていきたいと思っています。


――最後に、現在応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。


迷っているなら、絶対応募した方がいいと思います。まとめる過程が自分のプロジェクトに対する気づきにもなるかもしれないですし。コンペは、審査委員やその時のテーマなどによって運もあると思います。だからそこは気楽に考えて身構えず、まずはチャレンジしてもらいたいです。



グッドデザイン・ニューホープ賞

https://newhope.g-mark.org/


文:高野瞳 撮影:井手勇貴 取材・編集:石田織座(JDN)

初出:デザイン情報サイト「JDN」 https://www.japandesign.ne.jp/

読みもの

コンテスト型新企画「KNOCK」スタート!企業が高校生の作品を募集

高校生向けコンテスト型の新企画「KNOCK」とは?「絵を描くことが好き」「アイデアを考えることが好き」「ものづくりが好き」というデザイナー・クリエイターの卵のみなさん!クリエイティブを学び、将来を考える人のための情報サイト「デザインノトビラ」は、そんなみなさんから作品・アイデアを大募集する新企画、「KNOCK」をスタートします。「KNOCK」では今後さまざま企業が不定期にテーマを出題。高校生のみなさんだからこそ生み出せる、フレッシュで自由なアイデアや作品を募ります! 将来を考えるきっかけとして、作品発表の場として、まずは「KNOCK」でデザインのトビラを叩いてみませんか?高校生が「KNOCK」に応募すると、いいことが!あなたの作品が社会に出るチャンス!企業・クリエイターに作品を審査してもらえる!素敵な賞金や賞品がもらえる!応募のしかた募集中のテーマ一覧から挑戦したいテーマを選ぼう!締切までに作品をつくろう!作品応募フォームへの投稿で、応募完了!決まった期日まで、ドキドキしながら結果を待とう……!募集中のテーマ一覧(新着順)デザインノトビラ(株式会社 JDN)「KNOCK」のメイングラフィック募集(8月30日15:00締切)始まったばかりの新企画「KNOCK」のメイングラフィックを大募集!サイト内で注目を集める、すてきなグラフィック作品を募集します最優秀賞(1点) Amazonギフトカード3万円分、作品を企画のメインページグラフィックに採用このテーマの募集要項を見る今後も続々と、このページでテーマを出題していきます!
2024年7月16日(火)
ニュース

大賞は穴吹デザイン専門学校2年生!「日本パッケージデザイン学生賞2023」の入賞作品が決定

公益社団法人日本パッケージデザイン協会(JPDA)が主催する、学生向けのアワード「日本パッケージデザイン学生賞2023」の入賞作品が決定。大賞に選ばれたのは、穴吹デザイン専門学校2年生の綾野裕次郎さんの作品「ボーッと⼊浴剤」です。パッケージデザインの新しい魅力と価値を学生と共に発掘・伝播していくことを目的に開催される「日本パッケージデザイン学生賞」。第2回となる今回は「ひらく」をテーマに、オリジナリティのあるパッケージデザインのアイデアが3カ月間募集され、全国の大学・専門学校から513点の応募がありました。受賞作品のべ29点のうち、大賞に選ばれた作品「ボーッと⼊浴剤」は、開封後は船となる入浴剤のパッケージ提案です。ゴミになる入浴剤の袋を、楽しいものに変えたいと考えた作品です。審査委員からは、「不要さトップクラスの入浴剤のパッケージを一気にプラスにする提案」「捨てることのできるおもちゃという視点でもとても実用的」「夢や遊び心を表現しながらも、社会課題に答えているスマートなデザイン」などの評価を得ましたなお、今回の入賞作品は、2025年5月刊行予定の『年鑑日本のパッケージデザイン』に収録されます。
2023年12月11日(月)
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インタビュー
東京デザインプレックス研究所 (昼1年制)

