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デザイナーへの近道は「1年間の実践授業」と「デザインコンペ」

東京デザインプレックス研究所出身 コンペ受賞者インタビュー(学校編)
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デザイナーになりたい。だけど、どんなステップを踏めば良いのかわからない。そんな方にとって「デザイン学校」と「デザインコンペ」は理想を叶える手段になるかもしれません。学校で身につけた知識やスキルを、デザインコンペを通して実績に変える。新たなキャリアを切り拓くカギが、好きなことを仕事につなげる「デザイン学校」と「コンペ」に隠されています。


今回は、デザインノトビラとコンテスト情報サイト「登竜門」の連動企画。実践的に学べるデザイン専門校「東京デザインプレックス研究所(以下、TDP)」を卒業し、デザインコンペ受賞の実績を活かしてデザイナーへの転身に挑む増谷誠志郎さん(以下、増谷)と髙田夏希さん(以下、髙田)にお話を伺いました。

「デザインノトビラ」では、学校での学びを中心にご紹介します。


「コンペ編 by 登竜門」はこちら!

新たなチャレンジを、東京デザインプレックス研究所で。


― 増谷さんは社会人を4年間経験した後、髙田さんは大学休学後にTDPに入学されているとのことですが、入学前はどんなことをしていたのですか?


増谷:もともとものづくりが好きで、自動車部品メーカーでエンジン部品の開発に携わっていました。そんな中で、4年目には自分がやりたかったことは一通り経験できたと感じるようになって。そこで改めて「自分が今一番やりたいことって?」と考えた時に、学生時代から興味があったデザインが思い浮かんだんです。

でも、当時の僕にはデザインに関する知識は何もなかったので基礎から学ぼうと、デザイン系の学校を探し始めました。


増谷誠志郎(SANAGI design studio)増谷誠志郎(ますたにせいしろう) 自動車部品メーカーに4年間在籍後、東京デザインプレックス研究所 デジタルコミュニケーションデザイン専攻に入学、2020年3月修了。同年9月に友人と「SANAGI design studio」を設立。代表作は、2020年度 東京ビジネスデザインアワードの最優秀賞提案であり後に商品化した「さかなかるた」で、2022年グッドデザイン賞(グッドデザインベスト100、グッドフォーカス賞)も受賞している。2021年度 東京ビジネスデザインアワードでも優秀賞など3つの賞を獲得。

 

― デザインとは全く異なる分野からのチャレンジだったのですね。髙田さんはいかがですか?


髙田:私は大学で演劇を学びながら、役者を目指してオーディションや舞台の稽古に明け暮れていました。しかし、舞台活動に打ち込むと大学に通う時間がない。まずは自分がやりたいことに向き合おうと、2年生の時に大学を休学することにしました。

デザインの仕事に興味を持ち始めたのは、音楽活動をしている知り合いのCDジャケット制作がきっかけでした。私が以前から趣味でイラストを描いていることを知って、依頼してくれたんです。それから、演劇をしながらデザイン制作活動もするようになりました。


髙田夏希 JAGDA国際学生ポスターアワード2022金賞 東京デザインプレックス研究所髙田夏希(たかた なつき) 大学で演劇を専攻した後、東京デザインプレックス研究所 デジタルコミュニケーションデザイン専攻に入学、2022年3月に修了。同校講師アシスタントを務め、現在はフリーランスのデザイナーとして活躍中。「デザインで演劇を盛り上げる」という目標に向けて制作活動を行う。「JAGDA国際学生ポスターアワード2022」金賞受賞。

 

― デザイン系の学校への入学を決めた理由はなんだったのでしょうか?


髙田:演劇もデザインも本当に楽しくて、両方続けていきたかったのですが、現実的にお金を稼ぐことを考えて、デザインスキルを磨いていこうと、デザイン学校への入学を決めました。


個性豊かで熱量の高い生徒に囲まれた、刺激的な学校生活。


― 多くのデザイン系専門学校がある中で、TDPを選んだ決め手を教えてください。


増谷:僕はとにかく早くスキルを身につけたいという想いがありました。だから、1年制で短期間、かつ実践的な授業が多かったTDPが一番魅力に感じたんです。エンジン部品開発に携わっていた時から「やりながら覚えていくこと」を大事にしていたので、学び方のスタイルも自分に合っていると思いましたね。


髙田:私も増谷さんと同じ理由でしたね。実践的な授業でいうと、たとえば広告やパッケージ、Webサイト制作など実際に作品をつくる授業だけでなく、デザインの目的から組み立てるブランディングの授業などがありました。デザインの仕事に必要な工程を一から学ぶことができるので、デザイナーに必要なスキルが身につくと思ったんです。


― 実際にTDPに通い始めた時の心境はいかがでしたか?


