[最優秀賞]
画面に配された大小の形。その一つ一つに精細さや荒々しさが渾然一体となった有機的な世界が広がっている。成田舞衣は銅版を自在に切り取り、そこに腐食や鉄筆による描画など銅版画に於けるあらゆる技法を駆使しイメージを刻み込む。しかしこの行為は彼女にとって制作過程での一つのプロセスであり、銅版を配置しプレス機を通して一枚の紙にその痕跡を刷り取る事で完成に至るまでの出発点に過ぎない。版を完成させた後の無限とも言える版の組み合わせや構図に挑む時間こそが重要で、ここから作者と己の精神世界との対話が始まる。
儚く微睡に包まれる様な夢と現実の狭間の世界が刻まれ居場所を得た銅版達。そして銅版の枠を飛び越えた先にある場所。世界と世界の隙間、すなわち紙の余白。これは儚い夢と現実、そして作者と見手を結ぶ余地であり、夢の余韻である。
銅版画でしか出来ないマチエールと思考が融合し非常に優れた作品となった。