デザインの可能性を広げる「ソーシャルデザイン」の魅力

世界各国で持続可能な社会づくりが求められている昨今。社会の仕組みや制度のデザインを通して世の中の課題を解決するために、さまざまな活動がおこなわれるようになりました。そういった活動は「ソーシャルデザイン」と呼ばれ、時代の変化とともに需要の高まりが見られます。なかでも、ソーシャルデザインを教育コンセプトのひとつに掲げる東京デザインプレックス研究所(以下、TDP)では、学⽣主体のラボラトリー「フューチャーデザインラボ」を企画・運営。「ソーシャル・カルチャー・ビジネス的視点を持つデザイナーを未来に向けて輩出する」ことを⽬的とし、積極的に活動しています。今回、同校の修了生でデザインを通じて社会課題に向き合うプロジェクトに携わる鴻戸美月さん、水島素美さん、兵藤海さん、藤森晶子さんの4名に、「フューチャーデザインラボ」発のプロジェクトの内容やソーシャルデザインの面白さ、身についたスキルなどについて語っていただきました。「死生観」「イマジナリーフレンド」「固定種野菜」「医療」……4人が向き合う社会課題とは――プロジェクトに取り組むことになった経緯についてみなさんにうかがいます。まずは、「さだまらないオバケプロジェクト」のメンバーとして人々の死生観をデザインの力で変えていく活動をしている鴻戸さん、いかがでしょうか。鴻戸美月さん(以下、鴻戸):TDPに入学し、同校が運営する「フューチャーデザインラボ」に所属したことがプロジェクト発足のきっかけです。  前職はアパレル会社に勤務していた鴻戸さん。2019年4月〜9月にTDPのグラフィック/DTP専攻を受講。修了後、フリーランスでデザイン業務をおこないながら「フューチャーデザインラボ」に参加  鴻戸:ラボに所属すると数名でチームを組み、取り組みたいテーマについて話し合います。私が世の中の死生観に興味を持つようになったのは、TDPスタッフの方がお母様を亡くされ、遺品を捨てられないと話していたのがきっかけでした。現代の日本では「死」について語ることはあまり好ましく思われません。そのため、悲しみを一人で抱えて塞ぎ込んでしまう。これは誰もがいつか必ず直面する問題です。だからこそ、私たちは「死」の捉え方をデザインの力で変えていきたいと思いました。遺された人が、亡くなった人との思い出を生きる糧にできるような世の中にしようと、さまざまな製品を開発しています。共通の故人を知る人同士で集まり、故人の思い出を語り合いながら振り返るきっかけをつくるカードゲーム「ソラがハレるまで」。死別によって心に抱えたモヤモヤとした気持ちを発散し、もう一度故人との素敵な思い出と出会ってほしいという思いが込められている ――水島さんも鴻戸さんと同じく「フューチャーデザインラボ」に所属しているんですよね?水島素美さん(以下、水島):本業である経営企画の仕事をする中で、思考が凝り固まっていることに気づき、新しい視点や発想力を身につけるためにTDPでの学び直しを決めました。特に「フューチャーデザインラボ」は未来を予測しながら課題を発見しアプローチするという点で、本業にも学びが活かせそうだと思い参加しました。アパレルブランドの経営企画として働いている水島さん。2019年10月〜2020年6月にTDPのグラフィック/DTP専攻を受講し、フューチャーデザインラボの第4期生として活動している  ――水島さんは、大人の発想力を高める「オルタナフレンドプロジェクト」のメンバーですが、「オルタナフレンド」とはなんなのでしょう?水島:一言で表すと「大人版イマジナリーフレンド※」です。子供の豊かな発想力によって生み出されるイマジナリーフレンドは、年齢が上がるにつれて消えてしまいます。それなのに、発想力は大人になっても求められる。私自身、本業やラボの活動で、アイデアが思うように出てこなくてやきもきする経験を幾度となくしてきました。そんな中で、イマジナリーフレンドが認知科学の観点で発想力を高める存在として有効だという論文を見つけて、私たち大人に必要なのは発想を手助けしてくれる相棒だと思ったんです。