増谷:「想像以上にいろんな人がいるんだなあ」と驚きの連続でした(笑)。僕と同じように仕事をやめて入学した人も多く、それぞれが違った専門性を持っていて、本当に刺激になりましたね。牛への愛をひたすら語る農協出身のクラスメイトもいて、今でも強烈に覚えています(笑)。

増谷誠志郎・髙田夏希


髙田:私のクラスも個性的な人が多かったです!だけど、デザインに関してはみんな初心者。だからこそ、クラスメイトの成長がそのまま自分への刺激になるんです。1年という限られた時間だからこそ、「絶対にこの間に学びきろう!」という意欲をみんな持っている。とにかくみんなの士気が常に高い環境でしたね。


東京デザインプレックス研究所 授業風景授業風景

 


デザインそのものの考え方が、今の仕事にも生きている。


― 学校生活についてお伺いしましたが、TDPで学んだことの中で、今の仕事に活きていることを教えてください。


増谷:やはり実践的なスキルが学べたのはとても大きかったように思います。特に「プレックスプログラム」という各業界のトップクリエイターが登壇するワークショップでは、実際の案件をベースにしたワークを通して、デザインにおける根本的な考え方を学ぶことができました。


東京デザインプレックス研究所 ワークショップの様子「プレックスプログラム」のワークショップの様子

 

入学前の僕は、デザインとはかっこいいモノをつくることだと思っていました。しかし、ワークショップでロゴ制作や商品企画をしていると、むしろ見た目以外の部分の考察が大切だと身にしみてわかってくるんです。まず目的やターゲットをしっかり考え抜くこと。デザインを機能させるために、この考えはデザイナーとしてずっと大事にしています。


― 増谷さんは卒業後デザインコンペ『東京ビジネスデザインアワード』で最優秀賞を獲得していますが、応募作品を制作する際にも、デザインの目的やターゲットから向き合うという考え方を大事にしていたのでしょうか?


増谷:そうですね。僕は42億色を表現できる印刷技術を持った企業の課題を解決するために、「さかなかるた」というプロダクトを考案しました。このプロダクトを制作する時に一番大事にしたのは「その企業が持つ技術力を活かしながら、看板商品となる新たな収益源をつくる」という目的。そのために、「企業内で制作を完結できるか」ということをかなり意識してデザインしました。


2020年度東京ビジネスデザインアワード最優秀賞・2022年度グッドデザイン賞「さかなかるた」

 

金賞獲得のカギは、さまざまな人の目線を取り入れたこと。


― 髙田さんも卒業後に『JAGDA国際学生ポスターアワード2022』で金賞を受賞しています。どんなことを意識しながら制作していたのでしょうか?


髙田: この作品は、自分が当事者であることと、配置するもの全てに意図を持たせることを意識しながら制作しました。あと、たくさんの人に意見を聞きました。作品に対して意見を聞くことに苦手意識があったのですが、この作品では初めて素直に意見を聞けました。皆さまざまな好みがある中、汲み取りたいところを汲み取って、自分に響かない意見は反映させない、という判断ができたのは大きかったと思います。


髙田夏希 JAGDA国際学生ポスターアワード金賞受賞作品JAGDA国際学生ポスターアワード2022 金賞「ILY」

 

デザインコンペへの挑戦について、詳しくは「コンペ編 by 登竜門」へ!

「迷ったらGO!」道筋は入学してから見つかる。


― 最後に、TDPに興味を持っている方や入学を検討している方に向けて、メッセージをお願いします!


増谷誠志郎・髙田夏希


髙田:TDPは課題も多く大変なことはたくさんありますが、1年しかないからこそ、途中でだらけることなく学業に専念できる学校です。また、グラフィックもWebも両方学べるカリキュラムなので、デザイナーとして様々な武器が身につけられる。私自身、グラフィックの仕事を中心にやりつつ、Webデザインの仕事も受注したりと、幅広い業務に携わることができています。

とにかく私から言いたいのは「迷ったらGO!進んでほしい」ということです!今は目標ややりたいことがはっきりしていなくても、TDPに通っている中で道筋が見えてきます。


増谷誠志郎・髙田夏希


増谷:やる気次第でどうにでもなるので、難しいことは考えずに「デザインを学びたい」と思ったらまっすぐ突き進んでみてほしいと思います。髙田さんも言っていましたが、具体的なことは入ってみてから考えればいいし、TDPはいろんな選択肢が広がっている場所です。「1年で絶対に学びきるぞ!」という気持ちで、なりたい自分に近づいていってほしいですね。


増谷誠志郎・髙田夏希


取材・執筆・編集:濱田あゆみ(ランニングホームラン)、撮影:加藤雄太、企画:猪瀬香織(JDN)


※前編はこちら!

