[最優秀賞]
「よい」論文は、独自の着眼点。これを裏付けてくれる歴とした資料。そして思想を具現化するための堅実な検証の積み重ねを備えている。栃木県日光市瀬尾地区における里修験の廃絶と、その後を研究した本論文は、上記要素が揃う好例である。
論文では、里修験の廃絶を今に繋がる地域社会の変化の中に置き、時代を追って論が展開される。結果、成果は単なる地域史や宗教史、あるいは民俗学といった枠組みを超え、現代社会論や文化論にも及び、それが論文の独自性になっている。これを可能にしたのは偏に著者の問題意識だが、文献資料(歴史・民俗)・聞き取り調査・現地踏査・映像資料・金石文などの多種多様の資料の駆使と、各資料のコラボレーションがこれを形にしている。
そうした意味では、本論文の手法は、歴史遺産学科での学びの持つ可能性の広がりを示すものとなっている。筆者は今後も地域研究を続けていくようだが、今後の成⾧が楽しみである。