[最優秀賞]
アニメやフィギュアというポップカルチャーを絵画や彫刻に落とし込むという90年代の流れは、美術史における未開地を開拓するという事であったが、新しい世代では自己表現の自然な表象として立ち現れているといえる。
作品は、自然から感じるものや思い出が姿を変えたものだと彼女はいう。それは記号化されたキャラクター表現ではなく、流動的で抽象的なものにアプローチしようとしているという事だ。
彼女は職人のような真摯な態度で毎日のように木と向き合い、対話しながら形を起こしていく。その光景は仏師と大きな差はない。そして同時に、道草しながら散歩するようにしなやかに制作もする。絵筆のタッチのようなリズミカルなノミ跡、淡い着彩や異素材との組み合わせによって、木という素材の持つ豊かな存在の中に、流動的な絵画性を丁寧に混ぜあわせていく。硬さと柔らかさの積み重ねの中で紡がれたその人間像は、風景や詩のような抽象性を獲得し、個人の思い出を超えて多くの人の記憶と繋がりうるであろう。