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「出会いたい。これからの世界をつくる新しい才能たちと。」これは、グッドデザイン賞を主催する日本デザイン振興会が2022年に新たに発足した「グッドデザイン・ニューホープ賞」のサイトに掲げられたキャッチコピーだ。同賞は将来のデザイン分野を担う世代の活動を支援することを目的に新設されたもので、グッドデザイン賞がプロ・企業の商品やサービスを対象にしていることに対し、在学中の学生や卒業・修了直後の方によって制作されたデザインを対象に実施される。第1回目の審査委員長は、プロダクトデザイナーの安次富隆さん、副委員長はクリエイティブディレクターの齋藤精一さんで、両名ともグッドデザイン賞の審査委員も務めている。そのほか建築家やアーティストなど錚々たるメンバーが審査委員を務めた。 応募可能なデザイン領域は、「物のデザイン」「場のデザイン」「情報のデザイン」「仕組みのデザイン」の4つのカテゴリー。応募テーマの指定がなく、応募者が在学期間中に独自に制作したものであれば、大学や専門学校などのゼミの課題制作や卒業制作、自主研究などのデザインで応募できることが特徴である。また、受賞者をバックアップするため、デザイナーや建築家によるワークショップへの参加など独自のプログラムが用意されることも大きい。最優秀賞を受賞したのは、法政大学デザイン工学部システムデザイン学科卒の奥村春香さんによる「第3の家族」。家庭環境に悩む少年少女などに向けた自立支援サービスで、既存制度の支援対象に該当しない少年少女に対し、自分の居場所を見つけるための情報や機会を提供することを目的としている。「心」「将来設計」「社会発信」の3つの支援プログラムを用意し、少年少女を遠くから支える「第3の存在」になることを目指している。今回、同プロジェクトを精力的に進める奥村さんに、プロジェクトへの想いやコンペへの取り組み方、受賞後の変化などを伺った。幼少期から関心を持ったデザイン。コンペが自分を知るきっかけに。――学生時代はどんなジャンルを学んでいましたか?法政大学のデザイン工学部システムデザイン学科で、デザインはもちろん、エンジニアリング実装の知識やマネジメント領域、市場調査やユーザーリサーチなど、ものづくりを統合的に学びました。学生時代は、プロダクトデザイン、VRやAR、グラフィックなど幅広く学んでいましたが、今回コンペに出したのはUIアプリのデザインです。奥村春香(おくむらはるか) NPO法人第3の家族理事長。LINE株式会社 Product Designer。2022年度グッドデザイン・ニューホープ賞最優秀賞、法政大学理系同窓会成績優秀者、Asia Digital Award Fukuoka 入賞、GUGEN2019 アナログ・デバイセズ賞、Visionalコンペ 特別賞。 ――もともと幼少期からそういったものづくりやデザインに興味があったのですか?そうですね。幼稚園の頃からなんとなくデザイナーになりたいという気持ちがあり、工作の授業なども好きな子ども時代でした。当時NHKの教育番組「デザインあ」を観るのが楽しくて、私はデザインが好きなんだなとなんとなく思っていました。大学は美大という選択肢もありましたが、理系的な勉強も好きだったので、それを活かせた方が自分の身になるかなと思い、デザイン工学部を選択しました。――大学の卒業制作では、どんなことに取り組みましたか?卒業制作は「Embodied Web」という作品です。日常の中でブックマークだけしてそのままにしているサイトやレシピ、情報ってありますよね。それらはあとで見ようと思っていても忘れてしまって形のないものになってしまっていますが、身体性を失っているというところにフォーカスし、あえてその情報を印刷するという作品にしました。印刷すると、それを見ながら友達と一緒に喋ったり、自分の目につく冷蔵庫やデスクに貼りたくなったり、いままで形を失っていた情報を改めて形にすることで、新しい文脈をつくろう、情報を使ってあげられる形にしようと考えました。――たしかに「いいね」だけして忘れてしまう情報は多いですよね。学生時代はコンペに応募することも多かったのでしょうか?1年生の頃から頻繁に応募していました。「登竜門」などで自分が出せそうなコンペがないか2ヶ月に1度はチェックしていたくらいです。