デザイン・クリエイティブの学校を卒業し、クリエイターとして活躍する先輩を取り上げる「トビラの先輩インタビュー」。第1回目に登場するのは、グラフィックデザイナーの玉野ハヅキさんです。
玉野さんは阿佐ヶ谷美術専門学校のデザイン学科 視覚デザインコースでグラフィックデザインを専攻し、卒業後、2022年にグラフィックデザイナーとして株式会社ヨーヨーを設立。
現在は「でんぱ組.inc」「いゔどっと」「あんスタ」「VS AMBIVALENZ」といった人気アーティストやエンタメコンテンツのロゴ、アートワーク、グッズのデザインを数多く手がけられています。
そんな玉野さんですが、デザイナーとして活躍するまでにさまざまな苦労や悩みがあったそう。デザイナーを目指したきっかけから現在までのお話を伺いました。
紆余曲折を経て、子どもの頃からの憧れの仕事に
――アーティストのロゴやアニメ系コンテンツなどさまざまな作品を手がける玉野さんですが、デザインという仕事を意識されたのはいつ頃だったのですか?
小学生の頃だと思います。子どもの頃から漫画や映画、キャラクターなどエンタメ系のコンテンツが好きでした。
ロゴやパッケージがかわいいものや装丁がかわいい漫画に憧れて、そういうものをつくる人になりたいと思っていました。でも、当時はまだデザイナーがどんな仕事なのかよくわかっていなかったので、どちらかというとイラストレーターになりたいと思ってよく絵を描いていましたね。
――当時、特に好きだった漫画の装丁やキャラクターのグッズ、デザインなどはあったのですか?
漫画でいうと『ハチミツとクローバー』です。よく書店に平積みされている本を見ていたのですが、インパクトのある裁ち落としの表紙イラストに、作品のロゴもかわいくて、たくさんの単行本の中でとても目立っていたんですよね。
少女漫画のキラキラした印象とも少し違った独特のタッチにも惹かれました。表紙の紙質も少しマットで、「なんか違うぞ」と思ったのを覚えています。
子どもながらに気になる要素がたくさんあって、『ハチミツとクローバー』の表紙がまさにデザインの原体験だったと思います。
――そこからデザイナーという存在を知って、具体的に目指しはじめたのはどのような経緯だったのでしょう。
私が卒業したのが八王子桑志高校という地元の高校なのですが、デザイン分野が学べておもしろそうだなと思ったんです。映像、漫画、広告、CDジャケットなど幅白く興味があって、何かしらものをつくりたいと思っていたので、そこに進学したことが明確にデザイナーを志すきっかけになりました。
――玉野さんの代表作品の一つに「くまめ」のキャラクターがありますが、これはいつ頃から展開されていたのですか?
「くまめ」ができたのは、ちょうど専門学生の終わり頃でした。高校卒業後は阿佐ヶ谷美術専門学校(以下、アサビ)のデザイン学科に通っていて、「くまめ」をモチーフにしたシルクスクリーン用の版をつくってTシャツやパーカーに刷っていたんです。専門学校卒業後に、それを店舗や通販で本格的に展開していきました。
三つ目のクマのキャラクター「くまめ」
――その後グラフィックデザイナーとしてお仕事されるのは、もう少し後になるのでしょうか。
そうですね。将来的にはグラフィックデザイナーになりたいという目標があったのですが、就職が決まらないまま専門学校を卒業して、卒業後は写真店や出版系の会社でアルバイトをしていました。
「くまめ」の活動をしていたのもその頃で、それが軌道にのってきたのでアルバイトを辞めて、そこから3〜4年はものづくりを中心に活動していたんです。
なので最初は作家活動からスタートしたのですが、色々なところでデザインもできることはアピールしていました。
そうこうしているうち、友人がつくったキャラクター「おしゅし」のロゴをつくらせてもらうことになり、それがグラフィックデザイナーとしての最初の仕事になりました。
あとは周りのイラストレーターの友人から名刺のデザインを頼まれたり、ロゴを依頼されたり、当時は本当に数ヶ月に何回かでしたが、徐々にデザインの仕事が増えていって今に至ります。そんなふうに紆余曲折があったので、グラフィックデザインの仕事の比重がぐっと増えたのはここ3〜4年ですね。
アーティストをとりまくファンからの反響も糧に
――現在お仕事をされる中で、最もやりがいを感じるのはどんなときですか?
依頼主であるクライアントはもちろんですが、VTuverなら配信を見ている方々、アイドルならそのファンの方々に喜んでいただけたときですね。いつもこの自宅軒オフィスで一人で作業をしているので、作品を気に入ってもらえるかなという不安が常にあるんですよね。
だからアーティストご本人をはじめ、そのアーティストを好きなファンの方々も喜んでくれたときが一番やりがいを感じます。あとはクライアントさんが私に依頼してくださるときに、「アーティスト本人からの希望なんです」と言ってくださることがあって、その言葉を聞けたときもすごく嬉しいです。
――ファンの方々の期待にも応えられるよう意識されているのですね。
そこはとても意識しています。イベントに来ているファンの方々ってSNSに写真を上げているので、こういうファッションを着るんだったらこういう方向性が好きかな、とイメージを膨らませたりします。クライアントが要望されるイメージとファン層のテイストが乖離しすぎないように、自分でもリサーチは徹底して行います。
――そのように作品をつくる中で、特に印象に残っているのはどんなお仕事ですか?
3年前に手がけた、メイド喫茶「あっとほぉーむカフェ」の仕事です。カフェで働くメイドさんたちのブロマイドやフォトブックなど、17周年を記念したグッズの撮影にあたって、周年ロゴや看板、撮影背景に散りばめられたモチーフのグラフィックを私が担当しました。
背景のセットはプロップデザイナーの方が組んでくださったのですが、Webで完結する仕事も多かった中で、こうして一つの世界観をつくり上げる一連の作品に携われたのは感慨深かったです。
秋葉原にある「あっとほぉーむカフェ」の本店にも、17周年のメイングラフィックの看板が1年間大々的に出ていました。
「あっとほぉーむカフェ」17周年を記念したフォトブック
――皆さんの反応はいかがでしたか。
メイドさんたちをはじめ、お客様も「『あっとほぉーむカフェ』っぽくてかわいい!」と褒めてくださって、大きな反響をいただきました。私自身かわいいものやオタクカルチャーに影響を受けてきたので、一つの集大成になったというか。子どもの頃からやってみたいと思い描いてきたことが、ちゃんと仕事になった感覚がありました。