文:高野瞳 撮影:井手勇貴 取材・編集:石田織座(JDN)
初出:デザイン情報サイト「JDN」 https://www.japandesign.ne.jp/
――サービスで特にこだわっているポイントはどのような点ですか?
「自分一人で解決に近づけるようにする」という点です。大人の介入を待たなくても自分で支援などを使えるように、わかりやすく発信したり経験者の口コミも載せたり、支援も向き不向きがあるからそれを事前に伝えておいてあげるように心がけています。そうして、一人でもなんとかなるような状態をつくってあげる。サービスは違ってもそこは全部共通しています。
結果的にどうするかは本人たちに任せたい。やっぱり親子だから時間が経てば解決することもあるし、他人から見たらいびつな親子関係でも結構幸せに暮らしている子もいるから、そこは私たちが介入するべきではないと思っています。いまだといろいろな団体や留学制度もあるから、それを知ってもらうことは必要です。最後は自分でしっかり意思を決めてもらいたいけど、いろんな解決策や道があることを知ってほしいと思っています。
――デザイン面で特に工夫しているところはありますか?
サービスによって変えています。「gedokun」や「nigeruno」は当人向けのサービスなので、内容的に辛いことも多いから読んでいて辛くないようにできるだけ優しいトーンで。「家庭環境白書」は幅広い人に見てもらいたいサイトでもあるので、センチメンタルに情を訴える感じではなく公の感じ、より中立的な感じを目指しています。
実は今回、同じくニューホープ賞の受賞者である2名のデザイナーに依頼し、新たに「第3の家族」のグラフィックとロゴをつくってもらったんです。
グラフィックのほうは、団体のビジョンを比喩的に間接的にグラフィックで表現してもらうよう依頼しました。こういう問題はストレートに伝わるより、比喩的なイラストで逆に考えさせられるようにするといいかなと。「家庭環境白書」についても、もっとイラストで見てわかりやすいような、シンプルなテイストにブラッシュアップしたいです。全体的に、団体の色が出すぎない、寄り添いすぎないようなイメージです。
――ではあらためて、今回、グッドデザイン・ニューホープ賞を知ったきっかけや応募理由について教えてください。
学生時代に所属していたデザインサークルの同期から教えてもらいました。その時は社会人1年目でしたが、卒業後久しぶりのコンペへの応募で、自分の中でもかなり力を注いだと思います。学生時代は掛け持ちしながら応募することもありましたが、今回は1つに絞ってかなり集中しました。これまでで一番時間をかけたかもしれません。
プロジェクト自体はすでに動いていたので、資料をまとめる作業に時間を費やし、約1ヶ月仕事と両立しながら進めていきました。プレゼン内容も練りに練って、何回も練習。あとは審査委員の方々を分析して、賞の目的や評価ポイントも自分なりに探りました。
――意識した点を教えてください。
若者らしさ、熱意、アイデアの点をアピールしました。私たちはまだ若いし、堂々と完璧に話すことよりも、等身大で、熱意とアイデアがしっかり伝わることに重きを置いたプレゼンを意識しました。
――受賞後にあった受賞者向けのプログラムは、建築家の内藤廣さんによる街づくりを学ぶツアーや原田祐馬さんによるワークショップなどかなり豪華なものが並びますが、特に印象に残っていることはありますか?
どのプログラムも三者三様で、学校でも習わなかったような分野をプロに教えてもらえ貴重な機会でした。学生時代はデザインに関してはいろいろと学びましたが、建築は勉強したことがなかったので、こういう視点で見るんだとか、物の見方を勉強できたのはおもしろかったです。またワークショップでは純粋にデザインやつくることを楽しむ感覚、大学1年生のときのような懐かしい感覚を思い出しました。
――最優秀賞を受賞した時はどんな気持ちでしたか?
いろいろな感情が出てきました。嬉しい気持ちも、びっくりした気持ちもあります。でもどこかで受賞できるかもしれないと自信があったところも。プロジェクトには自信がありつつ、最後の最優秀賞はすべての分野をまたぐことになるので、建築、プロダクト、UIなどを並べてどう評価するのかなと思って。だから、受賞できて本当に嬉しかったです。
――プロジェクトが最優秀賞を受賞した際、審査委員やユーザーからの反響はありましたか?
反響としては大きく2つあります。大人との繋がりが増えたことと、同期との繋がりが増えたことです。個人活動だったプロジェクトが、受賞を機に後押ししてもらったことで、企業や大きな団体からも声をかけていただけるようになりました。まだまだこれからですが、社会的な信頼を得ることができたのは本当に大きなことだなと思います。
肩書きが重要かと言われると、そう思わない部分もありますが、仕事をする上で必要だと感じる部分もあって。さらに、社会的にも認知度の高いグッドデザイン賞に関連した賞ということで、大人や企業も安心してもらえるんだろうなと痛感しました。この賞ができたことで、若いアイデアや若い種も応援してもらいやすくなっただろうし、審査委員の方々もとても気にかけてくださったり、いろいろな方と話す機会もくださったり、親身になって応援してくれているのを感じます。
また、同期の繋がりの部分ではさきほど話した「第3の家族」のロゴ・グラフィックでのコラボはもちろん、優秀賞を受賞した「葬想式」の株式会社むじょうとも仲良くなりまして、デザイナーとして参加しています。このようなコラボレーションが生まれることもニューホープ賞の強みだと思います。
いままでいろいろなコンペに応募したり、インターンに参加したりしましたが、今回ほど人との繋がりでてきたことはなくて、とても温かい賞だなと。こんなにいい環境はないし、なかなかこういった賞はありません。
――今後の展望を教えてください。
数字的、具体的な目標でいうと、子どもの自死を減らすことに貢献できたらと思っています。子どもの自死の理由は約20%が家庭環境によるものだといわれていて、いじめなどは3%くらい。生きている間に20%から5%にするのが理想。それを目指しながら、このプロジェクトはずっと続けていくつもりです。
それでも、どうなるかわからなくていまが正解の形だとも思っていないから、これからもどんどん改善しながらさまざまな形を模索して進んでいきたい。最終的に家庭不和などによる自死がなくなればいいなと思います。またNPO法人にもなるのでこれから一緒に頑張ってくれるスタッフも増やしていきたいと思っています。
――最後に、現在応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。
迷っているなら、絶対応募した方がいいと思います。まとめる過程が自分のプロジェクトに対する気づきにもなるかもしれないですし。コンペは、審査委員やその時のテーマなどによって運もあると思います。だからそこは気楽に考えて身構えず、まずはチャレンジしてもらいたいです。
グッドデザイン・ニューホープ賞
文:高野瞳 撮影:井手勇貴 取材・編集:石田織座(JDN)
初出:デザイン情報サイト「JDN」 https://www.japandesign.ne.jp/