1年生の頃は、自分がどういうデザインをやりたいか決まっていなかったので、とにかくいろんなジャンルに応募してみて自分にフィットするものを探るという目的もありました。家庭環境の問題を持つ、少年少女への自立支援サービス「第3の家族」――では、今回最優秀賞を受賞した「第3の家族」について教えてください。具体的にどんなプロジェクトなのでしょうか?既存制度の支援対象に該当しないグレーゾーンで悩んでいる少年少女に対し、自分の居場所を見つけるための情報や機会を提供することが目的の自立支援サービスで、少年少女の自立に向けた「第3の存在」になることを目指しています。具体的には、悩みに対処する方法や、同じような経験者の声がわかる情報サイト「nigeruno」、家庭環境に悩む人のための掲示板「gedokun」、家庭環境問題のリアルな実情をまとめたデータサイト「家庭環境白書」の3つのサービスを運営しています。奥村さんが主宰する3つのサービス ――プロジェクトに行き着いたきっかけを教えてください。このプロジェクトは自身の経験からはじまったもので、自分もこういうものがほしかったというところからスタートしました。最初は2021年の3月に「gedokun」の前身となる掲示板をはじめたのですが、利用者からも「つくってくれてありがとう。救われた」という声もいただいたのが嬉しくて。2022年の5月に「nigeruno」と「家庭環境白書」をリリースし、2023年4月には法人化しました。どんどん活動の幅が広がっています。――実際にプロジェクトをはじめたことで気づきはありますか?私自身もこういった問題を一人で抱えていたので、まず自分と同じ人がいるんだと思うとほっとしたり、環境は違うけれど遠くに同じような仲間がいるんだと思うと心強かったり。同時に、本当にさまざまな悩みがたくさん集まるので、こんなに苦しんでいる人がいるんだと問題の多様性をすごく感じました。いろいろと便利になっている世の中でも、解決されない問題ってやっぱりあるんだろうと感じています。あくまで中立な存在でいたい――「第3の家族」のサイトに掲載されているコピーの“自分の居場所は他にもある”という一文が、特にほっとさせてくれるような気がします。ありがとうございます。こういう問題は正解・不正解があるものでもないし、親も親で愛情を持ってやっているところもあると思うんです。だから何かを否定するつもりではやっていなくて、正解・不正解がない領域だけど、「家庭という居場所もあるけど、もっと他の居場所もあるよ」と思ってもらいたい。決して家庭を否定しているわけではないんです。あくまで中立的な存在でいたいので、こういった支援サービスにありがちな弱者支援のようにならないようにしたいと思っています。弱い人を私たちが助けてあげているというような上下関係はつくりたくないんです。それは自分が当事者だったら嫌だなと思うし、逆に寄り添いすぎても「問題は簡単に解決しないんだよ」と反発する気持ちも生まれてしまいそうなので、できるだけ中立な立場で、少年少女が自分1人で解決に近づけるような状態をつくれたらと考えています。積極的に介入するよりは情報提供や逃げ場を用意することで、自分で解決することを促したいという想いがあります。――自分で解決に持っていくことが大事なのですね。もちろん大人が介入した方が解決できるし、早いとは思うんです。でも、子どもとしても大ごとにはしたくない気持ちもあって。辛いけれど家庭自体は壊したくはないとか、そういう複雑な思いを持っている子も多いと思うんです。だから、自分1人でなんとかできるような情報を提供できたらと。――プロジェクトを進めるにあたって、どんな課題がありましたか?やはり、根本的な解決をするのはやっぱり難しいということですね。何が正解というわけでもないし、じゃあ親を変えればいいという話でもなく……。ただ、最悪な状態はつくってはいけないなとは思っています。いまのプロジェクトの形が正しいとも思っていなくて、そこは日々模索中です。世の中の制度が十分ではないからはじめたプロジェクトなので、続けながら常に疑問を持ち、改善していきたいと思っています。
2023年5月10日(水)
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少年少女の自立に向けた「第3の存在」を目指して―グッドデザイン・ニューホープ賞最優秀賞(2)