本プロジェクトではワークショップなどを通じて、その相棒として私たちが考えた「オルタナフレンド」を見つける活動をしています。※「イマジナリーフレンド」とは、通常幼少期に見られる「空想上の友人」のこと。発達心理学などで用いられる言葉コミュニティスペース「SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)」にて、未知の価値に挑戦するプロジェクトとして参加したオルタナフレンドの展示風景。そのほか、日本最大級の科学と社会をつなぐオープンフォーラム「サイエンスアゴラ」などでワークショップを実施  ――現在Web制作会社でデザイナーを本業としている兵藤さんも「フューチャーデザインラボ」所属ですが、ソーシャルデザインに興味を持ったきっかけを教えてください。兵藤海さん(以下、兵藤):TDPのティーチングアシスタントがこのラボを薦めてくれたことが、きっかけでした。もともと自分が本業で培ってきたデザインのスキルを社会に活かしたいという思いが強く、当時コロナ禍だったこともあって何か世の中に貢献したいと感じていたんです。そんな時にラボの存在を知り、これは挑戦しないと後悔するなと応募を決めました。UIデザイナーを経て、現在Web制作会社でデザイナー兼ディレクターとして働いている兵藤さん。2022年1月〜2022年9月にTDPのグラフィック/DTP専攻を受講し、フューチャーデザインラボ第5期生として活動 ――兵藤さんは絶滅の恐れがある固定種野菜を持続させるためのプロジェクトのメンバーですが、固定種野菜とはどんな野菜なのでしょうか?兵藤:固定種野菜とは、スーパーなどでほとんど出回ることのない、人が手を加えることで何世代にもわたり特性が受け継がれている野菜のことです。これらの野菜は、収穫量が少ないことや外食産業の普及などを理由に生産農家が減り、現在絶滅の危機に直面しています。その現状を知った私たちはフィールドワークとして各地の農家をまわり、固定種野菜の現状について調べていきました。拾い上げた課題をもとにシェフとコラボした試食イベントを開催するなど、固定種野菜の魅力を知ってもらい、ファンを増やす活動をおこなっています。固定種野菜が持続するためのサイクルを「知る・興味→体験→拡散→再購入・新規購入者の獲得→需要増加→生産者増加」と考え、このうち「体験」を提供するイベントを実施。イタリアンレストランのシェフがこの日のために開発した特別メニューを振るまった ――続いて、ストーマ(人工肛門)を手術で造設した患者さんの生活を豊かにするための「ストーマパウチプロジェクト」のメンバーである藤森さん。お三方とは違う経緯でプロジェクトに参加されたんですよね?藤森晶子さん(以下、藤森):私は横浜市立大学先端医科学研究センターのコミュニケーション・デザイン・センターで、医療現場の課題をデザインの力で解決する仕事をしています。本プロジェクトは、ストーマ(人工肛門)を手術で造設した方が排泄物をためておく透明のパウチ(袋)に貼る、デザインステッカーの開発プロジェクトです。患者さんの気持ちを少しでも明るくしたいという大腸外科医の先生の想いから誕生しました。デザインが肝となるプロジェクトなので、ソーシャルデザイン分野で横浜市立大学と長年交流のあるTDPと共同で活動をスタート。本学とTDPの架け橋役として、TDP出身で本学のデザインセンターで働く私が発足メンバーに加わりました。横浜市立大学先端医科学研究センターのコミュニケーション・デザイン・センターのデザイナーとして働く藤森さん。2017年7月〜11月にTDPのグラフィック/DTP専攻を受講し、修了後「ストリートメディカルスクール(TDPと横浜市立大学との協働カリキュラム。TDPの修了生と医療関係者が集い、デザインや医療のプロフェッショナルに学ぶ教育プログラム)」の1期生に。プログラム修了後も2期生のアドバイザーを務める ――医療分野の課題をデザインで解決するにあたって、どのようなことが大変でしたか?藤森:私たちがデザインしているのは、透明で中身が確認しやすいという医療側のメリットに特化したストーマパウチを、患者さんの好みや気持ちに寄り添ってアレンジするためのステッカーです。