本論文では、2000年代に少なからぬムーブメントを巻き起こした平成仮面ライダーシリーズを研究対象としました。
本論文の目的はシリーズの初期作品たちを手掛けた井上敏樹の行った仕事と特性を明らかにすることです。シリーズ作品における怪人やヒーローの記述の仕方を比較していくことで、井上がシリーズにおいて果たした影響力や仕事を詳らかにし、彼の特性についても結論付けました。
第2章では主に、怪人とヒーローの記述の仕方を見ることで、井上の作品での「ヒーローの特権性」が廃されていることを指摘しました。しかし、この記述の行い方は井上以外が手掛けたシリーズ作品で度々反復されるため、井上の仕事の一つとは呼べるが特性と呼ぶことはできません。
第3章では、井上以外の作家の作品を分析していくことで、井上の手掛ける作品の特性が「規定を緩やかに受け入れるキャラクター」という点にあることを証明しました。
第4章では、ミハイル・バフチンの提唱した「ポリフォニー」という概念を用いて井上の特性を検討していきました。ここでは、井上はキャラクターたちを制作者の想像の範疇に留まらない自立した存在として扱う「ポリフォニー」を行っている、という結論に達しました。