サービスの内容や目的に合わせて、デザインを柔軟に変化――サービスで特にこだわっているポイントはどのような点ですか?「自分一人で解決に近づけるようにする」という点です。大人の介入を待たなくても自分で支援などを使えるように、わかりやすく発信したり経験者の口コミも載せたり、支援も向き不向きがあるからそれを事前に伝えておいてあげるように心がけています。そうして、一人でもなんとかなるような状態をつくってあげる。サービスは違ってもそこは全部共通しています。結果的にどうするかは本人たちに任せたい。やっぱり親子だから時間が経てば解決することもあるし、他人から見たらいびつな親子関係でも結構幸せに暮らしている子もいるから、そこは私たちが介入するべきではないと思っています。いまだといろいろな団体や留学制度もあるから、それを知ってもらうことは必要です。最後は自分でしっかり意思を決めてもらいたいけど、いろんな解決策や道があることを知ってほしいと思っています。――デザイン面で特に工夫しているところはありますか?サービスによって変えています。「gedokun」や「nigeruno」は当人向けのサービスなので、内容的に辛いことも多いから読んでいて辛くないようにできるだけ優しいトーンで。「家庭環境白書」は幅広い人に見てもらいたいサイトでもあるので、センチメンタルに情を訴える感じではなく公の感じ、より中立的な感じを目指しています。gedokun サービス画面  実は今回、同じくニューホープ賞の受賞者である2名のデザイナーに依頼し、新たに「第3の家族」のグラフィックとロゴをつくってもらったんです。第3の家族 新しくなったロゴ(作成:山岸奏大) グラフィックのほうは、団体のビジョンを比喩的に間接的にグラフィックで表現してもらうよう依頼しました。こういう問題はストレートに伝わるより、比喩的なイラストで逆に考えさせられるようにするといいかなと。「家庭環境白書」についても、もっとイラストで見てわかりやすいような、シンプルなテイストにブラッシュアップしたいです。全体的に、団体の色が出すぎない、寄り添いすぎないようなイメージです。第3の家族 グラフィック(作成:三島うみ) 人との繋がりが生まれる温かい賞。後押しが大きく羽ばたくきっかけに――ではあらためて、今回、グッドデザイン・ニューホープ賞を知ったきっかけや応募理由について教えてください。学生時代に所属していたデザインサークルの同期から教えてもらいました。その時は社会人1年目でしたが、卒業後久しぶりのコンペへの応募で、自分の中でもかなり力を注いだと思います。学生時代は掛け持ちしながら応募することもありましたが、今回は1つに絞ってかなり集中しました。これまでで一番時間をかけたかもしれません。プロジェクト自体はすでに動いていたので、資料をまとめる作業に時間を費やし、約1ヶ月仕事と両立しながら進めていきました。プレゼン内容も練りに練って、何回も練習。あとは審査委員の方々を分析して、賞の目的や評価ポイントも自分なりに探りました。――意識した点を教えてください。若者らしさ、熱意、アイデアの点をアピールしました。私たちはまだ若いし、堂々と完璧に話すことよりも、等身大で、熱意とアイデアがしっかり伝わることに重きを置いたプレゼンを意識しました。最終審査会での奥村さんのプレゼン風景 ――受賞後にあった受賞者向けのプログラムは、建築家の内藤廣さんによる街づくりを学ぶツアーや原田祐馬さんによるワークショップなどかなり豪華なものが並びますが、特に印象に残っていることはありますか?どのプログラムも三者三様で、学校でも習わなかったような分野をプロに教えてもらえ貴重な機会でした。