しかし、それは機能上なくても問題ないもの。だからこそ、患者さんが使用中に邪魔に感じたり、不具合が起きたりするようなことは決してあってはなりません。ステッカーのグラフィックをデザインして終わりというわけではなく、医療の観点からも使用して問題がないかを細かく検証していく必要があります。ストーマパウチのステッカーデザインはTDPの学生たちが担当。藤森さんはそれらの取りまとめやステッカーカタログのデザインのほか、クラウドファンディングの運営、ストーマパウチメーカーや印刷会社とのやりとり、納品までのディレクションを担当している 完成までは試行錯誤の繰り返しでしたが、先生やストーマパウチメーカー、印刷会社などあらゆる分野のプロの方たちの協力のもと、ステッカーを無事患者さんに届けることができました。大変なことも多かったですが、使っていただいた方から喜びの声をいただいた時は、心からつくって良かったと思いましたね。デザインとは、自分の気づきを形にする力――プロジェクトに取り組んだからこそ得られた学びや身についたスキルはありますか?鴻戸:学生としてデザインを勉強していた時は、自分が身につけた制作スキルで何ができるのか、よくわかっていませんでした。しかし、プロジェクト活動の中で、自分たちで問題を発見し、深掘りし、アイデアを形にするまでやり通す力が身についたと感じています。「デザイン」とは、こうなったらよいと思ったことを自分の手で実現させる力でもあるんだと、身に染みて実感しました。――ソーシャルデザインの対象となる社会課題の中には、鴻戸さんが向き合っている「死」の問題も含まれているのですね。鴻戸:私たちは、課題をデザインで解決したいというより、課題についてみんなが考えるきっかけをつくりたいと考えています。「私たちはこう思うんです!」と信念をぶつける活動ではなく、「こういう考え方をしてみてはどうだろう?」と優しいコミュニケーションをしていきたい。そういういろんなコミュニケーションを生み出すことができるのもデザインの魅力の一つだと思います。違和感と向き合いつづけることが大事――ソーシャルデザインに携わる上で大事なことを教えてください。兵藤:ソーシャルデザインの活動では、自分の気持ちや違和感を大事にすることがすごく大切だと思います。自分たちが提起した問題に対して、本気で解決したいという想いが、人々に共感されるデザインを生み出します。もし日常にちょっとした違和感を覚えているなら、その感覚を大事にしながら、いろんなソーシャルデザインの事例を調べてみるのもいいかもしれません。水島:仕事をしていると自分では違和感があっても、それを受け入れるのが大人だという価値観が当たり前になりがちです。私もそうでした。しかし、ラボでの活動を通して世の中の当たり前に対して「本当にそうなのか?」と自分で問いを立てる力が身につきました。デザインの領域は目に見えるものだけでなく、課題提起や戦略、コンセプトなど目に見えない部分まで広がっています。特にソーシャルデザインはその目に見えない部分を考え抜く力が試される分野です。そういった思考力を身につけたい人にとっては最高のフィールドだと思います!アイデアを形にすることから始めてみてほしい――最後に、デザイン分野に興味を持っている読者のみなさんにメッセージをお願いします!藤森:ソーシャルデザインに取り組む中での一番のやりがいは、自分の頭の中のものを社会に役立つ形で具現化できることです。口頭だけのアイデアや実現性のないイメージでとどまっていたものを最後までつくり切ることは、自信にもつながります。もちろんつくってみて初めてわかる自分の至らなさもたくさんあります。だけど、より良いものをつくるために、頭の中だけで終わらせずに、とにかくスケッチや模型など自分の手でつくってみることを大事にしてほしいです。そういった機会がTDPには豊富にあるので、デザインに少しでも興味のある方はぜひチャレンジしてほしいと思います!取材・文:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 撮影:加藤雄太 編集:萩原あとり(JDN)
2023年8月29日(火)