神社仏閣などの歴史的遺産と、豊かな自然環境が調和する日本有数の観光地である鎌倉は、近年、観光客や地元住民にとって新たな魅力となる場の必要性があると感じる。本研究では鎌倉市が所有する未活用の国登録有形文化財「旧鎌倉市長谷子ども会館」の利活用を伴う再生計画として、「日々の生活の一部として自然に融け込み、暮らしに馴染む空間」をコンセプトに、複合施設『融暮時 yu- gure doki』を提案する。
既存の文化財建物と点在する増築部分を帯状の屋根により繋げることで、施設全体は緩やかに一体感のある空間となる。文化財建物は宿泊施設のフロントとギャラリーに再生し、増築部分は宿泊施設、カフェ、雑貨ショップ、キッズルーム、宿泊者専用ラウンジを配置した。外観は周囲の自然景観が施設に融け入るようにガラス張りとし、木材を多く用いることで柔らかく温かみのある空間とした。
「融暮時」の存在が鎌倉の新しい魅力を引き出し、多くの人に愛されるまちづくりの象徴となることを期待するとともに、本研究が我が国における未活用の文化財の価値を見直すきっかけとなり、全国の地域活性化や文化財の保全活動に繋がることを願う。