学生時代はデザインに関してはいろいろと学びましたが、建築は勉強したことがなかったので、こういう視点で見るんだとか、物の見方を勉強できたのはおもしろかったです。またワークショップでは純粋にデザインやつくることを楽しむ感覚、大学1年生のときのような懐かしい感覚を思い出しました。受賞者向けプログラムである、内藤廣さんによる街づくりを学ぶツアー開催時の様子 ――最優秀賞を受賞した時はどんな気持ちでしたか?いろいろな感情が出てきました。嬉しい気持ちも、びっくりした気持ちもあります。でもどこかで受賞できるかもしれないと自信があったところも。プロジェクトには自信がありつつ、最後の最優秀賞はすべての分野をまたぐことになるので、建築、プロダクト、UIなどを並べてどう評価するのかなと思って。だから、受賞できて本当に嬉しかったです。――プロジェクトが最優秀賞を受賞した際、審査委員やユーザーからの反響はありましたか?反響としては大きく2つあります。大人との繋がりが増えたことと、同期との繋がりが増えたことです。個人活動だったプロジェクトが、受賞を機に後押ししてもらったことで、企業や大きな団体からも声をかけていただけるようになりました。まだまだこれからですが、社会的な信頼を得ることができたのは本当に大きなことだなと思います。肩書きが重要かと言われると、そう思わない部分もありますが、仕事をする上で必要だと感じる部分もあって。さらに、社会的にも認知度の高いグッドデザイン賞に関連した賞ということで、大人や企業も安心してもらえるんだろうなと痛感しました。この賞ができたことで、若いアイデアや若い種も応援してもらいやすくなっただろうし、審査委員の方々もとても気にかけてくださったり、いろいろな方と話す機会もくださったり、親身になって応援してくれているのを感じます。また、同期の繋がりの部分ではさきほど話した「第3の家族」のロゴ・グラフィックでのコラボはもちろん、優秀賞を受賞した「葬想式」の株式会社むじょうとも仲良くなりまして、デザイナーとして参加しています。このようなコラボレーションが生まれることもニューホープ賞の強みだと思います。奥村さんがデザインした「葬想式」のビジュアル いままでいろいろなコンペに応募したり、インターンに参加したりしましたが、今回ほど人との繋がりでてきたことはなくて、とても温かい賞だなと。こんなにいい環境はないし、なかなかこういった賞はありません。子どもの自死がなくなる世の中を目指して――今後の展望を教えてください。数字的、具体的な目標でいうと、子どもの自死を減らすことに貢献できたらと思っています。子どもの自死の理由は約20%が家庭環境によるものだといわれていて、いじめなどは3%くらい。生きている間に20%から5%にするのが理想。それを目指しながら、このプロジェクトはずっと続けていくつもりです。それでも、どうなるかわからなくていまが正解の形だとも思っていないから、これからもどんどん改善しながらさまざまな形を模索して進んでいきたい。最終的に家庭不和などによる自死がなくなればいいなと思います。またNPO法人にもなるのでこれから一緒に頑張ってくれるスタッフも増やしていきたいと思っています。――最後に、現在応募を考えている方に向けてメッセージをお願いします。迷っているなら、絶対応募した方がいいと思います。まとめる過程が自分のプロジェクトに対する気づきにもなるかもしれないですし。コンペは、審査委員やその時のテーマなどによって運もあると思います。だからそこは気楽に考えて身構えず、まずはチャレンジしてもらいたいです。グッドデザイン・ニューホープ賞https://newhope.g-mark.org/
2023年5月9日(火)
インタビュー
広島市立大学

