[最優秀賞]
もっとゆったりと生きられれば。
大量にモノが生まれ、絶え間なくコトが起こり、目まぐるしく変化する現代社会にどこか違和感を覚えていたのだろう。人のためになるモノづくりに価値を感じてはいたが、いわゆるマスプロダクトへの評価は低く、しかし、アート的な自己表現に特化したモノにも価値を感じない。彼女のクリエーションは、一点物が暮らしの一部となり、心温まる時間を作ることから始まった。
「雲に乗る」という幼少期に描く夢をデザインに取り入れつつ、自身が持つマスプロダクトへの評価を逆手に取り、あえて土台として使用しオリジナルニットで包み込んでいく。独特な手法によって染め上げられた糸を用いて編み込まれた本作は、優しくも楽しげな椅子に仕上がった。雲を彷彿とさせる独特なフォルムに合わせて緻密に計算された編み地は、美しさと耐久性、双方の強度も演出してくれている。
モノが溢れる時代に生み出す価値ある創造は、必ずしも全てを自分の力のみで行う必要はない。現代だからこそできるクリエーションへとたどり着いた。