本研究は、近代および現代日本における「工芸」概念の成立と「工芸」概念の複雑さ・曖昧さに焦点を当て、「工芸」に関する展覧会の分析を通してその時代の「工芸」観を読み取り、今後の「工芸」の発展を考察するものである。明治期に「美術」と「工業」の中間領域として発生した「工芸」は、「美術」の周縁に位置づけられ、その定義が曖昧なまま現代に至るまで続いてきた。筆者はこれまで曖昧な「工芸」の概念そのものや、その領域を横断する方法に着目し研究してきた。本研究で用いている括弧付きの「工芸」については、「制度的な工芸史に基づくものであり、実際の作品やつくる行為そのものというよりも、もっと広範な意味で、工芸の『概念』や『定義』、『領域』を指すもの」、加えて、「1920年代前後から登場した個人作家的な意識を持って制作された『美術工芸』」と規定した。本研究は主に2つの分野の先行研究を参照しており、それらを踏まえてケーススタディの分析を行うという論文構成になっている。
KANABIクリエイティブ賞2023 卒業・修了制作部門 学長賞