ただ 『つくる』 ことが好きだった少女が、自分だけの強みを見つけてデザイナーになるまで(後編)

「デザインに興味はあるけど、どんな進学先があるんだろう?」「美大を卒業した後の就職先って?」漠然と将来に不安を感じることってありますよね。そこで「デザインノトビラ」では美大・デザイン系学校を卒業した若手クリエイターを取材。クリエイターの体験談を通して、皆さんの進学先の先にある仕事を考えるためのヒントを探ります!前編では、2022年から自動車メーカーのマツダ株式会社でデザイナーとして働く富田菜月さんに、進学の道のりや大学で学んだことについて伺いました。今回の後編では、マツダに就職するまでの経緯や、大学で学んだことをどのように仕事に生かしているか語っていただきました波乱の就職活動の中、本当に自分のやりたいことが見えた――サークルも学業も充実した学生生活を送っていたとのことですが、就職活動はいかがでしたか?なかなか波乱の道のりでした……。大学3年でドイツに留学する予定だったのですが、コロナ禍によって断念。それなら大学院に進学してから留学に再チャレンジしよう。そう思ったのですが、「本当にそれでいいのかな?」と思い始めてしまって。富田 菜月さん 2022年、広島市立大学デザイン工芸学科立体造形専攻を卒業。同年、マツダ株式会社に新卒入社。現在デザイン本部ブランドスタイル統括部にて活躍中。大学時代は軽音楽部に所属し、現在もギターとベースをたしなむ。 ――それはどうしてですか?コロナによってなかなか学生生活を満足に送ることができず、目標だったドイツ留学も諦めることになって、大学院進学.......。全部コロナによって自分の将来が左右されているなと感じたんです。それが悔しくて、「なにくそ!」という気持ちが沸々と湧いてきて(笑)。それで自分の力で進路を切り拓こうと、4年生のタイミングで就活することを決心しました。――職種はやはり、デザイン系を志望していたんでしょうか。そうですね。デザイン系を中心に見ていたのですが、4年生の時期だとデザイン系職種って新卒採用を締め切っている会社がほとんどなんですよね。やっとの思いで募集を見つけても中途のみの採用だったりして、途方に暮れました。大学4年生の頃、ゼミでの地域課題解決を目指したプロジェクトに取り組む富田さん(左)。仲間と制作に全力で取り組みつつも、将来には迷いを持っていた。 ――そうなんですね……。それからどうされたのですか?改めて自分が本当にやりたいことについて考えてみたんです。今の私に一番必要なこと。それは、造形美だけでなく機能美も意識したデザインをできるようになること。実はドイツに留学したかったのも、車や文房具などプロダクトが強い国で機能美について学びたかったからなんです。大学では造形の美しさのほうにこだわりを持って創作したからこそ、次は機能的で洗練されたデザインスキルも身につけたい。そんな思いがあって、機能美について学べる会社を探そうと思いました。――そこで思い浮かんだのが、地元・広島のマツダだったんですね。はい。実は立体造形専攻には広島市立大学とマツダの「共創ゼミ」があって、私はそのゼミ生でした。週に1回マツダのトップデザイナーにプロダクトデザインの講義に来ていただいて、一緒に課題を進めていく。そんな活動を通して、造形美だけでなく機能も考慮したデザインの重要性について学びました。だからこそ、就職して機能美について学ぶならマツダしかないと思いましたね。株式会社マツダは広島県広島市に本拠地を置く自動車メーカーで、2020年に創立100年を迎えた。「魂を吹き込む。命を与える。思想を実現する。」という哲学のもと、カーデザインをしている。 ――ということは、車のデザイナーを志望されたのですか?最初はそのつもりでした。しかし、私のポートフォリオを見たマツダの方から「富田さんはストーリーを考えてものを作るのが得意だから、車に関わるデザインよりもブランディングのほうが合っているんじゃない?」と言っていただいて。そこでマツダには「ブランドスタイル統括部」というブランドの魅力や価値を外部に発信する部署があることを知りました。自分の強みを活かしながら、マツダが長年培ってきた機能的なデザインに関するノウハウも学べる。こんなに最高な環境はないと思いましたね。何度も選考プレゼンを行い、心が折れそうになった時もありましたが、無事内定をいただけて心の底からホッとしました。大学で培った“伝える”力で、多くの人にブランドの魅力を発信――現在マツダのデザイン本部ブランドスタイル統括部にお勤めとのことですが、改めてお仕事内容について教えてください。ブランドスタイル統括部は、あらゆるお客様とのタッチポイントの姿をデザインしてブランド価値を伝える部署。店舗やWEB、映像、またグッズの制作によって、マツダというブランドの魅力や価値を人々に伝えていくのが私たちの仕事です。地元の老舗和菓子店とコラボした「にしき堂×MAZDA 特製饅頭&もみじ詰合せ」。饅頭のパッケージはマツダ車を彷彿とさせる赤、焼印にはロードスターをはじめとしたマツダの歴代名車があしらわれている。また、広島の名所をカードにデザインして同梱。富田さんはカード、シール、焼印のデザインを担当した。  ――大学で学んだことが仕事に活かされていると感じる瞬間はありますか?大学時代は作品そのもののクオリティだけでなく、その作品が見る人にどのように伝わるのかまで考えながら制作していました。照明の当て方、プレゼン資料の作り方、発表での語り方……あらゆる方法を使って「伝わる形」を模索する。その経験がマツダの魅力を最適な形で伝える今の仕事にものすごく生きているなと感じています。マツダというブランドに共感してもらえるようなストーリーを、いろんな施策を通して発信していきたいですね。自分の強みを伸ばしつつ、周りの先輩方から吸収できることはとことん吸収しながらデザイナーとしてのスキルを磨いていけたらと思います!――最後に、デザイン系の学校への進学を検討している方々にメッセージをお願いします!「ここ面白そうかも!」と少しでも思ったら、話を聞きにいったり調べてみてください!デザイン系の大学も職業も、わかりやすく道が拓かれていないことが多いです。だからこそ、自らアクションを起こして情報をつかみにいくことが大事になってきます。自分の直感に正直に、興味が出たら迷わず突き進んでほしいと思います!美大・デザイン系学校で楽しむには、まず自らアクション!(広島市立大学 ライブの様子) 執筆:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 取材・編集:猪瀬香織(JDN)
2023年4月27日(木)
インタビュー
広島市立大学

ただ 『つくる』 ことが好きだった少女が、自分だけの強みを見つけてデザイナーになるまで(前編)

「デザインに興味はあるけど、どんな進学先があるんだろう?」「美大を卒業した後の就職先って?」あまり情報がなく、漠然と将来に不安を感じることってありますよね。そこで「デザインノトビラ」では美大・デザイン系学校を卒業した若手クリエイターを取材。クリエイターの体験談を通して、皆さんの進学先の先にある仕事を考えるためのヒントを探ります!2回に分けてお届けする本記事の前編では、2022年から自動車メーカーのマツダ株式会社でデザイナーとして働きはじめた富田菜月さんに、幼少期から美術系大学進学までの道のり、充実した大学生活について伺いました!一番やりたいことを考えたら、やっぱり『つくる』ことだった――美術系の学科に進学し、現在マツダに勤められている富田さんですが、小さい頃はどんなお子さんでしたか?小さい頃から絵を描いたり粘土で遊んだり、とにかく何かを作ることが大好きな子どもでしたね。どちらかというと立体を作ることのほうが得意だったと思います。富田 菜月さん 2022年、広島市立大学デザイン工芸学科立体造形専攻を卒業。同年、マツダ株式会社に新卒入社し現在はデザイン本部ブランドスタイル統括部にて活躍中。大学時代は軽音楽部に所属し、現在もギターとベースをたしなむ。 ――やはり昔からものづくりが好きなお子さんだったんですね。高校生の時も美術への関心は高かったんですか?昔から絵を描くことが好きだったものの、特にその道を極めようとは思ってなかったんです。なので高校も美術系の学科があるところではなく、普通科の高校に進学しました。美術部にも入らず帰宅部として漠然と高校生活を送っていると、気づいたら高2の夏になってしまって……(笑)。――高2……そろそろ進路について考え始める時期ですよね。そうなんです。当時の担任の先生にも「何かしたいことはないの?」と聞かれ、もう進路を考え始めないといけないんだとハッとしました。そこで改めて「自分のやりたいことって何だろう?」と考えてみると、最初に浮かんだのがデザインだったんです。それから本格的にデザイン系の大学を目指そうと、美術部や画塾に入って入試対策を始めました。小さい頃からものづくりが好きだった富田さん。大学、就職とデザインの道を進むことになる。(写真は大学入学後、専攻を選ぶための体験課題で陶器のコップを作る富田さんと同級生) ――進学先に広島市立大学のデザイン工芸学科を選んだ理由は何だったのですか?県内でデザイン系の大学を探していた時に、先生に紹介してもらったのが広島市立大学を知ったきっかけです。一度どんな大学なのか見てみようと文化祭に行ったら、本当に楽しくて……!特に軽音楽部のライブがすごい盛り上がりで、キラキラした表情で舞台に立つ先輩たちを見て、一気に心をつかまれちゃいました。また、展示されていたデザイン工芸学科の卒業制作もクオリティが高く、高校生ながら圧倒されたのを覚えています。この大学なら学業もサークル活動も、充実した学生生活が送れると感じたことが一番の決め手でしたね。自由な発想で創作活動に励んだ大学生活――受験を経て憧れの大学に入学した富田さんですが、4年間通ってみていかがでしたか?軽音楽部と学業、どちらも全力でやり抜いた4年間でした。軽音楽部では5つくらいバンドをかけもちしながら、毎日スタジオで練習してました(笑)。――5つもですか!学業に支障はなかったですか?高校とは違って課題を提出するまでの時間の使い方は本人の自由なので、うまく時間を調整して学業と部活動を両立できるようにがんばりました。軽音楽部とはいえ、楽器の練習だけでなく、グッズやTシャツのデザインなど、ものづくりにもこだわって活動していました。文化祭で見たライブに憧れた富田さんは、入学後に自身も軽音部で大活躍。 ――授業ではデザインの基礎を学びつつ、サークルでは創造性を発揮しながら創作する。ものづくりが好きな人にはもってこいの環境だったんですね。そうですね。授業でいうと、広島市立大学のデザイン工芸学科は出される課題が特徴的で、学生の想像力に委ねるテーマがとても多いんです。例えば『魔法の灯』というテーマでプロダクト課題が出されたこともありました。――すごく抽象的なテーマですね……。抽象的だからこそ、自由に発想できることに楽しさを感じていました。テーマに沿ってストーリーを考えながら、素材やデザインに意味を持たせることでプロダクトの世界観を一から作り上げる。そんな力を養うことができたと思います。実は、立体造形を専攻したのも、幅広く発想しながらものづくりをしたかったからなんです。卒業制作で取り組んだ竹素材の照明。さまざまな素材の中からプロダクトのストーリーに最適なものを選べることは、立体造形専攻の魅力の一つだという。 ――そうなんですね。立体造形はどのような専攻なのでしょうか?基本的に工芸は、金属や染織のようにあらかじめ素材が決められていることが多い分野です。だけど、私はそこに違和感があって。テーマや目的によって最適な素材は変わるはず。それなのに素材が限定されてしまうのはどうなのだろう?って。もちろん、一つの素材でものづくりを極めることは素晴らしいと思います。そんな人を尊敬しています。でも、私は素材選びも含めてストーリーを考えたかったんです。その点、立体造形は立体であればなんでもOK。私がやりたいものづくりのスタイルにぴったりな専攻だと思いました。絵本制作の課題に取り組んだときの様子 大学祭のカフェで配布するフライヤー用の写真を撮影。グループ課題として取り組んだカフェの企画運営で、建築からメニュー料理まで全てをプロデュース。富田さんはヴィジュアル面を担当した。 ――選択肢の幅が広い分、どの素材が最適か選ぶのも難しいのではないですか?確かにおっしゃる通りです。なので、選択に迷った時はデザイン工芸学科の他の専攻の友人にアドバイスをもらうようにしています。違う専攻同士の距離感が近いところがこの学科の魅力の一つ。金属造形や染織造形、漆造形など一つの素材を極めた人たちの脳みそを借りながら、最適な素材を選んでいきます。また、途中で専攻を変えることができるのも、この学科ならではの特徴かもしれません。デザインには興味あるけど、何から始めてみればいいかわからない。そんな人も自分のやりたいことを見つけやすい学科だと思います。執筆:濱田あゆみ(ランニングホームラン) 取材・編集:猪瀬香織(JDN)
2023年4月21日(金)